第116話 『Dリンクス』はホテルへと帰る

「タカシ、後でホテルで呼んでえな。あの二人のスキルを思い出せるだけ書き出すわ」

「え、覚えられないほどスキルがあったの?」

「せや、高レベルになるとスキルは多くなるもんやけど、あれは異常やな」

「『ホワッツマイケル』は金に任せてレアスキルを買いまくっているからね」

「あとで教えて、かーちゃん」

「じゃ、ほなな」


 かーちゃんは粒子になって消えて行った。



 お巡りさんがやってきたので、事情を説明する。


「マイケル氏は鉄砲を撃っていたので国外追放してください」

「うーんそれがねえ、あれは火薬を使って無いから厳密には鉄砲じゃないのよ」


 なんだって!


「シリンダーに魔力を溜めて六連発で発射する物なんですって。リボルバー拳銃に似ているので銃刀法違反の疑いで引っ張れたのだけれども、裁判に持ち込めない案件なので。京都府警のお偉いさんとの取り決めで、撃たないでくださいって、お願いしかできないんですよ」

「くっそー、マイケルめ~~」


 鏡子ねえさんが吐き捨てるように言った。

 いまは収納袋に仕舞ったけど、我々も剣や槍で武装しているからね。

 現行法だと凶器準備集合罪だしなあ。

 盾とかは良いらしい。


「世界一の配信冒険者パーティに狙われて大変ですけれども、『Dリンクス』さんを応援しているので、頑張ってくださいね」

「はい、がんばりますよ」


 警察あてにならないなあ。

 それでなくてもDチューバーが世間で大暴れだしな。

 人手が足りないのだろう。


 最近は川崎とか名古屋とか難波とかの迷宮所在の警察はだいぶ頑張っているのだけれども、京都府とか迷宮の無い県にDチューバーが流れてきて暴れ回る事も多いそうだ。

 『盗賊シーフ』なんかがコモンスキル使って盗みを働くと捕まえにくそうだしね。


 俺たちはお巡りさんに礼を言ってホテルへと向かった。


「パティさん、怖かったねえ」

「【気配消し】が凶悪だね。タカシが気が付いて良かった」

「【気配察知】はすり抜けた。【危険察知】の方が引っかかったんだ」

「【危険察知】さんは有能ですねえ」

「何度も命を救われているよ」


 【危険察知】は俺が気が付いていない危機でも察知してくれるからなあ。

 どういう仕組みなんだろうか。

 潜在意識だと思っていたけど、それでは説明できない事もあるし。

 スキルは不思議だなあ。


「ねえさんは押してたね」

「うーん、【狂化】バーサークしていて倒せなかったからなあ、『射手アーチャー』風情を」


 そうか、『射手アーチャー』になっているという事は、接近戦用のコモンスキルが全部オフになってるのか。

 それで、ねえさんの攻撃をさばいたのか。

 世界一の男の名は伊達ではないなあ。


 ホテルに着いた。

 五階までエレベーターに乗って移動する。


「今日は疲れたなあ、風呂に入って休もうっと」

「鏡子おねえちゃん、八階の大浴場に行こうよ」

「そうだな、でっかい風呂は正義だ」


 それは正義だな。


 とりあえず、男部屋の504に入ってくつろぐ。

 泥舟がお茶をいれてくれたので、茶菓子を食べながらお茶を飲む。

 ティーパックの緑茶だけど、落ち着くな。


「『ホワッツマイケル』のメンバーは解るか?」

「ちょっと待ってね」


 泥舟は鞄の中からノートパソコンを出してセットした。


「ええと、あとのメンバーは……、ああっ、クランなのかあ、メンバーは二十人ぐらいいるよ」

「そうなのか、日本に来ているのは?」

「日本に来ているらしいのは、八人かな? マイケル氏、パティ氏、メインメンバーだと、あと『重戦士』のエリベルト・ヴィンチ氏、『錬金術師』のテレサ・ルエンゴ氏、『軽戦士』のウルホ・ライハラ氏、『僧正』のアルマ・トラバーチ氏だね」

「あと二人は?」

「わかんないね、新人らしいよ」


 『僧正ビショップ』が居るのか、僧侶系職業ジョブで、魔法と奇跡を両方使える便利な職業だ。

 コモンスキルで【鑑定】も貰えるので目指している奴も多い。

 レアスキル【鑑定眼】は【鑑定】が育つとレアアップするとも言うね。


「『ホワッツマイケル』パーティが急遽来日したという事で、凄いニュースになっていたね」


 興味が無いので知らなかったなあ。

 ああ、そうか、外界なら六人パーティ縛りは無くなるな。

 八人で来られたら勝ち目が全くない。


「あっ」

「どうした?」

「『ホワイトファング』が難波入りだって」

「あいつらも来るのかよ」

「『ホワッツマイケル』に取られる前にって感じかな」


 まいったな、半グレよりも高レベル配信冒険者の方が百倍やっかいだな。


「マイケル氏に売っちゃうって手もあるよ」

「うーん、そういうのはなあ」


 なんだか好かない。

 『暁』を手放すのは簡単だけど、それをやったら俺の目的は果たせないと思う。

 この剣が俺を150階までつれて行ってくれる。

 そんな気がする。


 泥舟は、俺の顔を見て、だろうね、という顔をした。


「難波迷宮に入らないで三日目に帰るって手もあるけど」

「ねえさんが承知しないよ」

「そうだろうねえ、いやいや、大変な事態だね」

「まあ、風呂に入ってから考えよう」

「そうだね、タカシのおかあさんからの情報も欲しいし」


 俺たちは八階の展望温泉に行った。

 うん、夜の京都市街が見渡せてとても良い温泉だ。

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