第125話 難波迷宮へと出発する

「よしよし、忘れ物は無いな」


 俺は収納袋に手を入れた。

 脳内に入っている物のイメージが並ぶ。

 問題は無い、貰った京都土産のお菓子お包みもあるな。

 ねえさんの鞄、みのりの鞄、泥舟の鞄、俺の鞄。

 あとは武器装備類。

 みんなの装備はあるな。


 一応、全員迷宮防具姿だ。

 泥舟の足軽スタイルが目立つなあ。

 みのりの『吟遊詩人』バードスタイルも派手で目立つ。

 ねえさんに至っては金時の籠手をもう装備している。


「自販機にお金入れるときとか困らないの?」

「いや、装甲付いてるけど、十円玉の模様も解る、燐月師匠はすげえっ」


 千年前の伝説の陰陽鍛冶さんは凄いな。

 良い物貰ったね。


 俺たちはホテルを出た。

 朝ご飯はたらふく食べたので、これから新幹線で大阪に行って、難波迷宮に行く。

 余所の都市の迷宮は初めてだな。


「あら、足軽、泥舟くんよ、素敵っ」

「Dリンクスよ、みのりんも居る」

「タカシも格好いいわね」

「鏡子さん、格好いい」


 若い女性に噂されて照れくさいな。

 鏡子ねえさんがニパっと嗤って手を振った。


 京都駅から新幹線に乗った。


「これで京都も見納めかあ」

「また来るぞっ」

「今度は奈良に行って、大仏を見ましょうよ」

「鹿も倒そう!」


 鏡子ねえさんの鹿への激しい敵対心は何なのだろうか。


 京都から新大阪までは十五分ぐらい、すぐ着いてしまうね。

 窓の外の景色が、田園からだんだんと都市になっていく。


「旅は楽しい、これからも休暇のたびに、日本各地、世界各地の迷宮に行こうぜ」

「川崎で潜ればいいじゃんよ」

「なに言ってるんだ、移動して、各地の美味しい物を食べるのが良いんじゃないか」

「札幌とか名古屋とか、確かに行きたいわねえっ」

「ナウル共和国にも地獄門が出来たんだけど、人口一万人の島だから、人口の半分ぐらいDチューバーで宝箱も採り放題だから観光客のDチューバーも多いって」

「そこに行こう!!」


 それはお得だが、ダンジョンの中は変わらないらしいからなあ。

 でも、アメリカの迷宮とか、治安が悪そうだな。

 アウトローはどこにでも居るからね。

 島嶼といえば、グアムには無いけど、ハワイには地獄門あるんだよね。

 夏休みに観光がてら行っても良いかもしれないな。


 周りがビルばかりになって、新大阪駅に新幹線が着いた。


「さあ、下りるぞっ」

「ええと、難波まではどうだったかしら」

「地下鉄で一本だね」


 新大阪の新幹線ホームから下りて、地下鉄御堂筋線改札へと下りて行く。

 みのりがてててと行って、切符をまとめて買ってくれた。


 地下鉄に乗って難波を目指す。


「地下鉄なのに、地下じゃないぞ」

「新大阪あたりは地上を走るんだよ」

「なんという根性の無い」


 根性の問題だろうか。

 車内は空いていたので、四人で椅子に座る。


 【気配察知】


 怪しい感じの奴は居ないな。

 Dチューバーっぽいグループは二三居た。


「大阪ってさ」

「うん」

「みんなかーちゃんみたいな訛りで喋るな」

「大阪だからね」


 ちなみにかーちゃんの出身地は和歌山だな。


 地下鉄は地下に入っていった。


「おお、地下鉄になった」

「知らない街の地下鉄っていいわよね」


 Dチューバーらしい四人連れが俺たちをちらちら見ていた。


「おお、ほんまや、ほんまの『Dリンクス』やな、みのりんがかわええなあ」

「『ホワッツマイケル』と揉めてるいう噂やろ、こわいなあ」

「世界一に狙われてるんや、『Dリンクス』はごっつ大きくなるでぇ」

「高校生なのに偉いなあ」


 さすがに難波に近いからDチューバーも多い感じだね。

 しかし全国的な有名人になったんだなあ。

 慣れなくて照れくさい。


「悪い事をして有名になったんじゃないから、堂々とするのだ」

「そうだね、ねえさん、ありがとう」


 難波駅に着いたので地上へと出る。

 難波地獄門はどっちだろう。


 キョロキョロと見回すと、標識があった。

 こっちか。


「イベント会場の駐車場に地獄門が生えたみたいだよ」

「わりと商業施設とか、イベント会場とか好きだよね、悪魔さんたち」


 歩いて行くと川沿いに大きなイベント施設があった。

 ここかあ。


 大きな陸橋みたいになっていて、配信冒険者たちが行き交っている。


 そして地獄門が見えるあたりで、陰陽師さんたちが待ち構えていた。


「白虎くん」


 麒麟さんと、あと二人の陰陽師さんが居た。

 四人。


「曾おばあさんの『浦波』を返してください」

「収奪戦?」

「もう、その域は超えました、強奪します」


 俺は黙って収納袋から得物を出して、泥舟に、みのりに渡す。

 鏡子ねえさんがガチーンと金時の籠手を打ち合わせた。


「四人なら勝てるの?」

「いえ……」


 通りに面した車から傷だらけの女の人が現れた。

 手盾をくれた陰陽師の人だ。


「タカシさんっ!! 逃げてくださいっ!! 鬼人の肉がっ!!」


 白虎君と、麒麟さん、そして二人の陰陽師が何かの肉を口に入れた。


「パラメーターでかなわないなら、上げればいいんですっ!」

「白虎くん……、あの人に何をしたの」

「ふふ、鬼人の肉を食べて『Dリンクス』を襲うのが嫌と言ったのでお仕置きをしたまでですよ」


 俺の胸に怒りが湧いた。


「白虎、お前、ふざけんなよ」


 難波迷宮の前の陸橋で、陰陽師清明派との第二ラウンドが始まった。

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