第118話 清水寺で意外な人と出会う

 朝がきた。

 朝食バイキングで沢山食べて、鏡子ねえさんは嵐山の乃木邸へ乃木さんの車で運ばれていった。

 俺たちは美春さんの軽自動車に乗る。


「今日は清水寺に行って、そのあと銀閣寺、最後に竜安寺に行きましょうね」

「銀閣寺って金閣寺の隣にあるんじゃないんですか」

「どっちかというと竜安寺の方が金閣寺の隣ね」


 そうだったのか、京都の土地勘が一つも無いからな。

 乃木邸がある嵐山が京都駅から北西にあり、金閣寺はなんか北、これから行く清水寺は東、だいたいそんな感じだ。


「大丈夫よ、タカシくん、一度行った私も全然方向とか覚えてないから」

「そうなのか、泥舟は?」

「僕はまあ、歴史が好きだから」


 泥舟の中には京都地図が入っているようだな。

 たのもしい奴だ。


 美春さんの軽自動車は軽快に俺たちを運んで行った。

 ちょっと走ったら、もう公営駐車場に車を止めた。


「意外と京都駅から近いのね」

「東京と違って京都はこじんまりとしてるからね」


 まあ、東京が広すぎるのだろうけどね。


 車から降りると、美春さんがコンパウンドボウを二張り渡してきた。


「収納袋に入れておいてくれるかな」

「わかりました」


 俺はコンパウンドボウと矢壺を収納袋に入れた。


「便利よねえ、私も欲しいわ」

「銀箱出た時は、びびっちゃったけどねえ~~」

「下手な金レアよりも凄いわよ、収納袋」


 実際重い装備を持ち歩かなくて良いのは助かる。

 収納袋の中には、みのりと泥舟と俺の防具装備と武器装備が入っている。

 ねえさんの金時の籠手は乃木さんにキュアポーション三本と共に渡してある。

 キュアポーションは【狂化】バーサークの解除用だな。


 四人でぶらぶらと三年坂を歩く。


「ここで転ぶと三年後に死んでしまうそうなのよ、気をつけないと」

「うん、まあ、都市伝説だね」

「そうね、あそこにあるひょうたん屋さんでひょうたんを買えば転んでも大丈夫よ」


 みのりがぴゅうとひょうたん屋さんに入った。

 なんだか豆粒みたいなひょうたんから大きめのひょうたんまで色々なひょうたんが並んでいるな。


「このひょうたんをください、五個」

「はい、おおきに」


 なんで五個も、と思ったが、みのりが小ぶりなひょうたんを俺に差し出してきた。


「死んだら駄目だから」

「まあ、Dチューバー向きのお守りかもな」


 俺はひょうたんを受け取って腰に下げた。

 美春さんと泥舟にも渡していたから、もう一個は鏡子ねえさんか。


「あ、おかあさまにも買わなきゃ、あと一個」


 かーちゃんは渡しても駄目だと思うのだが。


「おかあさまの分はタカシくんが腰に下げておいて」

「わかった、ありがとう」


 美春さんがニコニコしていた。


「みのりさんはやさしいわね」

「そ、そんな事はないのですっ」


 四人でゆっくりと三年坂を上がって行く。

 お土産物屋さんも多くて良い雰囲気だな。


 みのりがてててとあちこちに行ってしまうのではぐれないかと気が気でない。


「落ち着けよ」

「いやあ、面白い物が一杯で~~」


 子供か。


 しばらく歩くと朱塗りの大きな門が見えて来た。


「清水寺の仁王門だね。入り口だよ」

「綺麗ね、仁王様いるかな?」


 格子の向こうに二体の仁王さまが居た。

 勇壮な感じだな。


 すこし先に進むと綺麗な三重の塔が立っていた。

 なんだか京都って感じの風景だな。


『ヘイ、タカシ!』


 横を見ると、外人の女の子が俺に声を掛けてきた。


『私は『ホワッツマイケル』のキャシー・アイランドよっ、ここで会ったが百年目だわ、困ってるの助けて』


 うーん、英語なんで何を言ってるかは大体解るのだけど、何がどうなっているのかが解らない。

 『ホワッツマイケル』にしてはレベルが低く無いか?

 だいたい俺と同じぐらいの感じだ。

 泥舟が目を丸くした。


『史上二番目のサーバントスキル持ちのキャシー・アイランドさんじゃないですか、何をやってるんですか』

『案内の人とはぐれたの~、せっかく京都に来たのに観光が出来ないわ、助けて『Dリンクス』』

『それはお困りですねえ、ミスキャシー』


 みのりが俺を振り返った。


「どうしよう、タカシくん」

『君は刺客じゃないんだね』

『違うわー、『教授プロフェッサー』がサーバント能力同士をぶつけたらどうかなとか言って連れてきてくれたのよ』

『プロフェッサー……、『錬金術師』のテレサ・ルエンゴ氏かな』

『そうそう、テレサは実験が好きなのよ』


 『錬金術師』さんも、何か迷惑な人な感じがするなあ。


『一緒に来るのは良いけど、車の座席に余裕が無いわよ』

『大丈夫、ここまでバイクで来たから付いていくわ』

「タカシくんが良いなら、良いけどね、無害そうだし」


 しょうが無いなあ。

 せっかくアメリカから京都に来て観光が出来ないと可哀想だな。


『じゃあ、良いよ、敵対しないって約束してくれるなら、今日一日一緒に観光しよう』

『ありがとう、タカシ、あなた良い人ねっ』


 そう言ってキャシーは花のように笑った。


「もうっ、タカシくんはお人好しなんだからっ」

「そこが良い所だからねえ、みのりさん」

「知ってます」


 そんなに俺はお人好しに見えるかなあ。

 うーん、みのりの受け止め方は謎だ。

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