第115話 盗賊、パティ・ニュートン

 パティ・ニュートン嬢はテラテラ光るボディスーツに身を包み、腰に片手剣とバックラーを吊している。

 地に伏せるぐらいに背中を丸めている。

 ボディスーツに尻尾が付いていて、それもクネクネ動いている。

 スーツもレア装備なのか。


「勘が良いですネー、タカシボーイ」


 70レベル帯の『盗賊シーフ』はどんな攻撃を使ってくる?

 マイケル氏もいる。

 銃は封じられたとはいえ、高レベル『射手アーチャー』だ、投げナイフででも致命的な攻撃をしてきそうだ。


 ガチーンと鏡子ねえさんが金時の籠手を打ち合わせた。


「世界一のバカヤロウの相手は私がする、タカシはネコ女を」

「わかった、気を付けて」

「最初から、全開でいくぜえええっ!! きやああるあああっ!!」


 鏡子ねえさんが【狂化】バーサークしてマイケル氏に襲いかかった。


「あ、ちょ、ちょっと待って」


 慌てているが、着実に手に持ったナイフで鏡子ねえさんの見えないぐらいの攻撃を弾いている。


「う、うわっ、なんだこれ、四十レベル台の速度じゃねえっ」

「シスターキョウコの【狂化】バーサークは桁が違うヨー」

「は、早く言え、くそ、くそっ」


 さすがに72Lvとはいえ後衛職だからか、鏡子ねえさんにマイケルは押されている。


【狂化】バーサークでパラメーターが倍増してる関係かな」

「『Dリンクス』は曲者揃いで、Eランクパーティとは思えまセーン」

「ありがとう、パティさんも日本語上手いね」

「ありがと、私は日系でーす、パパの国を見に来たかったのデース」


 あ、【多言語理解】のスキルじゃないのか。


「タカシ、油断するな、パティさん、位置を変えている」

「おー、デイシューボーイ、良い戦略眼デース」


 パティさんが急に伸び上がり、何かを足下に叩きつけた。

 パアン! と軽い爆発音と共に紫の煙が噴き上がる。

 風下の俺たちに向かって煙が襲いかかる。


 なんだ? 睡眠? 麻痺?

 一息吸い込んで、意識がぐらっとした。


「フロア64のブラックトレントのドロップ、紫の実でーすっ!」

「『おはようおはよう~~、あかるい笑顔にさんさん太陽さんが~~♪ にっこり顔出しおはようさん~~♪』」


 きゅっと意識がはっきりした。

 みのりナイスだ。


「ああ、『吟遊詩人』バードはやっかいデース、先にミノリンを倒しマース」


 パティさんがみのりの方に行くのを俺と泥舟で塞ぐ。

 ふっと、その姿が消えた。


 【気配消し】!


 こんなに全く見えなくなるのかっ!


「【オカン乱入】!」


 光の柱からかーちゃんが出て来た。

 そして丸盾を持ち上げてパティさんの攻撃を受けた。


 ガッチーン!


「まあ、かーちゃんサン!」

「あんた、ずいぶんレベル高いなあっ!!」


 かーちゃんは横目で激しく戦っている鏡子ねえさんとマイケル氏を見た。


「あっちの伊達男もやばいなあ、タカシ、殺すんか?」

「現時点の世界一の配信冒険者パーティだよ、撃退したい、殺す必要は無いよ」

「わたくしどもは、タカシボーイの持つ『アカツキ』が欲しいんですのヨ~」


 マイケル氏はかーちゃんを見た。


「くそっ、タカシのマミーかっ!!」

「あらいるうぅうぅぅっ!!」


 鏡子ねえさんが目にもとまらぬ速度で爪を、蹴りを、拳を打つ。


「撃退なら、手足の一本も折ればしまいやなっ」

「あっはははっ、素晴らしいデース、できるものならやってみるデース!」


 パティさんがバックラーを構えた。

 【ブラインド】が使えるのか。


 【ブラインド】はバックラーのコモン武技の一つだ、盾に隠れて強襲するスキルになる。

 かーちゃんはニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。

 丸盾を前に出し、シールドバッシュを撃つ。

 だが、パティさんの姿が消える。

 【ブラインド】と【気配消し】の合わせ技かっ!!


「『ストップストップお止まりなさい~♪ 一度足を止めて当たりを見回そう~~♪ ほら足下に赤い花~~♪』」


 みのりの【お止まりなさいの歌】で、移動中のパティさんが倒れた。

 うわ、一気にみのりの首を狙うつもりだったか。

 止まったパティさんの顔が引きつった。

 この歌はチートだよなあ。


 歌が止まった。

 盤面が再び動きだす。


 かーちゃんがすくい上げるようにメイスをパティさんに向けて放つ。

 パティさんは伸び上がり、足を伸ばして片手剣でみのりを打とうとする。

 泥舟がかーちゃんの影から低い姿勢で槍をパティさんの軸足に向けて放つ。

 俺は地面を転がってパティさんとみのりの間に割り込む。


「『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪ あせってもしかたがないからのんびりいこうじゃないか~~♪』」


 みのりの【スロウバラード】がパティさんの動きを鈍らせた。

 うまいっ!!

 『盗賊シーフ』の武器は敏捷性だ、それが半減されるとうま味がなにも無くなる。


 かーちゃんのメイスがパティさんのあばらにぶち当たり、泥舟の槍がパティさんの足に刺さった。


 パティさんが、ごろごろとマイケル氏の近くに転がった。


「く っ そ ー !! 汚 い ぞ っ !!」

「何いうてんの、そんな高レベルで攻めて来るあんたらが悪いやろ」


 みのりの【スロウバラード】は継続している。

 マイケル氏の速度が落ちて、鏡子ねえさんにドカドカ殴られている。


 懐からリボルバーを取り出して、マイケル氏は鏡子ねえさんを撃った。


 六発のうち、五発は金時の籠手の堅い部分で跳ね返したが、一発が脇腹に入った。


「この勝負、預けたゼ~、意外にやるなあ『Dリンクス』」


 マイケル氏はパティさんを抱きかかえ、跳躍した。

 三階建てビルよりも高く跳び、商店街の屋根に乗って走って逃げた。

 なにかのスキルだな。

 【大跳躍】か?


「偉い奴に狙われてんなあ、タカシ」

「こっちの世界一位のパーティだよ」

「鏡子、お腹だし、治すわ。『我が女神に願いて、ここに請願せいがんす、わが友の傷を癒やしたまえ』」


 脇腹にあてたかーちゃんの手から青白い光があふれ、鏡子ねえさんの傷が煙を上げて治っていった。


「な、なおった、なおった、かーちゃん」


 ねえさんはにっこり笑って、かーちゃんに抱きついた。


「『ああ~~あ~~、あたまをすっきりおんどをさげろ~~♪ れいせいにれいせいになれ~~♪ クールになれ~~♪』」


 鏡子ねえさんの目の発光が止まり、普通のモードに戻った。


「うお、あのやろう、鉄砲使うとは」

「パティさんも危ないわね」


 泥舟が考え込んだ。


「タカシ、あの二人ね、『ホワッツマイケル』の後衛なんだよ」

「そうだな、まともに揃ったら勝ち目が無い」

「前衛が来たらまずいね」

「まだ、こっちを舐めて、一人ずつ増やしてる感じだな」


 今回の勝因は、マイケル氏とパティさんが、みのりの呪歌対策が出来てなかったお陰だな。

 次回はきっと対策してくる。

 なんとも気が重いなあ。

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