第109話 庭先で話をしながらかーちゃんを呼ぶ

 泥舟と向かい合い、手盾の復習をする。


「じゃあ、いくよー」


 泥舟の【槍術】スキルも上がってきたので突きが鋭くなってきたな。

 だが、手盾は軽くて頑丈なのでついて行ける。


 チンチンチンチチン。


 堅い金属なのか、打ち合うと澄んだ音がして良いな。


「もう手盾を我が物にしているな、タカシくんは」

「白虎くんに見せて貰いましたからね」


 バックラーとちょっと違うんだけど、マタギナガサと合わせるのならば手盾が合理的だな。

 使いやすい。


「東郷さん、もう一枚手盾を頂けますか?」

「おう、予備かい?」

「いえ、越谷さんにあげようと思いまして」

「『宵闇』の執行者か、ヤクザだと言うじゃ無いか、大丈夫か?」

「ちゃんとした昔気質の侠客の方ですよ」

「まあ、タカシくんが言うなら信用しよう」

「お幾らですか?」

「ああ、いいいい、何百枚やっても『彩雲』とはつり合わないからな」


 東郷さんは苦笑して手を横に振った。

 それは悪いなあ。


 東郷さんは今、鏡子ねえさんを敷物の上に寝かせて、足のサイズを計り、メモをしている。


「表権能はどこを狙うべきかのう、乃木」

「定石であれば防御権能だが、武器でもあるしなあ、悩ましい所だ」

「あの爆発するやつがいい」

「あほうめ、あれは真権能じゃっ」


 足下で爆発させる脚絆かあ。

 攻撃とか移動にも使えそうだが、派手すぎないだろうか。


 陰陽師さんたちとは微妙な関係になったが、陰陽鍛冶さんとは信頼関係が作れた気がするな。

 京都に来て良かった。


「外国から退魔武器の注文とかは入っていませんか」

「入ってるね、各国の大使とかが連絡をしてきて、何年も予定が塞がったよ」

「わしの所はまだじゃな、少し弟子を回すか?」

「いや、退魔防具もそのうち知れる、注文が入るから温存しておけ、ものすごく儲かるぞ」

「そ、そんなにか」

「悪魔側は、三億から四億積んでくれた、外国は五億から八億、ふっかければもっと取れるがそれは少しな」

「鍛冶の魂が曇るな、しかし、億か、弟子をとるかな」


 なんだか生臭い話になってきたな。

 まあ、仙人みたいな人達だから、これくらいの幸運があっても良いと思うな。


「そういや、迷宮の職業ジョブにクリエイト系があったぞ、おっちゃんら」

「クリエイト? とは」

「なんか生産系職業ジョブらしいぞ、鍛冶とか、料理とか、裁縫とか」


 陰陽鍛冶の二人は顔を見あわせた。


「ステータスがレベルアップで増えるのか……」

「器用度と知能が上がれば、出来なかった技にも手が届く……」

「たぶんクリエイトスキルも手に入るぞ」


 東郷さんは腕を組んで考え込んだ。


「これはー、悩ましいな乃木。悪魔憑きになれば大幅にパワーアップだが……」

「そうだな、どうなのだろうか」

「悪影響が無いなら飛びつく所だが」


 近くで桔梗さんに謡を習っていたみのりが振り返った。


「どうして悪魔憑きをそんなに恐れるんですか?」

「うむ、それがなあ、陰陽師が必死になって封じていた妖怪変化の住処でな、妖気を吸い込むと人間が魔物化して取り込まれるという現象があってな」

「いかに妖気を吸い込まないようにして、実力を上げるかが、陰陽師の最大の課題だったんだよ」

「でも、何とかして、魔物さんたちを退治したんでしょ?」

「退治というか、なんとか封印しただけというのが正しいな」

「時間を凍結させる呪を使ったり、精神呪術で眠らせたりで、なんとか、明治の頃に最後の妖魔を封印したんだよ」


 桔梗さんが笑った。


「ワシがその実戦最後の生き残りじゃわいな」

「わあ、桔梗お婆ちゃんも戦ったのっ?」

「そうじゃそうじゃ、まあ、沢山の陰陽師が死んだぞえ。人の命と、神降ろしの権能武器でなんとか弱らせて、術師が封印じゃて。各国どこでもそうじゃったろ、乃木や」

「そうですね、近代に入る前に、世界各地の妖怪妖魔は封印されました。その国々によって魔術や呪術が独自発展していましたね」


 桔梗ばあさんは、ふうとため息をついた。


「日本で最後に倒したのは『大狐』でな、ずる賢くて何度も封印直前まで行ったのじゃが、そのたびに逃げて人を食って復活しおってな。なんとか、北海道で封印したぞえ」

「なんだか、凄いですねえっ、陰陽師の人が影で頑張ってくれたから、今の社会があるんですね」

「ああ、そうなんじゃが、まさか、悪魔がこんなに大規模に民を巻き込んで迷宮を立てるとは想定外でなあ、陰陽師の者達も、どうしていいやら困っておるのよ」

「悪魔たちは信用できない、だが、社会は迷宮から出た産物無しでは回らない所まで来ている、まったく、どうして良いやら」


 陰陽師さんたちは背中を丸めて黙り込んだ。

 たしかに、対応が難しいよね。


「【オカン乱入】」


 困った時にはかーちゃんに意見を聞いてみよう。

 異世界は回っているのだから、良いアイデアも出るかもしれない。


 光の柱からかーちゃんが出て来た。


「おお、タカシ、ええと、ここはどこや?」

「陰陽鍛冶の乃木さんのお家だよ、かーちゃん」

「かーちゃんっ」


 鏡子ねえさんが飛び起きた。


「あ、これはお初にお目に掛かります、陰陽鍛冶の乃木大作ともうします、タカシくんのお母さんですね、お噂はかねがね」

「ああ、これはこれはご丁寧に、タカシの母のヨシエと申します、よろしくおねがいいたしますで」


 かーちゃんは敷物に正座して頭を下げた。

 いやいやと言いながら東郷さんと桔梗さんの挨拶が続く。


「挨拶していると、かーちゃん帰ってしまいますよ、三分しかないですからね」

「お、おおっ、おお、その丸盾は魔法の掛かっている品ですな」

「そうなんですよ~、東郷はん、見てみますか」


 かーちゃんは丸盾を外し、東郷さんに渡した。

 メイスを乃木さんに渡す。


「これはなかなかの品物、バランスも良い」

「権能とレアスキルの関係はどうなっているのだろうか、術式系統がちがうのか」


 というか、異世界武器鑑賞会に呼んだわけじゃないんだ。


「かーちゃん、迷宮のレベルアップで人間の精神に影響とか無いよね」

「んー、無い事はないな、強うなるんで、イキル奴が多いで」

「ああ、そう言うのじゃ無くて、精神的に悪魔になるとかのやつ」

「ああ、無いで、遙か昔は魔力をそのまま吸い込んで魔物になってしもうたようやが、途中で神様がシステムを変えて、人の精神に有害な部分を魔石にして他を吸い込ませるようにしたんやで」

「「「「「……」」」」」

「システムアップデートかっ!! 神様すげえっ!!」


 あ、そうすると、昔に来ていた妖怪変化って、神様のアップデート前の奴が次元を越えてきていたのかな?

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