第137話 先生と一緒に迷宮を潜る

 宮川先生の車で川崎駅まで来た。

 迷宮近くの公立駐車場に駐める。

 平日だからわりと空いているね。


「ワ、ワクワクするわっ」


 竹宮先生が弾んだ声で言った。


「先生方は迷宮には?」

「行った事は無い」

「私も無いわ」

「ニュースで見るだけだね」


 まあ、一般の大人の反応としてはそんなもんだろうな。


 注意点を喋りながらエスカレーターを上がって、二階の迷宮広場に行った。


「あ、タカシくんだ、タカシくーんっ」

「デイシューくんも居る、今日も素敵に足軽だわっ」

「あ、東海林君だっ」


 余所のパーティの女の子にキャーキャー言われた。

 宮川先生は俺たちを見た。


「やっぱり人気者なんだなあ」

「いえ、その、京都でマイケルと戦いましたので」

「凄かったわね、本当に神様っているのねえ」

「いろいろ科学的に研究してみたい所ですね」


 うん、研究は自分の体験でやって下さいね、望月先生。


 先生方と一緒に地獄門をくぐる。

 ちょっと温度が下がり、独特の硫黄くささが漂う。


「へー、ここがロビーかあ、思ったより広いんだね」

「あら、タカシさんいらっしゃい、狩りですか?」


 顔見知りの女悪魔さんが挨拶をしてきた。

 くるくるパーマの羊角のおねえさんだ。


「今日は学校の先生を連れて来たんだ、Dチューバーデビューするって」

「あら、そうですか、歓迎しますわ」

「あ、ああ、どうも」

「ありがとうございます」

「うわあ、綺麗な人だなあ」


 望月先生、とろけないでくださいよ。

 先生方を連れて、インフォメーションでDチューバー登録をする。

 これはしなくてもダンジョン内に入ると勝手にIDは貰えるのだけど、先に申請しておくと後々楽なんだね。


「はい、Dスマホはございますか」

「は、はい、スマホはDです」


 宮川先生と、竹宮先生、望月先生がスマホを女悪魔さんに差し出した。

 ピッピッピと端末に番号を打ち込んでDチューバー登録は終わった。


「パーティ登録はいかがいたしますか?」

「そうだね、三人でパーティにしようか」

「そうですね宮川先生」

「パーティ名はどういたしましょう」

「「「うーん」」」

「『臨海第三ティーチャーズ』でどうですか?」

「そうだね、山南君、良い名前だ」

「『ティーチャーズ』の方が短くて良いのでは?」

「あ、札幌の学校の先生のパーティで『ティーチャーズ』がございます」

「それは取られるよね。よし、『臨海第三ティーチャーズ』で一つ。名前はいつでも変えられるんだよね」

「はい、インフォメーションで変えられますよ」


 とりあえず、先生方のパーティ名は『臨海第三ティーチャーズ』となった。

 女悪魔さんが端末をタタンと叩いて登録してくれた。


「なんだか、名前が決まると、やるぞー、という気になるね」

「そうですね、宮川先生」

「冒険の始まりですね、なんだか初めてファミコンをやった時のようにワクワクします」


 先生たちは楽しそうだな。

 良かった良かった。


 階段を下りて二階のレストラン街に入る。


「おおっ、飲食街になっているのかあ」

「うわ、凄く高いですよ、宮川先生」

「僕のお給料だと入れないなあ」


 昨日入って美味しかったとは言いずらいね。

 泥舟と目配せをして肩をすくめた。


 さらに階段を下って三階へ。

 目の前に草原と青空が広がる。


「「「うわあっ」」」

「これはどうなっているんだい、完全に野外だが」

「空は幻影で、二キロメートル四方の草原になってます、端まで行くと反対側からでてきますよ」

「わあ、すごいすごい、草原よ」

「とんでもない世界だなあ、へー」


 先生方がきょろきょろしていた。

 一応動き易い格好と言ったら、みんな学校指定のジャージを着てきたのだった。

 泥舟と東海林と手伝って、装備を付けていく。

 竹宮先生がいるから女子を一人連れてくればよかったな。

 望月先生に魔銃のガンベルトを付けて貰う。


「ず、ずっしりしてるね」

「銃も弓矢も危ないので人には向けないでくださいね」


 ふよふよと、リボンちゃんと、三つ編みちゃん、マリリンがやってきた。

 後ろに三人の新しいカメラピクシーがいた。


「わ、この子たちは?」

「迷宮内で僕らを撮してくれるカメラピクシーたちです」


 宮川先生にはショートカットのピクシー、竹宮先生にはちょっとぽっちゃりした巻き毛のピクシー、望月先生にはロングで綺麗な感じのピクシーがついた。


「わああ、よろしくねえ」

「わ、可愛い、撫でても大丈夫?」

「嫌な事をすると逃げますので、逃げなければ大丈夫です」


 竹宮せんせいは巻き毛ちゃんの頭をなでなでした。


「わああ、よろしくねえ、巻き毛ちゃん」


 巻き毛ちゃんは小さくうなずいてカメラを構えた。


「このピクシーさんは毎回同じ子が付くのかい」

「そうですね、昨日難波で潜ってもリボンちゃんがきました」


 リボンちゃんは胸を張ってサムズアップした。


「不思議ねえ、どういう仕組みかしら」


 俺は手首のコメントチェッカーのボタンをおした。


『お、『Dリンクス』今日も狩りか』

「いえ、今日は学校の先生の付き添いです」

『先生もDチューバーになる時代かあ、そりゃそうだよなあ』

『わあ、三人の先生、女の先生もいるわね』


 宮川先生がコメントを見て目をまるくしていた。


「これは?」

「今、配信を見てくれているリスナーのコメントですよ。スマホでも見れます」


 先生がたがスマホで動画アプリを開いた。


「同接数、三人、あ、五人になった」

「泥舟、『一時パーティ登録』をしよう、東海林も」

「ああ、そうだね」


 俺たちは、『Dリンクス』と『臨海第三ティーチャーズ』と『オーバーザレインボー』を一時登録して統合させた。

 同接数は三千ぐらいかな。


「その手首のウインドウツール良いわね、売ってるのかしら?」

「一階の売店で売ってますよ、そんなに高くありません」

「帰りに買いましょう、竹宮先生」

「いいですねえ」


『今日は学校の先生のデビュー配信かあ、いいねえ『Dリンクス』と『オーバーザレインボー』のメンバーに連れてきて貰えるなんて、贅沢だなあ』

『『ホワッツマイケル』は攻めてこないだろうな』

『昨日の今日で来ないだろう、みのりんは?』

「マリアさんとスタジオ入りしましたよ、鏡子ねえさんは護衛です」

『『『おおっ!! みのりんついにDアイドルデビューか』』』

『めでたいのう、余も、みのりんのアルバムを買うぞ』


 あ、余さんが来てるな。

 今日はあまり派手な配信にはならないけど楽しんでいってくださいよ。

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