第132話 マリア・カマチョは反乱す

「はっはっはっ、タカシもおばはんもっ、[斑駒ふちこま]でぶっころーすっ!! ヒューッ!」


 マイケルはそう言ってステップを決めて『十柄』を構えた。


 マリアさんの謡がピタリと止まった。

 みのりは謡続けている。


『マイケル……、[斑駒ふちこま]は……、駄目……』

『な、なんでだっ、何言ってんだ、マリア、お前は『ホワッツマイケル』の仲間だろうっ!!』

『観客が……、危ない……。タカシが避けたら……、死人が出る……』


 マイケルがハッとして野次馬を見渡した。

 確かにあの効果範囲と威力だと、巻き込まれたら死人が出る。

 鏡子ねえさんが生き残ったのは『金時の籠手』の真権能と相殺されたからだ。

 直撃すると即死の必殺権能だ。


『[斑駒ふちこま]を使うなら……、みのりんと一緒に謡を止める……』


 みのりは謡続けながら首を縦に振る。


 白衣を着たメガネの小柄な西洋人女性が前に出てきた。

 『教授プロフェッサー』の『錬金術師』のテレサ・ルエンゴさんか。


『マイケルー、[斑駒ふちこま]は禁止だ、一般人にまで被害が出たら、いくら本国でも日本に対して言い訳ができない』

『だ、だけどよ、テレサ、それじゃあ勝てないっ』

『危ないから』


 マイケルはまだ不服のようだ。


『直撃させりゃあ、いいんだろっ!!』

『たしかにそうだが……』

「[斑駒ふちこま]を使う気配があったら、俺は『暁』で『十柄』を[浄化]する」


 『暁』が当然だ、というようにリーンと鳴った。


「[浄化]? はっ、ばっかじゃねえのか、魔を払う[浄化]が神に効くわけがねえだろっ!!」

「ああ、良いですねえっ♡ 伝説級の退魔武装が一つ無駄に消えてうれしいわっ♡」


 サッチャンが煽るように嗤った。


『神も魔も同じ存在なんだな、サッチャン』


 テレサさんがメガネを押し上げながら重々しい声で問いかけた。


『さてはて、どうかしらねえ~♡』

『おまえら、魔力の集合体だな、それに個性が芽生えただけの存在だ。神も悪魔も』


 サッチャンは答えず、ニヤアアっと嗤った。


 法衣を着た美しい女性が前に出て、鏡子ねえさんの前に立った。


『『快癒エクストラヒール』』


 上位の治癒呪文だ!

 『僧正ビショップ』のアルマ・トラバーチさんか。


『うちの馬鹿がごめんなさいね』


 おっとりした感じのアルマさんは微笑んで言った。

 ビョンと鏡子ねえさんは飛び起きた。


「ががうーっ」

『どういたしまして』


 『ホワッツマイケル』の全員が非常識という訳ではないみたいだな。


『いくら何でも一兆円であがなった、人類の宝である『十柄』をタカシ君に破壊される訳にはいかないよ。そして、『Dリンクス』の退魔装備を全部かっぱらうのはあまりに賭けのバランスが取れていない。こちらの手にある『彩雲』一個あれば、真権能の起動実験と習熟は出来るのだから、賭けるのはマイケルの私物の魔銃と『Dリンクス』の持つ『彩雲』という事で仕切り直す』

『お、俺の私物だぞっ!!』

『マイケルの財産は一兆円の大剣で負債が出ている、魔銃も『ホワッツマイケル』の物だ』

『俺がリーダーだぞ、テレサ!!』

『私はUSAの代表だが、なんだ?』


 ああ、テレサさんはアメリカ政府の関係者なのか。


「タカシ~、戦闘が始まったらまた呼んでえな」

「あ、かーちゃんありがとう、すぐ呼ぶよ」

「向こうはもめとるなあ。まとまりが良いパーティでは無いようやな」

「そうだね」


 かーちゃんは粒子になって消えていった。


『マリアさんありがとう』

『いいのよ……』


 俺が礼を言うと、マリアさんは顔を赤くして顔の前で小さく手を振った。

 可愛い感じの人だな。


 マリアさんがまた謡を始める。

 みのりがちょっと謡を止めて喉飴を口に入れた。

 長い間謡を繋いでいたからな。

 そのお陰で、『大神降ろし』は続いている。


 テレサさんが前に出て来た。


『それでは仕切り直す。収奪戦、レディ、ゴーッ!!』


 戦闘が再び始まった。

 謡にみのりが参加して音の場が広がり深まった。


「おまえらも真権能は使わないんだよな」

「え、使うよ、危なくないし」

「がうがうっ」

「汚えぞっ!!」


 『暁』真権能はマイケル相手に使っても意味が無い……。

 ん?

 魔力を浄化する権能なんだよな……。

 ひょっとすると、マイケルのレベルを下げられ無いか?

 レベルアップは体内に入った魔力が適応する仕掛けなんだからな。

 いや、しかし、レベルダウンは悪質だなあ。


「きやああぁりいいいぃいいいいっ!!」


 鏡子ねえさんが弾丸のようにマイケルとの間合いを詰めた。

 奴は警戒して中段でねえさんを待ち構えている。


「【オカン乱入】」

「くっ!!」


 俺はかーちゃんをマイケルの斜め後ろに召喚する。

 光の柱から出て来たかーちゃんは即座にマイケルにシールドバッシュをかました。


「くおおおっ!! おばさんっ、おまえっ、70台ちかいなっ!!」

「68やで伊達男!!」


 かーちゃんのメイスをギリギリ【身躱し】で避けると、マイケルは『十柄』を振り上げた。


「【切り落とし】」


 『十柄』が光輝き、レア武技が発動した。

 かーちゃんが二歩進んで下からメイスをかち上げる。


【輝く戦棍】シャイニングメイス!!」


 レア武技同士は激突し、跳ね返った。

 どちらも威力系だからのようだ。


 足捌きでマイケルはこちらにふり返り、かち上げられた『十柄』を俺に向けた。


「タカシ、お前からだ[斑駒ふちこま]」


 !

 こいつ、言った先から約束を破りやがった!!

 マイケルは邪悪な笑みを浮かべた。

 虚空から奔馬のようなエネルギーが発生し、俺に向かってなだれ落ちてくる。


『マイケル!!』


 テレサさんの悲鳴のような制止が聞こえた。

 キン!!


[真神オロシ術式起動]


 時間が止まった。

 新しい、何かか!!


[問う、汝は真神降ろしを望むか]

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