第120話 Dリンクス+1、銀閣寺に行く

 美春さんの車に乗り込む。

 キャシーはなんだかごっついオフロードバイクに跨がった。


『いいでしょ、魔石エンジンよ』

『ホンダの新型だね』

『ゴブリンの魔石でTOKYOから富士山まで行けるわ』


 なにげにDチューバーにとっては燃費が良いな。

 キャシーは誇らしげにポケットから魔石を出してコロコロとタンクに入れた。

 バウンバウンと勇ましい音がした。


『ちゃんと付いて来てね、キャシー』

『わかったわミハル』


 美春さんはゆっくりめに車を走らせた。

 みのりが半身をねじって後方の窓からバイクのキャシーを見ていた。


「バイクかあ」

「タカシは免許取らないの?」

「今の所は要らないかな」

「来年、車の免許とって、みんなでどこかに行きましょうよ」

「そうだね、鏡子さんに取らせると何か怖いし」

「うん、コワイコワイ」


 ねえさんは結構無茶しそうだしな。

 しかし、突発的だけど、京都旅行は楽しいな。

 色々な思い出が出来た。

 明日は大阪に行って難波迷宮に潜って、それで川崎に新幹線で帰る。

 ちょうど折り返し地点だな。


「今日はマイケル氏はお休みかな」

「せっかくの京都なんだから、観光していてほしいね、パティさん連れて」

「錬金術師さんとかは京大に行ったりしてないんですか?」

「素材研の近くには来てないみたいねえ」


 教授プロフェッサーなのになあ。


 銀閣寺の公営駐車場にはすぐついた。

 キャシーもバイクをドルンドルン言わせて入って来て、バイク置き場に置いた。


『ギンカクジって何? 銀色のお寺があるの?』

『いや普通のお寺だよ』

『なんだ、つまんないわね、キンカクには昨日の午前にみんなで行ったわよ』

『それは良かった』


 キャシーはニコニコしてほがらかだな。

 マイケル氏の動向を聞きたいところだけど、まあ、やめておこう。

 自陣営の情報を漏らさせるのは可哀想だ。


『そういや、マイケルさんは今日はどこにいるの?』


 と、思ったらほがらかにみのりが探りを入れていた。


『なんか奈良に用事があって、パティと、エリベルトと、テレサで行ったわよ』

『よかった、今日の襲撃はなさそうね』

『基本的に日本に来たのは休暇だからね』


 『ホワッツマイケル』の主力が奈良で何をしているのだろうか。


 銀閣寺の総門から入る。

 中は生け垣の道が少し続き、それを抜けると中門があった。


『わお、雰囲気が渋いわね』

『銀閣寺だからね』


 中門を抜けて少し行くと、砂をでかいプリンみたいに固めた場所と、銀砂を綺麗に敷き詰めた場所があって、その右手に小さく銀閣が見えた。


『……地味、よね』

『銀閣寺だから』


 金閣寺のような建物なんだけど、普通のお寺の建物な感じだな。

 わびさびらしいな。


 順路に沿って歩いて行くと、細い道があったり、小川を橋で渡ったりした。

 意外に綺麗で面白いな。


『サムライのゲームに入ったみたいねー、楽しいわ』

『対馬のゲームだね』


 展望台から銀閣を見下ろしたりして、くるりと回って帰ってきた。


『ここはZENのお寺なんだよね、みんなもZENはたしなんで居るの?』

『『『『してない』』』』

『なによ、日本人なのにつまんないわねっ』

「泥舟は禅やってないのか」

「やってないよ、タカシ」


 そうか、和風担当の泥舟がやってなければやってないなあ。


 銀閣寺を堪能したので、駐車場に戻る。


『お昼はどうしようか? キャシーは何か食べたい物ある?』

『昨日はお豆腐みたいな物をみんなで食べたけど、その、マリアとテレサしか喜んでなかったわ』


 アメリカさんに湯葉とかお豆腐は、まあねえ。


『お蕎麦もなんだしね』

『マックでもいいんだけどー』


 せっかく京都に来たのにマックでは味気ないなあ。


『じゃあ、天麩羅にしましょう』

『わあ、いいわねっ』

『うん、無難かも』


 そういう事になった。


 銀閣寺の参道のお店に入って、天麩羅のコースを注文した。


 うん、うどんも付いてお得感があるね。

 天麩羅はサクサクで野菜中心で美味しかった。


『わあ、ここ美味しいわね』


 キャシーも大喜びであった。

 鏡子ねえさんも連れてきたかったなあ。


『タカシ、店の外』

「ああ」


 なんだか、店の外でDチューバーっぽい奴らがいた。


『面倒ね、どうする?』

『マイケル氏の仕込みじゃないとすると、やっぱり難波からからな』


 清水寺でみのりが結構動画を撮られていたから、Dチューブにアップされて網を張られたかな。


『私がお爺ちゃんを出すから、タカシはオカンを出しなさいよ』

『一日三回だよ、いいのかい?』

『うちのお爺ちゃん派手だから、タカシのオカンも見たいし、お爺ちゃんにも会わせたいわ』

『お店に迷惑だから、駐車場に行ってからにしましょうか』

『そうですね美春さん』


 お会計を済ませて、五人でゆっくりと駐車場まで歩く。

 というか、キャシーのお爺ちゃんは機関銃だろ? あたりに被害があると面倒だな。

 美春さんの車に行かずに、開いている隅に誘うように移動した。


「タカシはんでっしゃろ、わては浪速の『青龍』ちゅうチームの者ですわ、あんたはんの持っている『暁』、黙って出しておくんなはい」


 目付きの悪いパンチのDチューバーがそう言った。

 半グレDチューバーは二十人ほどだな。

 ニヤニヤ笑いながら、大剣や片手剣を抜いた。


『【サーバント召喚】』

「【オカン乱入】」


 光の柱が天から降りてきて、軍服を身にまとった壮年のゴリマッチョな男性がM2機関銃を肩に担いで現れた。

 同時にかーちゃんも現れる。


『お、おおっ? どういう状況だ、キャシー』

「あら、なんや、同じサーバントかいな、お初にお目にかかります」


 かーちゃんがキャシーのお爺ちゃんに頭を下げた。


『いや、その、ご丁寧な挨拶、恐れ入ります。キャシーの祖父のジョンと申しますよ。あなたはタカシさんのお母さんですか』

『そうですわ、これはえらい奇遇な事で』


 かーちゃん英会話出来るんだ。


『挨拶は良いから、あいつらとっちめてよ、じいちゃん』

「かーちゃん、呼びつけてごめんな」

「ええんやで、タカシ-」


 あまりの事態に気を呑まれていた『青龍』の連中が正気を取り戻した。


「な、なんや、われ、メリケンのサーバント使いのキャシー・アイランドやないかーっ! か、関係無い奴はひっこんで……」

『うるせえっ!! 俺はマダムと挨拶中だっ!!』


 ジョン爺ちゃんはM2機関銃を腰だめにしてドガガガガガガと撃った。


『リロード』


 そしてさらにドガガガガと打った。

 主に地面を掘り返す感じだな。

 魔銃化された機関銃か、これは強そうだ。


『良いね、キャシーのお爺ちゃん』

『タカシのお母さんも優しそうだけど、レベル高そうで強そうね』


 二人のサーバントは駐車場でいつ果てるともしれない、大人の挨拶を交わし続けていた。

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