第102話 京都駅についたらさっそく襲撃

 定刻通りに新幹線は京都駅に滑り込んだ。

 俺たちは列車を降りる。


 かさばる荷物は収納袋(小)に入れてあるから四人とも軽装だ。

 鏡子ねえさんはお気に入りの蛇ガラのボディスーツを権八に溶かされたので今日は新しく迷宮売店で買ったトカゲ柄のボディスーツだ。

 蛇ガラは修理に出した、あと一週間ぐらいで直ってくるらしい。


 連絡通路を通って駅から出た。


「ホテルどこ?」

「あそこだね」


 泥舟がDマップを開いたスマホを見ながら言った。

 結構大きい駅前ホテルだな。


「二泊とも、ここ?」

「そうそう」

「難波にはどうやって行くんだ?」

「日曜日の早朝の新幹線で新大阪まで行って、バス? 地下鉄?」

「地下鉄御堂筋線だね、一本」

「そうかそうか」


 ねえさんの気持ちはもう難波迷宮に行っているようだ。

 京都には迷宮が無いからね。


 後ろ頭にチリチリとした感じが走った。

 辺りを【気配察知】で探る。


「【危険察知】?」


 泥舟の問いかけに小さくうなずく。

 ねえさんもあたりを警戒している。


「え? 誰が? 半グレさんたち?」

「半グレたちはここまで遠征してこないだろう、なんだろうか」

「京都だしね、陰陽師側かな」


 スーツを着てサングラスを掛けた若い女が歩いてきた。


「京都によういらっしゃいましたなあ、『Dリンクス』の皆さん」


 絵に描いたように怪しい格好だな。

 忍者装束で来るよりも、怪しすぎてなんだかおかしみが出ている。


「狙いは『暁』か」

「そうどす、大人しゅう渡していただいたら手荒な事はしまへんよって」


 鏡子ねえさんがブラスナックルを手にはめ、チーンと打ち鳴らした。


「悪魔付きの人達は乱暴であきまへんなあ」

「うるせえっ、つべこべ抜かすなっ」


 バンとねえさんは踏み込むと怪しい女に見えないパンチを打った。

 するりと、女はねえさんのパンチを避けた。


 なにか体術をやっているな。

 ねえさんの腕にくるりと体を巻き付けるようにして、投げた。

 空中でねえさんはビルの壁を蹴って着地する。


「おもしろいな、お前」

「おお、こわいこわい、狂子さんに睨まれたらかなわんわあ」

「名前は」

「麒麟、って、呼ばれてます、お見知りおきを」

「あんたは陰陽師関係者か?」


 麒麟はニヤニヤ笑って答えない。

 あと、三人、敵性の人間が伏せているな。

 みのりを守る位置に俺は移動した。


「【オカン乱入】」


 麒麟の後ろにかーちゃんを召喚した。

 ぎょっとした彼女は飛び退いた。


「かーちゃん、シールドバッシュ!」

「わかったでーっ!」


 逃げようとしている麒麟に向けて瞬間移動のようなかーちゃんのシールドバッシュが飛んだ。


 ズドン!


 麒麟は吹き飛ばされ、バラバラに分解した。


「人形やな?」

「そうみたいだね」


 どこからともなく笑い声が聞こえてきた。


「いきなりオカンさんを呼び出すとは素敵ですなあ、タカシはん。退魔刀『暁』を悪魔付きの人の元には置いておかれへんさかい、必ず頂きますよって、覚悟していてくださいましな」


 そう言って麒麟の気配は消えた。

 近くにあった敵性の気配も消えていた。


「なんや、忍者か?」

「陰陽師、とか、らしい?」

「そうか、解ってへんのか、気を付けるんやでタカシ。で、ここは? 京都?」

「そうだよ、京都に来たんだ」

「かーちゃーんっ!」


 鏡子ねえさんがかーちゃんに、がばっと抱きついた。


「ああもう、鏡子はいつもどおりやなあ」

「おかあさま~~」


 みのりも寄ってきた。

 君たちはかーちゃんが好きすぎるだろう。


「しばらく京都か? タカシ」

「三日ぐらい、退魔装備を作って貰える事になってね」

「そうかー、それはごっついなあ」

「私の護拳を作ってもらうんだよ」

「そうか、鏡子は強いから装備が良くなれば無敵やなあ」

「えへへへへっ」


 かーちゃんに優しく頭をなでられて、鏡子ねえさんは嬉しそうに笑った。


「異世界に陰陽師とかは居ないの」

「おらへんなあ、異世界の地方には呪術師とか、マイナーな職業ジョブがあるけどな、陰陽師は日本固有やろうな」

「そうかー、というか、陰陽師ってだいたいなんだろう」


 泥舟がDスマホをクリックした。


「日本古来の暦とか天文学とかをやる官職で、のちに呪術とかもやるようになったって書いてあるね」

「そうかー」


 まあ、WEBにあるような知識では計れないだろうけどね。

 うーん、配信の物知りリスナーさんたちの意見を聞きたい所なんだけど、ここは外界だから配信してないしなあ。


「陰陽師は明治には廃れたってどこかで聞いたんだけど、京都にはいるみたいだね」

「意外と体術が凄いぞ、あと、あいつらDチューバー化してない」

「悪魔つきって言ってたから、ダンジョンには行ってないみたいねえ」

「正確には魔力付きやけどな、悪魔は憑いとらんで、おっと、そろそろ時間や」

「ありがとう、かーちゃん、また呼ぶよ」

「いつでも呼んでな、じゃあ、みんなまたなあ」

「またなあ、かーちゃん」

「お疲れ様、おかあさま」

「また、おねがいします」


 みんなに見送られて、かーちゃんは粒子になって消えていった。

 なんか野次馬の人の視線が厳しいな。


「Dチューバーのタカシや、何しに京都にきたんやろ」

「いややわあ、もめ事は勘弁してほしいわあ」

「ダンジョン潜っとる奴はろくなもんじゃないで」


 鏡子ねえさんが周りの声を聞いていた。


「タカシ」

「あばれたら駄目だよ」

「いや、京都って、まわり中、京都弁なんだなって」


 そりゃそうだよ。

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