第107話 退魔武器収奪戦を始める

 結局、庭に出て、俺と白虎くんとの一対一の勝負となった。


「兄さん、負けないで下さいね」

「もちろんだ、よろしくタカシくん」


 白虎くんは大学生ぐらいのイケメンであった。

 サングラスを外すとちょっと甘い感じの顔が出て来たな。


 ルールは神降ろし有りのデスマッチ、どちらかが降伏するか死ぬまで勝負が続く。

 『暁』の真権能は対魔物用なので、向こうの手盾『彩雲』の真権能しだいで有利不利が変わりそうだ。

 俺も白虎くんもマタギナガサに手盾(俺はバックラーだが)と同じ装備だ。


「タカシくん、無法な申したてなのだ、断ってもいいのだよ」

「いえ、陰陽師の刀法に興味がありますので。良い機会です」


 俺はマタギナガサと盾の正式な戦い方を知らない。

 【剣術】スキルと【盾術】スキルを組み合わせて、なんとなく使っているだけだ

 有機的な技があるなら、盗んで帰りたいね。


 白虎くんの構えを見ると、相当に練度が高い。

 厳岩師匠を彷彿とさせる腕前だね。


「呪歌でタカシくんを応援するのは有りですか」

「無しじゃ、バカモン」


 みのりが東郷さんに怒られた。

 彼女は桔梗お婆ちゃんと共に敷物を引いた玉砂利の上にちんまり座っている。

 まあ、【スロウバラード】とか掛けられると勝負があっという間に決まってしまいそうだしな。

 泥舟と鏡子ねえさんも乃木先生の隣に座っている。

 反対側の敷物には陰陽師達が座っている。


 審判は東郷さんだが、まあ大丈夫かな。

 Dチューバーを見下しているけど、そんなに悪い人でも無いようだ。


「それでは、これより『収奪戦』を行う、これは古式にのっとった正当な闘争であり、勝っても負けても恨みを残してはならぬ」


 玉砂利の庭で少し離れて白虎くんと向き合う。


「陰陽師の人ってさ、なんでブルースブラザーズみたいな格好をしてるの?」

「え、ああ、いや、みんなああいう格好が好きなんですよ」


 まあ、このご時世に和服とかは難しいからかな。

 チェンソーマンの公安の人っぽくもあるね。


「陰陽師の人達ってパーティ組むの?」

「はい、剣士、術師、歌女って別れてますよ、麒麟は術師です」

「えへん、そろそろ良いかな」

「あ、すいません」


 東郷さんは片手を上げた。


「それでは、『収奪戦』開始!!」


 片手を振り下ろす、これで『収奪戦』が始まったようだ。


 桔梗さんが琵琶をベインベインと弾き、謡を始める。


「『ひふみ よいむなや こともちろらね しきる ゆゐつわぬ そをたはくめか うおえ にさりへて のますあせゑほれけ』」


 神韻とした雰囲気が辺りに漂う。


[執行者確認せり、神力微弱、魔道力大、執行階位初段]


 音声が響いてくる。


[問う、汝は神降ろしを望むか]


 今回はまだ良い。

 様子見だ。


[否と判断す、執行を望む時点で声を上げよ『大神降ろし』と]


 わかった、ありがとう。



 白虎くんの構えには隙が無いな。

 盾を少し前に出して、右手の退魔刀はゆるりと持っている。

 俺はバックラーを前に突き出すいつもの構えだ。


 ふわりと彼の肩が揺れた、と思ったら踏み込んで来た。

 意外に早い。

 手盾をバックラーに当てて、半身を返して斬り込み。

 おお、かなり鋭く打ち込むね。

 俺は『暁』で打ち流す。


 キイインッ!


 澄んだ良い音がする。

 ふむ、動きが【剣術】と違うな。

 厳岩師匠に教わった剣道に近いか。


 カキンカキンカキン!


 巻き込むように回転する白虎君の打ち込みをバックラーでさばいて行く。

 軽く振るのだなあ。

 ああ、切れ味が良いから軽くでも切れるのか。

 俺はなまくら初心者剣の時期が長かったからな。


 俺も力を抜いて、軽く巻くように『暁』を振る。

 うん、良い感じ良い感じ。

 こっちの方が軌跡が安定するし、攻撃が素早い。


「つ、強いですねっ、タカシさん」

「白虎くんも良い腕だね、勉強になるよ」


 だんだん、お互いの体が温まってきた感じで、速度がどんどん上がる。

 短い刀身なんで、攻撃の隙が少なく、たたみかけるように斬れる。

 短いピッチの斬撃をバックラーで細かく打ち下ろす。

 あ、そうか、手盾のように柔らかく動かすのか。

 いいぞいいぞ。


「だんだん……」

「動きが似てきた、タカシは学んでるな」

「実戦で、なんて目と勘なんだ……」

「迷宮は初見の敵が多いから、観察して、突破するのが癖になるんだー」

「あと、タカシはもうレベル三十台なんですよ、知力と器用度の数値が高いんです」

「レベルアップか!」


 観客席で泥舟が考察を始めたな。

 実際にその通りで、高くなった知力と器用度、そして【気配察知】をフルに使って白虎くんの動きを学んでいる。

 いろいろな発見があるな。


 白虎君の手盾『彩雲』には磁力みたいな反発力がある。

 表権能かな。

 この反発力で相手を動かして、丁度良い場所で切り落とす、のが基本のようだ。

 バックラーでは使えない技だけど、ちょっと押して斬る事で似た感じに出来る。


 白虎君の顔に汗が浮かび始めた。


「請う『大神おろし』」


 白虎君が『大神おろし』を請願した。


 天から『彩雲』に向けて威圧感のある緑色の光の球を降りてきて宿った。


 さて、見せて貰おう。

 『彩雲』の真の権能を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る