第131話 激闘と破壊と真権能

 鏡子ねえさんが飛びこむようにして三段突き。

 三発に見えたパンチが無数の弾着になってマイケルを襲う。


 ドガガガガガガッ!!


「ちいいいっ!!」


 マイケルは『十柄』を使って【受け流し】。

 刀身にガキンガキンガキンと弾着痕が発生する。


「なんてぇ速度だっ!!」


 マイケルは剣を切り返しレア戦技を放つ。


「【縦横斬】」


 一瞬で剣の前に格子のような軌跡が発生した。

 十振りほどの斬撃を前方に発射する技か。


 鏡子ねえさんはしなやかに避ける避ける一発籠手で受け、さらに避ける。


『は、はええっ!!』

『さ、さすが上級職同士の戦い』

『縦横斬は[草薙]効果付きかっ』


 バッシバッシとねえさんの蛇柄スーツに切り傷が増える。

 が、意に介せず【狂化】バーサークしたねえさんは前に出る。


「ひゃあるうああるううぅっ!!」


 マイケルは一歩退き、【受け流す】そして、【身かわし】で避ける。

 陸橋の地面が[楔]の影響か、えぐれる。


「畜生! 剣が傷むじゃねえかっ!!」


 俺も前に出る。


「邪魔だ、タカシ、てめえの出る幕じゃっ!」


 さっき覚えたばかりの、切り返しを使った蹴りを放つ。


 ドッカン!


「ぐおっ!!」


 蹴りが来るとは予想できなかったのか、スキルでの避けはなく、マイケルの腹に俺の蹴りがもろに入った。

 だが、効果はあまりないか。


「てめえっ!!」

「あいらぁえるぅうううぅっ!!」


 こちらに気を向けたマイケルの横から鏡子ねえさんが突撃する。


「くそっ! 忙しいっ!!」


 当たり前だ、三対一だぞ。

 普通に戦えているだけ、マイケルの技量が脅威すぎる。


 マイケルは鏡子ねえさんに斬り込み、避けられた所を引き戻し反対側の刃での斬りを狙う。

 バックエッジという剣で使う技だ。

 鏡子ねえさんの左二の腕に裏刃が掛かる。


 ニュルンという軟体みたいな動きでねえさんは刃を避ける。

 ねえさんも何か回避系のスキルがあるな。


 [草薙]の権能で切り傷は負うが、即座に煙を噴いて塞がっていく。


『すげえすげえ』

『マイケルも、鏡子さんもうめえっ!』

『その中に分け行って行くタカシもクソ度胸だ、一手間違えただけで即死だぞ』

『デイシューは無理すんな、技量が足りなすぎる、ポーション係で』

『みのりんが謡の維持に手を取られてなきゃあなあっ』


 野次馬の前面で座り込んだ白虎くんが呆けたような顔で見ていた。


「こ、これがDチューバーの戦い……」

「こ、こんなに……」

「次元が違う……」


 鏡子ねえさんが俺に視線をくれた。

 合点だ。

 俺が前にでて、マイケルの気を引く。

 勇気を持って斬り込む。


「邪魔だっ!! 沈めタカシ!!」


 間合いの中に踏み込む。

 マイケルは【足捌き】がある、すり足で大剣の距離を取られる。

 こちらは片手剣、間合いが短い。

 だから、さらに踏み込む。

 ねえさんを信じる。


 ねえさんが体をねじる。

 マイケルが視線をねえさんに送る。

 

 キンカキン!!


「ちっ! 囮か!!」


 マイケルがバックステップで距離を開けようとした。

 俺は姿勢を低くして間合いをぎりぎりまで詰める。


「ぐっ!!」


 大剣は間合いが長い、が、それは超接近戦では振り切れないという事だ。

 柄での打撃が飛んで来た。

 『浦波』が[自動防御]、俺はマイケルの軸足を狙って『暁』を振る。

 【身躱し】でするりと避けられた。

 が。

 避けた先はねえさんの正面だ。


「ちっ!! 小賢しいっ!!」

「きぁらるううううっ!!!!」


 白虎を倒した一直線のパンチがマイケル目がけて飛んだ。


『『『やったか』』』

『やめろばかっ』


「[斑駒ふちこま]」


 赤黒い逆さになった馬のようなエネルギーが虚空から現れ、鏡子ねえさんの必殺パンチと一瞬拮抗した。


 バキュアルッ!!


「【オカン乱入】」


 奔馬のようなエネルギーが『十柄』から吹き出して鏡子ねえさんに直撃した。

 俺はとっさにかーちゃんを飛んでいくねえさんの向こうに呼んだ。


 必殺パンチを弾き飛ばし相殺してなお、真権能[斑駒ふちこま]はねえさんの胸板を貫き肩を吹き飛ばした。

 光の柱から現れたかーちゃんが鏡子ねえさんを受け止めた。


「え、鏡子しっかりせえっ!! 『我が女神に願いて、ここに請願せいがんす、わが友の傷を癒やしたまえ』」


 かーちゃんが【ハイヒール】の呪文を掛ける。

 ねえさんは全身から治癒の煙を出して立とうとしているが、無理だ。

 被害が大きすぎる。


「は、ははっ、はははははっ!! なんてぇ威力だっ!! すげえぜっ『十柄』!!」


 マイケルは『十柄』を見て歓喜の表情を浮かべた。


「さあて、タカシ、次はお前だっ、どうだ、降伏するか、ああ?」


 だめだ、あの権能が凄すぎる。

 勝てない……。


「タカシっ!! 気持ちで負けてはあかんでっ!!」

「うるせえ、おばはんっ!! じゃますんな、先にぶっころすぞっ!!」

「がうううっ」

「鏡子、ちょっと待ってな、うちがあの伊達男をぶっ飛ばすわ」


 かーちゃんがねえさんを地面に横たえて立ち上がった。


「タカシ、なんでも諦めてはあかんで」

「かーちゃん」

「一緒に伊達男を倒そうや!」

「解った!!」

「頭が悪いなあっ!! 日本人って奴はよおっ!!」


 ねえさんの元に泥舟が駈け寄った。

 しばらくすれば鏡子ねえさんも回復するか。

 それまでに、なんとしても[斑駒ふちこま]の対策を考えないと。

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