第111話 金閣寺に来たぞ

 美春さんの軽自動車に乗り込んで金閣寺に行った。

 嵐山から意外に近いのか。

 大きい駐車場が割と空いているね。


「まだシーズンじゃないからね」

「行楽シーズンは混みそうですね」

「すっごいわよ、お祭り時期の京都とか」

「一度行って見たいですね」

「今度の山矛にいらっしゃいな、泊まりは家で良いし」

「いやあ、申し訳無いですよ」

「Dリンクスさんなら大歓迎よ」


 美春さんは意外にDチューブファンなのかな。


「美春さんは陰陽師も陰陽鍛冶もやってないんですか」

「やってないわ、陰陽師になるには神力が足りないって、あと陰陽鍛冶は女性はなれないのよ」

「そんな、前近代的な」

「陰陽関係なんて前近代よ」


 美春さんはほがらかに笑った。


 ん、なんか、Dチューバー系半グレな感じの奴らがいるな。

 三人、Dスマホで何か連絡しているようだ。


「網を張られたかな」

「まあ、三億円だからねえ」

「え、なになに?」

「あ、こっちの話」


 とはいえとっさに武器とリュートが出せるようにしないとな。

 半グレ相手なら鏡子ねえさんが良いんだが。

 居ないからしかたがないね。


 拝観料五百円を払って総門をくぐる。

 落ち着いた感じで良い場所だなあ。


「金閣寺って一休さんの将軍様が作ったのよね」

「そうだねみのりさん、よく知ってるね。足利義満三代目将軍が別邸として作ったんだよ」

「泥舟君は歴史に詳しいわね」

「いや、それほどでも」


 泥舟が照れて笑った。


 しばらく歩くと池が見えて来た。

 そして、その奧に金閣寺が見えてきた。

 ああ、良い景色だなあ。


「舎利殿だねえ」

「中に入れるの?」

「入れないなあ、外から見るだけだよ」


 金色の建物が池に映って夢の中みたいな光景だな。


「綺麗ねえ、今日は晴れていて綺麗に見れてよかった」

「前の時は天気悪かったのか」

「小雨で、傘さして見たよ、それでも綺麗だったけど、今日の方が良いなあ」


 そう言ってみのりはこちらを見て笑った。


「タカシと見れて良かったよ」

「うん、それは本当」

「ありがとう、泥舟、みのり」


 うん、なんだか嬉しいな。

 そうか、この寺は千年も前、金時の籠手と同じぐらい昔に出来たんだなあ。

 そう思うと感慨深い。

 千年前から俺たちを待っていてくれたんだなあ。


「そういや、金閣寺、何回か燃えているんだよね」

「二回だね、応仁の乱の時と、昭和のアレな人の放火で」


 な、なんだよ、昭和に再建されたのかよ。

 ま、まあ、綺麗だからいいや。


 道は金閣をぐるりと回るように続いていた。

 結構近くまで行けるんだな。

 ピカピカだ。


 道は森の中に入り、泉とか小さな滝とかがあった。

 石段を上がって行くと小さな池があった。


「Dチューバーになってレベルアップしてね、疲れにくくなったよ」

「それはあるね」

「昔は石段とか上がるとハアハア言ってたけど、今はすごい平気」


 確かにそれはあるね。

 心肺機能とか持久力が高くなるから疲れにくくなるんだ。

 意外とダンジョンアタックは体も使うしね。


 茶室があって、御朱印所があった。

 あと、お不動さんだな。


「あ、抹茶ソフトだって」


 みのりがでででとお茶屋さんに寄って行った。


「あ、お抹茶セットだって」

「美味しそうだね」


 うむ、五百円か、なかなか安いかな。


「ちょっと一息ついていきましょうか」


 みんなでお茶屋さんに入る事にした。


 外の茶席でみんなで座って、お茶を頂く。

 うーむ、抹茶だな。


「うん、なかなか美味しいね」

「泥舟君、お茶の味解るのか~」

「まあね」

「和の達人だねえ」


 俺は良くわからないから金箔が付いた和菓子を食べるぜ。

 わ、餡がしょっぱい、不思議な味だ。

 でも、嫌いじゃ無いかも。


 ああ、良い雰囲気だなあ。

 だけど、駐車場に戻ると、たぶん半グレが居るんだよなあ。

 面倒臭いね。


「みんなで京都に来れて良かった、鏡子おねえちゃんが居ないのが残念だけどね」

「ねえさんは騒ぐからなあ、でも居ないと確かに寂しい」

「ふふ、それはあるね」

「みんな仲良しなのね」


 そうなんですよ、美春さん。

 まあ、メインはねえさんの装備作りなんでしょうがないんだけどね。


 階段を降りると、金閣寺の参道は終点だ。

 お土産物屋さんの向こうに第一駐車場が広がり、半グレが五十人ぐらいうんこすわりをしていた。


「また、ずいぶん集まったわねえ」


 美春さんが呆れ声を出した。

 あれ、気が付いていたの?


 奴らは駐車場の出口を塞いでいるので排除しないと出られないな。


 美春さんは自動車の後ろハッチを開けた。

 金属製の弓を取り出す。


「もう一個あるからみのりちゃんも使う?」

「あれ、これって?」

「素材工学の粋を集めた新型コンパウンドボウ、うちの研究室の製作の物」


 そう言うと美春さんは矢壺を腰に付けて弓を引き絞った。

 どう見ても射手アーチャーのスキルの匂いがする。


「えへへ、お爺ちゃんには内緒よ、レベルは15、ワーウルフは突破済」

「そうだったんですか」


 なるほどね。


「初手は定石通り、鏑矢で開戦の合図ね」


 鏑矢は放たれ、ピュイイイイと甲高い音を立てて、半グレの群れの真ん中に突き刺さった。


 半グレどもが立ち上がる。


 俺は収納袋から『暁』、手盾、泥舟の手槍を出した。


「みのり、リュートは?」

「今回は美春さんの弓をためすよっ」

「足狙ってね、足、頭に当たると死んじゃうから」

「はいっ」


 よし、開戦だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る