第110話 乃木家の母屋でお昼をいただく

「みなさん、ご飯ができましたのでいらしてくださいな」

「ごはん!! あんただれっ」

「あら、おほほ、乃木の孫の美春ですの、鏡子さん」

「そうか、何を食わせてくれるのっ」


 ねえさん、がっつくなよ。


「田舎料理ですけど、おばんざいのようなものを作りましたよ、どうぞ」

「わかった、爺さん、いこういこう」

「これこれ、いそぐでない、片付けないと」


 俺は『暁』と手盾、泥舟の手槍を収納袋(小)に仕舞った。


「タカシ、これもこれも」

「わたしもリュート仕舞う」


 ねえさんの金時の籠手とみのりのリュートを収納袋に仕舞う。


「なんとも便利じゃのう」

「迷宮産のアイテムですよ」

「婆も一度もぐるかのう」

「そうだよ、桔梗おばあちゃんも『吟遊詩人』バードをやろうよっ」

「この歳になって新しい事を始めるか、まあそれもいいのう、これ、乃木、東郷、わっしを難波迷宮につれていけい」

「あ、ああ、そうだな、無害なら利用しない手はない」

「陰陽の基本に迷宮のレベルアップが足されると凄い事になりそうだな」


 みんなで母屋にお邪魔した。

 なんだか映画で見るような箱膳が並んでいて、そこに精進料理のような物が並んでいる。

 良い匂いだ。


「美味しそうだなあ」

「おかわりもありますので、沢山食べてくださいね、鏡子さん」

「美春は何やってるの?」

「大学生ですよ、素材工学をやっています」


 おお、陰陽鍛冶の家系なのに、先端技術を学んでいるのか。


 正座をして箱膳に向かい合った。

 うーん和食のマナーとか解らないが、まあ、鏡子ねえさんとかはあぐらをかいてビールを注いで貰っているので、あまり問題は無いのだろう。

 泥舟の仕草をまねしよう。


「こういう箱膳のお食事ってはじめて、映画で良く見るよね」

「うちはお正月とか箱膳だよ、普通に食べれば大丈夫だよタカシ」

「そ、そうか」


 箱膳に手を合わせる。


「いただきます」

「いただきまーす」

「いただきます」


 ぱくり。

 おお、なんだか素朴な味だけど、美味しいな。

 ご飯もつやつやだし、お吸い物も美味しい。

 おかずは魚を焼いたものと、鳥の治部煮っぽいものだ。


「おいしいですね、美春さん」

「あら、うれしいわみのりさん」

「美春は良い嫁になる」

「貰ってくださいよ、鏡子さん」

「うむ、川崎にこいっ」


 宴席に笑いの花が開く感じに盛りあがっているな。

 親戚の集まりって感じで楽しい。

 俺の親戚は、まあ、アレだからな。


「タカシはまた強くなったね」

「白虎くんに陰陽の刀術を教えてもらったからな」

「タカシ君は本式の剣道もやっているね」

「ええ、迷宮で知り合った師匠に教わりました」

「なるほどなあ、だから体幹が出来ているのだな」


 俺の基礎は厳岩師匠であり、【剣術】スキルであり、【盾術】スキルでもある。

 そろそろ、上の職業ジョブを目指したい所なんだけど、やはり順当に考えると『軽戦士』かなあ。

 『剣士』も憧れるのだけど、盾無しが基本の職業ジョブだから、もったいない。


「タカシ、明日はどうすんだ?」

「え、なにが」

「もう、乃木さんちの用事が済んだんだから、難波行こうぜ難波」

「ばかもん、お前は明日も採寸じゃ」

「えー」

「まだ動いたときの状況とか見れて無いしね、鏡子君は明日も来て貰うよ」

「えーっ」


 俺はみのりと泥舟と顔を見あわせた。


「京都観光をしようっ!!」

「そうだね、べたな所に行こう、清水寺とか」

「そうそう、タカシくんの修学旅行の復讐戦をするのよ、大仏も見に行って、砂のお庭のお寺に行って、金閣寺ね」

「いいのか、お前達、中学の頃行ったんだろ」

「「いいのっ!」」


 二人に押し切られてしまったよ。

 でも、なんか悪く無い。


「良いわね、車だそうか?」

「良いんですか美春さんっ」

「わりと名所に行く事多いから慣れているのよ」

「いや、悪いですよ」

「大丈夫大丈夫、おねえさんに任せなさい」

「私も行きたい」

「お前は駄目じゃ」

「鏡子くんは駄目だよ」

「ひーん」


 鏡子ねえさんも災難だなあ。

 やっぱり金時の籠手と同水準の物を作るって事で気合い入ってるんだろうな。

 過去の名工への挑戦なのだろう。


「「「ごちそうさまでした」」」


 いやあ、美味しかった。

 美春さんごちそうさまでした。


「午後は、鏡子さんの採寸?」

「そうじゃな」

「色々な足技を見せてもらわなくては」

「じゃあ、タカシ君たちを連れて金閣寺に行ってくるわ」

「わたしも金閣したいー」

「「だめじゃ」」


 しかし、美春さんに甘えて良いのだろうか。


「良いんですか美春さん」

「良いの良いの、せっかくDチューバーの有名人と会えたんだから、交流しとかないとね」


 おおDチューブとか見るんだ。


「いやあ、なにげに観光できますな、泥舟くん」

「そうだね、地元の人の車とか助かる、あとみのりさん、大仏は奈良ね」

「おおっとおっ」


 大仏も見たいけど、奈良だと遠そうだね。

 京都は見る所が沢山あるから、選ばないと駄目っぽいな。


「さ、行きましょう、タカシ君、みのりさん、泥舟君」

「はい、あ、ねえさん、籠手出しておくよ」

「ああ、確かに、有った方がいいな」

「たすかるぞ、タカシくん」

「私も観光したい~~」


 鏡子ねえさんが悲しそうな顔をしたが、まあ、また今度ね。

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