第126話 鬼人化という現象

 白虎の体がみるみるうちに膨れ上がり、黒いスーツとワイシャツを破って上半身が裸になった。

 目がつり上がり、額に二本の角が生える。


「鬼人というより、鬼だな」

「この力でっ、我々はっ、日本の国を守ってっ、来たんだっ!!」


 麒麟と隣の女性は外観に変化はあまりなかった。

 角が生えて、目がつり上がったぐらいか。

 術師タイプ……。


 もう一人の男性は白虎のように鬼と化した。

 かなり強そうだな。


 さて、四人の鬼、そして有機的にチームとして動くだろう。

 どれくらいの強さか……。


 そしていつの間にかサッチャンが居てビデオカメラをこちらに向けていた。


「何してんですか?」

「私はぁっ、外界に出れる唯一のカメラピクシーでーすっ♡」

「ざっけんなこらっ!!」

「うわあ、タカシくんがマジギレしたぁ♡」


 コメントリーダーのスイッチを入れるとコメントが現れる。


『うおおお、難波迷宮の前で鬼!!』

『Dリンクス、大阪編!!』

『陰陽師か? そしてタカシの新しい盾だっ、お、鏡子さんも新しい装備だっ!!』


 サッチャンはふふんとドヤ顔を見せた。


「こんな配信数が多くなりそうなイベントを撮らないわけが無いじゃないですかっ♡ 迷宮内じゃないから、罪獣相手に大規模レイドにしなくても済みますしっ♡」

「罪獣?」


 俺は白虎の方を見た。


「罪獣『嫉妬』です、まあ『暴食』に比べると格は落ちますが、罪獣は罪獣ですね」

「黙れっ!! 嘘を吐くなっ、悪魔めっ!!」


 奴らは罪獣になったのか。

 鬼人化というのは罪獣化して妖魔と戦う技術なのか?


 俺は『暁』と『浦波』を構えた。

 白虎も退魔刀と手盾を構える。

 『彩雲』じゃないな?


「フツノミタマの付いた防具はここには一つしかない、『大神降ろし』は使えないぞ、タカシ」


 白虎だった鬼は顔をゆがめてニヤリと笑った。

 体の大きさは、オーガー、いや、ハイオーガーぐらいあるな。

 身体能力も同じぐらいか。

 スキル【剛力】が掛かった状態と思って良いかもしれない。


「鬼人化をすれば、術が解けた時、半分は死に、半分は再起不能と言うけど、良いのか?」

「陰陽師の未来を守るためだっ!! 我々が死んでも陰陽師の魂を継承してお前達悪魔憑きと戦う人間は必ず出るっ!! 僕たちはその捨て石になるっ!!」

「うじゃくじゃ、うるせーんだよっ!!」


 鏡子ねえさんが切れた。

 白虎に駆けよって見えないパンチでラッシュ。


 キンキンキンキン!!


 三発のパンチと一発の蹴りは手盾にはじき返された。


「火炎陣急急如律令!」


 麒麟の手から三枚の護符が飛び、炎を纏って鏡子ねえさんに襲いかかった。


「しっ!」


 鏡子ねえさんが空中回転をして蹴りで火炎符を打ち落とす。


「泥舟、みのりのカバー! みのりは呪歌を差し挟めっ!」

「わかった!」

「『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪』」


『みのりんの初手、【スロウバラード】だっ!!』

『あれは、使い勝手が良いからな』

『あ、効いてねえっ!!』


 だが、四匹の陰陽鬼に効いていない。

 権八の時も効かなかったな。

 罪獣にレア呪歌は効かないのか?

 それとも使うと解っている呪歌は抵抗できるのか?


 サッチャンが素早くあちこち動き回って撮影していて目障りだな。


「あんたも戦ってくれよ、罪獣は迷宮の敵なんだろっ」

「私は今、カメラピクシーなのでーっ、戦闘には参加しませーんっ♡」


 くっそ役に立たない悪魔さんだっ。


『サッチャンピクシー』

『ああ、手持ちカメラはサッチャンなのか』

『うひー、撮している所を見てーw』


 火炎符が飛び交い、氷結符が飛ぶ。

 鏡子ねえさんが凄い勢いで叩き落とし、白虎では無い方の陰陽鬼に取り付いた。


「応竜! 奴の攻撃には[楔]が掛かっている、受ける方向を間違えるな、腕を喰われるぞっ!」

「承知!」


 応竜と呼ばれた陰陽鬼はねえさんの攻撃を的確に弾き返す。


 なるほど、力も敏捷性も上がっている。

 レベルからすると、五十レベル帯な感じだ。


 俺は白虎の鬼と接敵する。


 ガガギンガコン。


 お互いの斬撃をお互いの手盾で弾き返す。

 後ろから火炎符が飛ぶ。

 体を開いて切り落とす。


「タカシ!」

「おうよっ!」


 泥舟の低い槍の突きが地面すれすれを走り、白虎の近くで跳ね上がる。


「『麒麟のブス!』」

「なんだとーっ!!」


 麒麟の目が赤く染まった。

 【狂化】バーサークした!

 上手いぞ、みのり。


『【罵声】を抵抗させて【狂化】バーサーク狙いかっ!』

『術師には効果的だな!』


 麒麟は怒って前にでて、みのりを剣で狙おうとする。


「冷符急急如律令!」


 四枚の冷凍符が麒麟の頭に連続的に打ち当たった。


「あ、私は何をっ」

「麒麟! 気を付けてっ!!」

「蝴蝶! ありがとうっ!」

「『麒麟のぶーすぶーすっ』」

「なにおうっ!!」


 術師に【罵声】は良く効くな。

 下手に抵抗値が高いのが仇になっている。

 蝴蝶は麒麟の【狂化】バーサークを解くのにつききりになった。


『麒麟ちゃん……』

『どうすれば正解だ? 抵抗しないで凹んでもまずいだろう』

『とにかく悪質な攻撃だな【罵声】は』


 するりと泥舟が低い軌道の突きを放って麒麟の太ももを貫通させた。


「ぐあああっ!!」

「ち、治療符急急如律令!」


 蝴蝶から治療符が飛び、麒麟の太ももの傷を癒やした。

 が、煙がでている、速攻性ではない。

 足を引きずって敏捷性が落ちた。

 みのりを狙いに前に出すぎだ。


 後ろ向きの鏡子ねえさんが麒麟の頭部に回し蹴りをぶち込んだ。


「ぎゃあああっ!」


 麒麟は陸橋の上を転がり、野次馬を巻き込んで柵に激突した。

 まずは一人。


「みのり、あいつの名前は蝴蝶、もう一人の鬼は応竜だ」

「らじゃっ!」


 みのりはニカっと笑って敬礼した。

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