第104話 乃木さんが運転する車で嵐山へ

 大浴場は温泉でとても良かった。

 大きいお風呂なんか久しぶりだなあ。

 おじさんの家だと最後だったし、新居だとシャワーだからね。


 ホカホカになって浴衣を着て寝た。


 朝食はバイキングだな。

 色々あって美味しい。

 泥舟は和食中心、みのりは洋食中心だな。

 俺はまあ、半々で。

 鏡子ねえさんはなんか山盛りだ。


 みんなの浴衣姿も良い感じだが、ねえさんの着方がだらしなくてハラハラするね。

 みのりは可愛いな。


 沢山食べて部屋に戻って着替えてホテルの前で待つ。


 パンパンとクラクションが鳴って、車が横付けされた。


「タカシくんだね、京都へようこそ」

「乃木大作先生ですね、今日はよろしくおねがいします」

「「「おねがいしまーす」」」

「鏡子さんに、みのりさんに、泥舟くんだね、やあ、みんな若いね、将来が楽しみだ」

「ありがとうございます」


 乃木さんの車に乗り込んだ。

 鏡子ねえさんが助手席、あとは後ろだな。

 みのりが真ん中、俺が右、泥舟が左だ。


 乃木さんが、車を発進させた。

 【気配察知】を発動させると、二台、つけてくる車がいるな。

 黒塗りの高級車だ。

 みんなエージェントみたいな黒服を着ている。


「陰陽師がつけてきてますね」

「そうだね、まあ、仕掛けては来ないだろう、陰陽鍛冶はこれでも貴重でね」


 ああ、そうか装備が手に入らなくなるから仕掛けてはこないのか。

 タクシーを使うのを予想していたかな。


「どうして迷宮運営のお仕事を引き受けたんですか?」

「あはは、それがねえ、司馬組襲撃があった夜にサッチャンが急にやってきてね、殺されるんじゃないかとビクビクして対応してたら、なんだか退魔刀を気に入ったので迷宮の宝箱に入れたいので作ってくれないか、って言われてね」

「うわー、サッチャンさまらしい~~」

「迷宮の配信冒険者の手に渡るなら、それは誇らしい事かなあって思ってね、引き受ける事にしたんだよ。今、退魔刀と、退魔弓を作っているよ」


 弓かあ、射手アーチャーの人が喜びそうだな。

 乃木先生は柔らかく笑った。


「お幾らぐらいで頼まれたんですか?」

「それがねえ、三億とか四億とか言ってきてね、びっくりしたんだよ。そんなに高く私たちの武器を評価してくれたんだなあって、なんだか嬉しくなったよ」

「ちなみに、陰陽師の人には幾らぐらいで売っているんですか?」

「二、三十万だねえ。芸術品の日本刀じゃあなければ、だいたいそんな物なんだよ」


 刀剣は日本刀以外の槍の穂先とかは、安いって聞くね。

 それは鍛冶の巧としては嬉しいだろうなあ。


「清明派の奴らが悪魔に魂を売るのかって怒って電話してきたけどね、だったらお前らも三億積めって言ったら黙ってしまったよ」

「それくらいの価値はありますよ、神様を降ろせる武器なんですから」

「ああ、罪獣戦の動画は見たよ、良くツクヨミ様とアマテラス様を降ろしていたね」


 おっと、気が付いた。

 『暁』は盗品だからな、返さなくて良いのか聞いておかないと。


 車は京都市内を離れ、嵐山の山の中に入っていった。

 依然、二台の車は追ってくる。


「それで、『暁』ですけれども、返却しなくても良いのですか?」

「いいよ、もちろん。馬鹿な弟子を雇って、『暁』と『宵闇』を盗まれたのはこちらの落ち度だ、神降ろしを成功させた執行者に返せとは言わないよ」


 ああ、良かった。

 ほっとしたな。


「ああいう神が宿った武器は、時々姿を消すんだよ、そしてね、めぐりめぐって必要な人の元にたどり着くのさ、『巡行』って私たちは呼んでいるね。だから『暁』はタカシくんの元へ、『宵闇』は越谷さんの元へ廻っていったのさ」

「そういう物なのですか……」


 神が宿る武器は深いなあ。


「神様が宿る武器って多いんですか?」


 みのりが聞いた。


「そんなには無いね」

「古代から伝わる武器とかねーのですか?」

「フツノミタマが宿る武器はね、鏡子さん、百年ぐらいでふいに御魂が消えて普通の武器になるんだよ。で、新しく打った武器に時として宿るのさ。それは出来とか完成度とかは関係が無いらしい。今代に『ツクヨミ様』『アマテラス様』がおやどりになった二振りが生まれた事で、なにか凄まじい事が起こるだろうと陰陽界隈では言われていたのだけれどね。まさか、迷宮が世界各地に現れるとは誰も予想できなかったね」


 それは予想ができないだろうなあ。


「あいつらは乃木さんのお家まで来るつもりか?」


 鏡子ねえさんが後ろを見て言った。


「なに、大丈夫、屋敷の中までは入ってはこないよ」


 前方に大きなお屋敷が見えて来た。

 車は門をくぐり抜けて中で止まった。

 なんだか、山の中だなあ。

 追っていた黒塗りの車は屋敷を通り越して、道ばたで止まった。


「さて、作業場で鏡子さんの話を聞こうか、護拳を作って欲しいとの事だけど」

「これを作ってほしい」


 鏡子ねえさんは腰からブラスナックルを取って乃木さんに渡した。


「ふーむ、これかあ、金属の質量が足りるかな」

「パンチの威力が出ればいい、神様は別にいらないかも」

「フツノミタマは運しだいだからね、さ、こっちへ」


 乃木先生は俺たちを離れの方に誘った。

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