第133話 真神降ろしの術式起動

「頼む」


 みのりとマリアさんの謡のメロディが変わった。


[真神降ろし起動要素確定]


 ドンドンドンとどこからか腹に響く打楽器が響いていく。

 空が光る。

 上空からとんでもない高収束なエネルギーの固まりが集まり始める。


[『浦波』に畏くもキクリヒメノミコト、顕現し来迎す。言祝げ言祝げ]


 空からえも言えない良い華の匂いが漂い、信じられないほど美しい女神が下りてきた。

 大きさは人間大だが、存在感が異常に高い。

 こちらを見てふわりと笑った。


『カマドちゃんからの最後のお願いで、三回だけ手助けしますわ、タカシくん』


 三回。

 今回で一回使ってしまったから、あと二回。


 使うなら。サッチャンと魔王か。


『では戦いましょう』


 キクリヒメノミコトは『浦波』にするりと潜り込んだ。

 頭の中に神権能の使い方が伝わってきた。

 赤金色の『浦波』が黄金色に輝き始める。


 時間が流れ始めた。


「[縁切]」


 俺は『浦波』を突き出し、[斑駒ふちこま]のエネルギー波に当てた。

 無数の組紐が虚空から現れて[斑駒ふちこま]を雁字搦めに括った。


 バチーン!


「なにいっ!! [斑駒ふちこま]、[斑駒ふちこま]だ、どうしたっ!! 『十柄』!!」

「[斑駒ふちこま]はくくった、もう使えない」

「な、なんだとっ!! 永久にかっ!!」

「それは……、しらん」

「ふざけんなっ!!」

「ふざけてんはあんたやっ!!」


 かーちゃんがマイケルの腰にメイスをぶち当てた。


「ぐあっ!!」


「きありあぁぁるうううっ!!」


 鏡子ねえさんが飛びこんで来て拳を三発撃ち込んだ。


 パンパパパパパン!!


「ぐぬっ!!」


 『十柄』の棟で【受け流し】をした。

 抜けて来た幻影の打撃はするりと【身かわし】で避ける。


 俺は前に出る。


「死ねっ、タカシー!! 【切り落とし】」


 俺は『浦波』で、【切り落とし】を受ける。

 神が降りた『浦波』なら、受けられる、と確信していた。


 ガチン!!


「ば、馬鹿な、レア武技が……」

「[縁切]」


 マイケルの【剣の素養】をくくる。

 無数の組紐がマイケルに巻き付き何かをくくった。

 とたんに、マイケルの動きが悪くなる。


「き、きさま、何をしたっ!!」

「【剣の素養】を封じた」

「スキルも封印できるというのかっ!!」

「そうみたいだ」


 焦った表情でマイケルは飛び退いた。


「ははは、タカシ上手いでっ!!」


 かーちゃんがメイスを振る。

 マイケルが【受け流し】を使うが精彩を欠いている。

 ベースの技が【剣の素養Lv8】から【大剣術Lv7】に移行したからだろう。


「きありありぅうぅうぅぅっ!!」

「じゅ、【縦横斬】!」


 鏡子ねえさんは光る格子状の斬撃を籠手で打ち落としながらステップを踏んで前にでる。

 俺も前に出る。


 歯がみしたマイケルは【跳躍】して逃げようとした。

 その足に『浦波』を当てる。


「[縁切]」


 マイケルの足に虚空から組紐が絡みつき、くくった。

 落下したマイケルはたたらを踏みながら、かーちゃんのメイスの攻撃を【受け流し】をした。


「お、おまえら、おまえらっ!! おい、誰か、誰か助けてくれっ!!」


 マイケルは『ホワッツマイケル』のメンバーに声をかけるが、だれも動こうとはしない。


 鏡子ねえさんが体をねじり、省略気味に必殺パンチを放った。


 ボギンッ!!


「ぎゃああっ!!」


 マイケルの左腕がねじ曲がった。


「いっくでー、伊達男!! 【輝く戦棍】シャイニングメイス!!」


 かーちゃんのレア武技がマイケルの右肩に当たり打ち砕いた。

 【身躱し】が掛かって軽減させたが、肉はちぎれ『十柄』が吹き飛んだ。


「がはっ、がはっ!!」


 マイケルは地面に倒れた。

 俺は姿勢を低くしてマイケルに接近する。

 膝で奴の体を押さえつけ、『暁』を振り上げる。


「このままお前の心臓に『暁』を差し込んで[浄化]をかけると魔力が消える。少なくともレベルダウンはすると思う。ひょっとするとレベル零に戻るかもしれない。どうする?」


 マイケルは恐怖の表情を浮かべた。

 心臓を刺されて死んでも、『ホワッツマイケル』であれば、『復活の珠』はあるだろう、だが、レベルを零にされたら、五年間積み上げた物が消えてしまう。

 取り返しがつかない。


「わ、わかった、俺の負けだ~~っ!! 『Dリンクス』の勝ちだ!!」


 わあっと野次馬が湧いた。

 ふう、あまり気を張っていたのでコメントリーダーを見て無かったが、コメントが滝のように流れている。


『『『『勝った~~~!!』』』』

『世界一を下しおった~~!!』

『良くやったぞ、それでこそタカシじゃ』


 お、余さんも来ていたか。


 俺は立ち上がって『暁』と『浦波』を天に掲げた。


『『『『『うおおおおおおっ!!』』』』』』

「「「「「うおおおおおおっ!!」」」」」」


 首を振りながら、『僧正ビショップ』のアルマがマイケルの近くに寄ってきた。


『『快癒エクストラヒール』』


 マイケルの傷がみるみる治って行く。


 戦闘が終わった。

 みのりとマリアさんが謡を止めた。


 『暁』から赤い光珠が、『金時の籠手』から黄色い光珠が、地面に落ちた『十柄』からオレンジ色の光珠が、それぞれ天に地に帰っていく。

 祭りが終わったような寂しさがあるな。


 『浦波』からキクリヒメノミコトさまが出て来た。


『あと二回ね』

「ありがとうございました、キクリヒメさま」

『お礼はカマドちゃんに言ってね、世界を三回救ったお礼ですからね』


 それは、凄い人だったんだな。


 俺は天に帰っていくキクリヒメさまを見送った。

 神様は、やっぱり凄いな。

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