第119話 清水の舞台から飛び降りてはいけない

 清水の舞台に来た。

 というか本堂であるね。

 まずは奧のご本尊にお参りである。


 本物のご本尊である千手観音像は秘仏ということで、大きな絵が奧に飾ってある。

 お賽銭を投げ入れて観音様を拝む。


――Dリンクスが一人も欠けること無く150階を突破できますように。


 隣ではキャシーも目を閉じてお祈りしている。

 なかなか綺麗な娘さんだな。

 まあ、綺麗の本職のみのりにはかなわないが。

 職業ジョブはなんなんだろう。


『キャシーさんの職業ジョブは何ですか』

『え、『戦士』ウォーリアよ。武器はスピア』

『泥舟と一緒だ』

『そうよー、デイシューの槍はどこで買ったの?』

『家に伝わっている奴だよ』

『おー、槍術の名門は良いわね~~』


 そうか、将来は『槍士』を目指す感じかな。

 サーバントスキルは、ベトナム帰りのお爺ちゃんを呼ぶそうだが、遠近揃って良い感じだな。


 清水の舞台に出た。

 見晴らしが良くて遠くまで見える。

 下を見ると結構高い感じだな、地面までビルの四階分はありそうだ。


「Dチューバーのみのりんさまですな」


 なんだかお爺ちゃんのお坊さんがやってきた。


「はいっ、Dリンクスの峰屋みのりですっ」

「この舞台はですな、本尊の観世音菩薩さまに諸芸を奉納する場所なのでございます。よろしかったら一曲、なにか歌っていただけませんか」

「ほ、奉納なんですか、そうですか、やりますっ」

『わお、みのりんの生歌が聴けるなんて~』


 キャシーが弾んだ声を出した。

 俺は収納袋からリュートを出してみのりに渡した。


「ええと、『吟遊詩人』バードの歌って割と短いのが多いので、ちょっとですが、皆様のご健康をお祈りして【回復の歌】を」


 おお、【元気の歌】をやるかと思ったけど回復か。

 確かにお爺ちゃんお婆ちゃんも多いから良いね。


 ボロローンとみのりはリュートを弾いた。

 『吟遊詩人の帽子』の羽根飾りが誇らしげに揺れる。


「『さあ目を開けて傷を癒やそうよ~~♪ 頑張った君の勇気を力に変える~~♪ 治れ治れ治るんだ~~♪』」


 いつもよりもゆっくりとしたテンポで、みのりは【回復の歌】を歌った。

 綺麗で澄んだ歌声が清水の舞台に鳴り響く。

 体の疲れがすっと消えて、気分が爽快になるね。


 お爺ちゃんお婆ちゃんの腰とか肩とかから煙がでて治療されているのが解る。


「まあ、持病の腰痛がすっと治ったわ」

「肩が軽いわい、みのりんさんありがとうありがとう」


 お爺さんのお坊さんは微笑みながら、みのりの姿に合掌した。


「みのりんさん、ありがとうございます、観音菩薩さまもさぞお喜びでありましょう」


 わあっと、ここにいる人々から拍手が起こった。

 みのりはちょっと照れて頭を搔いた。


「みんなありがとうございますっ、みなさんがいつまでも健康でありますようにっ」


『わーお、動画では何回も見たけど、生のみのりんはやっぱり凄いわね』

『『ホワッツマイケル』に『吟遊詩人』バードは居ないの?』

『私と同時期に入ったよ、あの人、世界的シンガーのマリア・カマチョよ』


 うわあ、マジで世界的ヒットを沢山飛ばしているアメリカの歌手の人だ。


『カマチョさんが『吟遊詩人』バードになったのかあ』

『今度、マリアにも回復の歌を歌ってもらって聞き比べようっと』

『贅沢な環境にいるね、キャシーさん』

『うわあ、マリアさんの歌聞きたい~~』

『まだコモン楽譜スコアが揃ってないから、『吟遊詩人』バード曲は流して無いみたい。日本に来ているから会えるわよ、きっと』


 マリアさんは、みのり対策として呼ばれて来たのだろうなあ。

 『吟遊詩人』バード『吟遊詩人』バードはどうなるのか。

 歌が上手い方が上書きされると、結構厳しいな。


 みのりからリュートを受け取り、収納袋に入れた。


 キャシーが舞台の柵の上に上がった。


『何をする?!』

『清水の舞台から飛び降りるとラッキーがやってくるんでしょ』

『やめろ』

『これくらいの高さなら大丈夫よ』


 たしかに、Dチューバーなら可能な高さだが。

 だが、やめろ。


 キャシーが飛び降りかけた。


「『ストップストップお止まりなさい~♪ 一度足を止めて当たりを見回そう~~♪ ほら足下に赤い花~~♪』」


 みのりが歌いながらデデデと走って空中で止まっているキャシーの腰に抱きついて柵の手前に引きずりこんだ。


『なにすんのよっ!』

『法律違反です、キャシーさんっ』

『そうなの?』

『江戸時代に沢山飛び降りたので禁止されたんだよ、捕まってしまうよ』

『わかったわ、デイシュー、捕まるのは嫌だわ、やめるわ』


 はあ、なんというか、無謀な子だなあ。


「みのり、よくやった」

「えへへ、ありがとう、タカシくんっ」


 キャシーを連行しながら、石段を降りて清水の舞台の下に行く。

 下から見上げると相当な高さだな。


『ここをパルクールで昇って行くのは駄目なのかな』

『『『『駄目』』』』

『日本のテンプルは堅苦しくていけないわ』

『キャシーさんはサグラダファミリアもパルクールで上がるのかい?』

『え、そんな事しないわよ、だって……、あ、そうか、みんなが大事にしている場所なのね、私が考え違いをしていたわ』

『そうそう、出来るからってやってはいけないのだ』

『ごめんなさいタカシ』


 なんだかキャシーさんはシュンとしてしまった。

 みのりが微笑みながらドンマイという感じに背中をポンポンと叩いた。

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