第108話 スキル【バインド】で勝負を決める

 白虎君の手盾の雰囲気が重く変わった。


 盾の権能というとなんだろう。

 攻撃系では無いと思うが、正直見当も付かない。


 踏み込んで斬ろうとした瞬間、ちりちりと後ろ頭に反応が来た。


 【危険察知】!


 慌てて振りを止めたが白虎君が手盾を押し込んで『暁』と接触させた。


 ドカン!!


 『暁』が接触したわずかな部分を中心に爆発が起こり、俺は吹き飛ばされた。


「見たか、権能[爆破装甲]」


 空中を飛ばされながら、体のチェックをする。

 腕は動く、折れてはいない。

 『暁』を持っていた右手は爆発に巻き込まれて火傷を負った。

 だが、動く。

 上半身に爆破の衝撃を受けたが胸当てで吸収、あばらが少し折れたか。


 俺は空中で体をひねり玉砂利の上に着地した。

 ずささーと小石をはねちらかしながら滑り勢いを消した。


「ふう、びっくりした」


 白虎くんが信じられないという顔でこちらを見ていた。


「タカシくんに勝ち目はない、降伏したまえ」


 声が少し揺れているな。


「みのり、一対一の決闘だ、【回復の歌】は後だ」

「は、はいっ、でもっ」


 でもじゃないよ。


「まだ戦えるよ、白虎くん」


 白虎くんは歯を食いしばってこちらに駆けよって来た。

 俺は息を吸い込み気合いを入れる。


 ネタは割れた。


 手盾に攻撃が当たると爆発して威力を消し、同時に攻撃する。

 なかなか素晴らしい権能だ。

 攻略法は接近戦だ。


 俺は間合いを思いっきり詰める。

 詰めてくるとは思わなかったのか、白虎くんが目を見張る。

 手盾を壁のように前に出してくる。


 俺はバックラーのサブスキル【バインド】を仕掛ける。

 これはバックラーを持ったまま、関節技を仕掛けるコモン戦技だ。

 手盾に攻撃が当たると爆発するのなら、接触しなければ良いだけの話だ。

 手を伸ばし、体を開いて、手盾を越して白虎君の左腕に左手を絡みつかせる。


「なっ!」


 そのままねじるようにして地面に白虎君を組み伏せる。


「があああっ!!」


 ボキン!!


 彼の関節をテコの原理を使って折った。

 手盾を後ろから蹴って手から離させる。


 『彩雲』は地面をコロコロと転がり倒れた。


「降伏しろ」

「い、嫌だっ、こ、殺せっ」

「面倒くさい」


 そのまま右腕もひねり上げて折った。


「ぎゃあああっ!」

「降伏しろ」

「ぎいいいっ!!」


 俺を乗せたまま白虎くんは立ち上がった。

 バックラーを振って白虎君の顎を打ち脳しんとうを起こさせた。

 べしゃん、と白虎君は気を失って倒れた。


「東郷さん」

「うぬぬっ、し、しかたがない、勝者新宮タカシ」


 俺はふうと息を吐いた。


「『さあ目を開けて傷を癒やそうよ~~♪ 頑張った君の勇気を力に変える~~♪ 治れ治れ治るんだ~~♪』」


 みのりが【回復の歌】を歌ってくれた。

 体のあちこちからシュワシュワと煙がでて回復していく。

 白虎君の体も煙をあげて治っていく。


「なんとまあ、便利じゃのう」

「良いでしょ、桔梗お婆ちゃん」


 いつの間にか謡は終わっており、『彩雲』から緑の光が離れ、天に昇って行った。


「け、権能も使わずに……」

「三十のレベル差があるんですよ、多少の技術はステータスで押さえ込めます」

「そ、それはそうだが、白虎も相当鍛えておったのに……」


 鏡子ねえさんと泥舟が寄ってきた。


「やったなあ、しかし凄いな爆発する盾」

「で、貰うの手盾?」


 俺は首を横に振った。


「東郷さん、『彩雲』のかわりに普通の手盾をください」

「え、いや、正々堂々の勝負だ、『彩雲』の権利は君に……」

「白虎くんに不利すぎました。正々堂々の勝負とは言えませんよ」

「君は、君は~~っ、我々の無理難題だったのに、それでも良いと言うのかっ」

「はい、皆さんが思っているよりもレベル差って大きいんです。俺は今、白虎くんの三倍の力で、三倍の反応速度で、三倍の器用さで戦いました。真権能があっても勝負にはなってないんです」


 乃木さんは首を振った。


「タカシくん、それで良いのか?」

「ええ、かまいません」


 東郷さんは深く頭を下げた。


「すまない、タカシくん」


 同じレベル帯だったら、勝負は負けていたかもしれないし、別にかまわない。

 黒服陰陽師の人がやってきて、俺に手盾を差し出した。


「タカシさん、これを使ってください」

「ありがとう、遠慮無く」


 俺は手盾を受け取った。

 ああ、軽くて使いやすそうだな。


 麒麟さんが俺の前に立った。


「兄さんは負けてません、同じパラメーターだったら、そうしたらっ」


 目に涙がにじんでいた。

 悔しいんだろうな。


「そうだね、でも、白虎くんはパラメーターを上げる手段を持たなかった、だから負けたんだ」

「ぜったいに、『暁』は我々が手に入れます、どんな手を使ってでも」

「そうか」

「これ、麒麟、勝負汚いぞっ、すまんねタカシ君、清明派としてお詫びする」


 麒麟さんと陰陽師さんたちは気を失った白虎くんを外に運んで行った。

 手盾をくれた陰陽師さんが小さく頭を下げた。


「なんともなあ、なんともなあ、こんなに違うのか、Dチューバーと普通の人間とは」

「そうなんだ、そして、迷宮を行くにはどうしてもDチューバーとならなくてはならんのだ、東郷、これで解っただろう」

「体力と力だけの話かと思っていたのだ、ちがうのだな、知力も、器用度も、精神力も、全てが絡み合って上がるのだな」

「そうなんです、理解して頂けて嬉しいです」


 鏡子ねえさんが東郷さんの肩をつついた。


「おう、おっちゃん、装甲脚絆の方の製作しとくれよ」

「ああもう、解ったわいっ、乃木と協力して、金時の籠手に劣らぬ奴を作ってやるわいっ」

「わーーーい」


 鏡子ねえさんはマイペースで良いよな。

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