第134話 収奪戦の後始末

「『ああ~~あ~~、あたまをすっきりおんどをさげろ~~♪ れいせいにれいせいになれ~~♪ クールになれ~~♪』」


 みのりの【冷静の歌】で、鏡子ねえさんの【狂化】バーサークが解除された。

 ガチャリと『金時の籠手』も元の姿に戻った。


「ねえさんお疲れ」

「ああ、勝ったな、わっはっは」

「あの必殺パンチはなんて権能?」

「真権能[剛力]だよ。凄い全力パンチが出る」


 シンプルだなあ。

 さすがタジカラオノミコトだ。


 テレサさんが倒れているマイケルを蹴っ飛ばして腰から魔銃を引っこ抜いた。

 こちらに歩いてくる。


『魔銃と『彩雲』だ、受け取ってくれ』

『魔銃とか要らないんですけど』

『賭けは賭けだから、恥をかかせないでくれ』


 俺は『彩雲』と魔銃を受け取った。

 ずっしりと重いな。


『それはそれとして、お願いだ、『彩雲』を貸し出してくれないか、マリアも謡を覚えたし、『十柄』の実験と習熟に必要なんだ』


 どうしようかなあ。


『必要ない、マイケルなんかに貸せない。ヤクザにやろうぜ』

『というか、最初の賭けの時、テレサさんは止めてませんでしたよね。マイケルが簡単に勝ったら分捕る気まんまんでしたよね?』


 泥舟が突っ込んだ。

 ああ、そうなのかもしれないな。

 テレサさんは渋い顔をして頭を搔いた。


『それは謝る、E級パーティという事で侮っていたのはある。だが、この通りだ、新しいフツノミタマが入った退魔装備を手に入れるまで、頼む』

「おい、タカシ! いつこの封印は解けるんだよっ!!」

「しらん」


 マイケルが言ってきたが、キクリヒメ様に聞け。

 永久という事は無いだろうが、神様自ら掛けた権能だ、長時間続くかもしれない。

 しかし態度悪いなマイケルは。


 ふう、しょうが無い。

 俺は『彩雲』をテレサさんに差し出した。


『有料ですよ』

『いいのかっ! わかった、迷惑料も上乗せして振り込もう、助かる。フツノミタマが入った退魔装備が手には入ったら必ず返却するから』

『借用書を書いて下さい』


 泥舟が割り込んで来た。

 ああ、口約束だけだとなあなあになってしまうかもだな。


「タカシは甘すぎるっ!」

「退魔装備を持ったパーティは多い方が良いから」

「くそうっ」


 鏡子ねえさんの中では『ホワッツマイケル』は敵認定されたようだ。


「うちはそろそろ帰るで」

「かーちゃん、ありがとう、助かったよ」

「なにを言ってるんや、みずくさい。またよび、じゃっ」

「じゃあな、かーちゃん」


 かーちゃんが粒子になって消えていった。

 いつも、この瞬間は寂しいな。

 ずっと一緒に居て欲しいから、ダンジョンの最下層を目指さないといけないな。


『さあ、マリア行くよ』

『いや……、私はみのりを弟子にする……』

『えええっ!!』

『みのりは敵の私に快く謡を教えてくれた……、だから、私もみのりに私の音楽技術とダンスを教える……』

『そ、そんな、気にしなくて良いのにっ!』


 なんか凄い事になってるな。


『そして、みのりとディエットのアルバムを出して……、ミリオンをねらう……』

『うわーうわー、困ったなあ!』


 困ったと言っているが、みのりは嬉しそうだ。

 世界的なシンガーのマリアさんに色々教えて貰うと凄い勉強になりそうだな。


「良い話じゃないか、やってみれば?」

「え、でも、レッスンとかで時間が取られて、『Dリンクス』として冒険がしにくくなりそうだよ」

「そこらへんは調整すればいいだろ、アイドルやりたかったんだろ、みのり」

「う、うん、それはそうだけど」

「大丈夫だ、やりたい事はやればいい、いつもみのりは俺たちを応援してくれてるけど、俺たちもみのりを応援するよ」

「う、うん、ありがとうタカシ君っ」

「大丈夫だよ、僕が調整するし」

「泥舟くん」

「私はボディガードだな、みのりとマリアの」

「鏡子おねえちゃんっ」


 感極まって、みのりは泣き出した。

 泣かなくてもいいだろ。


 こうして、みのりはアイドルの第一歩を踏み出した。

 めでたしめでたし。


「あ、いたなっ、『Dリンクス』!! 『暁』を賭けて勝負だっ!!」


 野次馬をかき分けて『ホワイトファング』の田上さんがやってきた。

 なんか、間の悪い人だなあ。


「『ホワッツマイケル』が『暁』を狙って動いているそうじゃないかっ、日本の宝をアメリカに取られる訳にはいかん、勝負だっ、タカシ!!」

「「「「…………」」」」

「今、マイケルとの収奪戦があって、タカシくん勝ちましたよ~♡」

「えっ?」


 白虎くんたち陰陽師組が寄ってきた。


「それでは僕たちはこれで」

「これからどうするの?」

「僕たちは井の中のカワズだったって気が付きました、迷宮でレベルアップして魔王を退魔する事をめざします」

「それがいいね、出来たら乃木さんと東郷さんのレベルアップも手伝ってあげてくれ、君たちなら、十階ぐらいまでなら楽勝だろうから」

「はいっ、がんばりますっ、ありがとうごうざいました、タカシさん!」


 陰陽師組が一斉に頭を下げた。

 いろいろと特殊な術も使えるし、退魔武具の扱いにも慣れているから、すぐ頭角を現すだろうね。

 いろいろあったけど、一件落着だ。

 彼らは去っていった。


「あ、あの、俺との収奪戦を……」

「……、こっちが『暁』を賭けると、『ホワイトファング』は何を賭けるんですか?」

「お金じゃ、だめ?」

「駄目です、同じぐらいの価値が無いと賭けになりませんよ。ああ、そうだ、柊さんの『Dリンクス』への移籍を賭けてくれるなら受けます」

「えっ?」

「あら」


 柊さんが嬉しそうな顔をした。

 レアスペルを持っている『魔術師ウイザード』とだったら価値がつり合うかもしれない。

 こちらも後衛は欲しいしね。


「そ、それは駄目だ、物と人を賭けるだなんてとんでもないっ」

「あらあら」

「じゃあ、諦めてください」

「く、くそうっ」

「さあ、田上、難波ダンジョンに行くよ」

「ああ、まってくれ柊」


 『ホワイトファング』は去っていった。

 なんという間の悪い人達だろうかね。


 さて。

 『Dリンクス』だけに……。


『なんでまだ居るんですか、マリアさん』

『みんなに置いていかれた……』

『い、一緒に潜ります? マリアさん』

『いいのっ?』


 マリアさんはとても嬉しそうだ。


「じゃあ、ちょっと難波ダンジョンに行って帰るか」

「お昼ご飯たべようよ」

「あ、丁度良い、たまには地下二階で食べようぜ」

「めちゃくちゃ高いじゃないか、ねえさん」

「うるせえ、タカシもそろそろ貧乏根性をすてろーっ!」


 そうは言ってもなあ。



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