第103話 乃木さんへ電話する

 ホテルに入ってチェックイン、五階の並んだツインの部屋の鍵を渡された。

 エレベーターにのって五階へ。

 504と505だな。


「あたしとみのり、タカシと泥舟で泊まるか」

「あたりまえだ」


 505の方が角部屋で広かった。

 そっちを女子部屋にして、504を男子部屋とした。

 女子部屋に収納袋からみのりの荷物と鏡子ねえさんの荷物を出した。


「ありがとう助かる」

「わあ、外が見える~」


 暮れていく街が見えるな。

 とりあえず、応接セットのソファーに座って、乃木さんに連絡をして、事情を聞こう。


『はい、乃木ですが』

「あ、新宮です、いま京都に着きました」

『これはタカシくん、無事に着いたようやね』

「ええ、そうなんですが、さっそく陰陽師らしい人達が襲ってきまして」

『なんだって、清明派の奴らかな』

「麒麟って女の人が居ました」

『清明派だね、なにを言ってたかね?』

「『暁』を悪魔憑きに任せては置けないと言ってましたが」

『そうか、彼らの物でも無いのだけれどね』

「何者なんですか?」

『陰陽師本家の残党だよ。今こそ陰陽師を復権させて迷宮を打倒しようという過激派だね』


 やっぱり陰陽師の組織は明治で途絶えているのか。


『あまり気にしなくていい、なんの権利も無い奴らだからね。詳しくは明日話すよ』

「はい、よろしくお願いします」

『では、明日にね』


 乃木さんは電話を切った。


「やっぱり過激派だってか」

「そうみたいだね、乃木さんは気にしなくて良いって。だけど、『暁』は盗まれた物だからなあ、乃木さんに返した方がいいのかな」

「まあ、そこらへんの話も明日してくれるんじゃないかな」

「そうだね」


 まあ、『暁』は収納袋(小)の中だし、そう簡単には盗まれないと思うけどね。


「じゃあ、俺たちは隣にいるから」

「はーい、準備出来たら呼びに行くね」

「夕飯はどこにしようかなあ」


 鏡子ねえさんはベッドで寝転んで、みのりのるるぶのページをめくっていた。


 泥舟と一緒に隣の部屋に入った。

 こっちは一回り小さいけど、良い部屋だな。


「あ、八階に展望温泉があるよ、タカシ」

「ご飯を食べたら行ってみようか」

「そうだね、温泉だってさ」


 京都市内に温泉湧いているのだなあ。


 ドアベルがピンポーンと鳴ったので出て見ると、みのりと鏡子ねえさんが立っていた。


「行く?」

「おう、京都らしい物を食べに行こう」

「そうか、ねえさんに任せるよ」

「まかせろー」

「どこに行くのか楽しみだなあ」


 まあ、肉っぽい物だろうな。

 焼肉かな。


 四人で夕暮れの京都の街を歩く。

 着いた所は、鉄板焼きのお店だった。


「おばんざいもやってるから、京都っぽい物も食べられるし、鏡子おねえちゃんはお肉を食べられるし、良いでしょ」

「ああ、良い匂いだなあ」

「そうか、問題はないよ」

「入ろう入ろう」


 高そうだけど、まあ、せっかくの旅行だしね。

 ご馳走を食べますか。


 中に入って四人がけのテーブルに通して貰う。

 メニューを見るが、何を頼んで良いか解らないなあ。


「タカシ、肉だ、肉」

「鉄板焼きとかホルモンとかあるね」

「創作料理とか、あるわねえ、何を頼もうかなあ」

「あ、ゆず大根たべたいな」


 泥舟の趣味は渋いなあ。


 ねえさんは鉄板焼きコースを、俺たちはおばんざいコースを頼んだ。

 あとは、別々に食べたい料理を頼む。

 十一階を越え、収納袋(小)もあって、かなり稼げるようになったので、これくらい何でもないぜ。

 そうだとも、せっかくの京都旅行だしね。

 うん、


 ああ、和食系の料理が美味しいなあ。

 おばんざいコースでも牛タンのステーキとか、お肉もでて美味しい。

 ねえさんのステーキはでかくて凄かったが。

 このボリュームでお店を選んだな。


 まあ、ねえさんが楽しいなら良いね。


「本当に美味しいねえ、京野菜って本当にちがうのね」

「味が違うね、不思議だ」

「良い肉を使ってるぞ、美味い美味い」

「だし巻きが美味しいなあ」


 みんなで美味しいもので盛りあがるのは楽しい。

 最近覚えた贅沢だね。

 かーちゃんももっと現世に居られればなあ。

 もっと楽しいのに。


 お腹がいっぱいになったのでお店の外に出た。

 空には大きな満月がかかっていた。


 【気配察知】

 あたりに怪しい気配な無いな。

 まだ京都市内だし、大勢で取り囲んで攻めて来るという手は使わないか。


「お、天下一品、あれも京都が本場だったなあ」

「ねえさん、まだ入るのかい?」

「いや、お腹いっぱいだから、夜中に来る」

「夜中に食うと太るよ」

「大丈夫、ボディスーツは魔法で自動調整だから」


 日本語が伝わっていない感じだ。


「鴨川とか見たい~」

「ホテルの向こうだね、ぐるっと回って帰る?」

「そうしましょうそうしましょう」


 四人で道を歩く。

 夜の京都は不思議な感じの雰囲気だな。


 鴨川に掛かる橋の手前で遊歩道に入り、川岸を歩く。

 水の音がして良いな。


「やっぱりカップルが等間隔に並ぶって本当なのね」

「そんな事が確かめたかったのか」

「テレビで言ってたからー」

「峰屋さんらしいな」

「えー、良いじゃ無いのうー」


 みのりは口を尖らせた。

 うん、でも、こういうのも、良いな。

 楽しい。

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