第114話 晩ご飯は祇園の料亭で

 晩ご飯は東郷先生が迷惑を掛けたから、と言って祇園の料亭に連れて行ってくれた。

 うん、もの凄く場違い感が凄い。

 政治家が来そうなもの凄い格式が高そうな料亭であった。


 高校生が来ていい場所では無いと思うんだが。


「和食のコースか、たのしみだなあ、はもとか出るかな」

「鏡子さん、昨日食べたじゃないですか、はも」

「え、あの焼き魚はもなの?」


 俺も知らなかった。

 泥舟は和食に詳しいなあ。


 上品な仲居さんに通されたのは趣味の良い和室であった。

 なんだか雰囲気あるな。

 窓から綺麗なお庭が見える。


 上座に乃木先生と東郷先生、んで、鏡子ねえさんにみのりと美春さん、俺と泥舟は下座だ。

 これで良いのだろう?

 うん、泥舟が文句を言ってないから良いらしい。


 東郷先生がビールを頼んで、乃木先生と鏡子ねえさんに注いでいる。

 先付けに綺麗に飾られた何かが出て来た。

 なんだろうこれ。

 みのりが食べ始めたので、俺も箸を取って口に運ぶ。

 なんか、イクラが乗った練り物っぽいものだ。

 なかなか美味しい。


「テリーヌだね、とても美味しいなあ」

「そうか、テリーヌなのか」


 なんだか知らないけど美味しい。


 次に小ぶりのお寿司が出て来た。

 押し寿司っぽいね。


「美味い美味い」


 鏡子ねえさんがばくばく食べている。

 そんな勢いで食べて良い物なのだろうか。


 なんだか、ゆっくりと沢山ちょっとずつ出てくるね。

 お吸い物、お刺身、煮物。


「ここは美味しいですね」

「峰屋のお嬢さんに褒められるとは、板長も光栄だろうね」

「いえいえ、私なんか庶民舌なので~」


 みのりが謙遜しているな。

 彼女が庶民舌なら、俺なんかは牛の舌だよ。


 でも、どれもとても美味しい。

 高い和食なんかは初めての経験で楽しいな。

 マナーとかちゃんとしていると良いんだけど。


「鏡子くん、これがはもの天ぷらだよ」

「おお、これがはもかあ」


 ねえさんはうまいうまいとははもの天ぷらを食べていた。

 うん、サクサクして美味しい。

 白身の淡泊な魚なんだな。


 炊き込みご飯とお漬物、お味噌汁が出て来た。

 うん、美味しいなあ。


 結構お腹いっぱいになったな。

 これで終わりかな。


 ゆずのシャーベットが出て来た。

 どうやら終わりらしい。


 ねえさんは満足したかな?


「おいしかったっ、ありがとう東郷先生」

「それは良かった、今日は迷惑を掛けたからね」

「きにすんない」


 鏡子ねえさんはニハハと笑った。


「麒麟さんは不満そうでしたが、もう来ませんか?」

「ああ、白虎は清明派の中で一番できる、あの子がタカシくんに子供扱いされたのだ、もう、打つ手は無かろう」

「そうですか、それは安心しました」

「そうだな、鬼人化すればと思ってもな」

「鬼人の肉が無いわい、もうすでにな」

「鬼人化?」

「陰陽師にも奥の手があってな、酒呑童子の肉という触れ込みの物があって、口にすると鬼の力と速度を得られる、が、反動がな」

「半数は死ぬ、半数は再起不能だな」

「そんな物が」

「明治の時に全部使って最後の妖怪変化を封印してもう無いんじゃ、安心せい」


 それならば安心か。

 権八の時のように注射を勧められても打ちはしないだろうし。


 和コースを完食した。

 京都らしいご馳走を食べられて良かったなあ。

 昨日の鉄板焼きのお店も美味しかったけど、料亭の料理は繊細さが違うかんじだね。


 さて、ホテルに帰りますか。


 乃木先生達とは料亭の前で別れた。


「じゃあ、明日も迎えにくるからね」

「はい、お願いします美春さん」

「私も観光したい~~」

「鏡子は明日も採寸だ」

「できあがりを取りに来る時にまた京都に来たまえよ」

「わかった、その時にみんなと観光する」


 そうだね。

 俺たちも鏡子ねえさんがいないのでちょっと寂しいし。


 四人で夜の京都の町をぶらぶらと歩く。


 そして前方に、赤い服を着てかっこつけたポーズを取っているマイケル氏がいた。


「げえええ」

「また来た」

「お、世界一か!!」


 俺は黙って収納袋から武器を取り出して、みなに配った。


「へいっ、その子が、全裸狂女の鏡子さんだねーっ、ヒュー、可愛いじゃないのう」

「うるせえ、世界一」

「なんの用ですか?」

「決まってるネエ、『暁』だよ~~」

「銃は取り上げられたんですか?」

「そうだよ、聞いてくれよ、ヘイベイビー、日本の警察は頭が固くて、次に迷宮の外でガンを使ったら国外退去処分とか言うんだゼ~」


 銃は封印されたのか?

 使わないように言われただけか?


「じゃあ、もう、マイケルさんに勝ち目は無いですね、どいてください」

「そうでも、無いゼ~」


 そう言った瞬間、後ろ頭がチリチリした。

 【危険察知】!!


 反射的に身をよじると、真っ黒なスーツに身を包んだ外人の女性がびっくりしたような顔で俺を見た。

 腰に差した『暁』に、彼女が手を伸ばして届く寸前だった。


「ホワイ、気付かれるナンテー!」

「ええっ! なんで、なんでタカシくん、パティの【気配消し】を破れるんだーいっ!」


 俺は飛び退いてパティさんから距離を取った。


「タカシ、『ホワッツマイケル』の盗賊シーフ、パティ・ニュートン嬢だよ。あだ名はキャットウーマン」

「おお、よく知ってますねえ、デイシューボーイ、うれしーでーす」


 【気配消し】持ちの盗賊シーフか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る