第90話 九階を走破する十階を歩く

 白旗を持った六人の半グレがいた。


「タカシ~~、降参するから見逃してくれ~~」

「降参って、別に戦って無いが」

「私は殺す!」

「ぎゃー、だから降参だ~~、俺たちは九階の免田一家の者だ、逆らわないので見逃してくれ」

「私は殺したい」


 まあ、降参してる相手を殺すのもなあ。

 何かの陰謀を廻らしているのかもしれないけど。


「まあ、戦わないなら、引っ込んでなさいよ。わざわざ見つけ出して殺さないから」

「私はわざわざ見つけ出したい」

「お、恩に着るぜタカシ、道中の魔物は倒しておいた、今なら戦闘無しで十階までいけるぜ」

「それは助かる」

「余計な事すんなっ」


 鏡子ねえさん、どうどう。


「フロアボス戦、がんばれよ~~」

「応援してるぞー」


 半グレたちに声援されて俺たちは歩き出した。

 なるほど、魔物が出てこないので時間の節約になるな。


 Dマップを頼りに九階をすいすい歩く。


「意外に話のわかる半グレさんもいるのね」

「半グレはみな嘘つきだ、なにか企みがあるにちがいない」

「まあ、戦闘が無いに越したことはない」

「タカシはやさしいからね」


 よせやい、泥舟。

 俺は照れくさくなった。


『あはは、なんで七階で多人数殺しが出たか解った』

『算数のせいじゃないのか?』

『さすがに算数はクリアしていた、十八人きっちりで待ち構えていたんだ』

『じゃあ、どうしてよ』

『一パーティが馬鹿でな、レイド組むの失敗してやがった』

『『『あー』』』

『待ち構えていた真後ろにオルトロスがポップして、初手火炎ブレス』

『あー』


 そうだったのか、半グレたちはレイドを基本組んだりしないからな。

 馬鹿げた話だ。


「魔物がいない洞窟は歩きやすいね」

「まあ、散歩みたいなもんだからな」


 するすると歩いて十階への下り階段に到達した。


「この下が十階だ、フロアボスのフィールドまで歩く。フィールド前の安全地帯で大休止するぞ」

「うん、ちょっと疲れた。『きょうはいいてんき~~♪ おひさまわらってぴっかりこ~~♪ さあげんきをだしておかのむこうまであるこうよ~~♪』」


 峰屋みのりの【元気の歌】に押されるようにして俺たちは階段を降りる。


 十階だ。

 なんだか久しぶりで懐かしい気持ちもする。

 ここはボスフロア以外は全部の通路を知っている。

 ここを根城にしているアウトローはいないので、治安も少し良かった。

 

 安全地帯から離れるとオークが三体現れた。


「『デーブデーブ』」


 初手、峰屋みのりの【罵声】だが抵抗されて、オークの目が真っ赤になった。


「うおっしゃあっ!!」


 鏡子ねえさんが峰屋みのりに襲いかかろうとしたバーサクオークに横合いからパンチを三発ぶち込んだ。


 ダダダンッ!


 そのまま首に手を掛けて折る。


 ボキン!


 一匹のオークが泥舟に、もう一匹が俺に掛かってきた。

 泥舟は冷静に膝に一発突きを打ち込み、そのまま穂先を跳ね上げて首を貫く。


「ぶぎーっ!!」


 俺は間合いを一気に詰めてオークの斧をバックラーで跳ね返し、『暁』で心臓を貫いた。


「ぶっひー」


 さすがに四人で戦うとオークも何でも無いな。


「ごめんなさい、抵抗されちゃった」

「ああ、バーサークしてると動きが単調になるから問題無いよ、気にすんなみのり」

「あ、ありがとう」

「失敗は成功の元ってね。今のうちは一杯失敗しよう、峰屋さん」

「うんっ」


 峰屋みのりが期待に満ちた目で俺を見ているな。

 えーと。


「まあ、どんまい」

「う、うん」


 なんだか残念そうだな。

 というか、女子に受ける慰め言葉なんか知らないよ。


 経験値霧をみんなで吸って、ドロップ品をひろう。

 鏡子ねえさんに食われる前にオークハムを救出した。


「ぐおう、タカシー、ハムくれよう」

「もうすぐ大休止で弁当を食うからがまんしなさい」

「ぶーぶー」


 まったく手の掛かるおねえちゃんだな。


 他にポーションと魔石、胸当てがドロップした。

 胸当てはあまり良い品では無いので置いて行く。


 ここを曲がるとレアスキルがあった横穴の場所に続く。

 だが、まあ、今日はフロアボス戦だからいいや。

 思い出に浸るのは十年後ぐらいにしよう。


 フロアボスの前の安全地帯に行くのに、りっちょん受難の場所は通らない。

 あの社長はスタッフの死体を上に上げて蘇生させたのかな。

 なんとなく、迷宮に食わせたような気がするな。


 寺院での蘇生は一回三百万円ほどかかる、しかも失敗の可能性もある。

 失敗して灰になっても、三千万出せばもう一回蘇生にチャレンジできる。

 だいたい五十%ぐらいらしい。

 ここで失敗すると【消滅ロスト】する。

 迷宮というのは金次第だし、情けも福祉も無い。


 アタックドックが群れできた。

 五匹だ。


「『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪ あせってもしかたがないからのんびりいこうじゃないか~~♪』」


 初手に峰屋みのりの【スロウバラード】。

 五匹の犬の速度がゆっくりになる。


「ナイスみのり」

「助かる」

「良い判断だ」


 敵が多かったから【スロウバラード】は良い判断だった。

 そんなに強く無くても数が多いのは致命的になりやすい。


 俺も『暁』で犬の頭を斬り飛ばした。

 泥舟が一匹、鏡子ねえさんが三匹倒して戦闘は終わった。


「マジックポイントは?」

「まだ半分あるよ」

「そうか、休憩中にマジックポーションを飲んで全快にしておいてくれ」

「ラジャっ」


 峰屋みのりは敬礼をした。


 ドロップアイテムは、魔石、アタックドックホットドック、犬の絵が描かれたジッポのライター、同じく犬の絵が描かれたジャンバーだった。

 ジャンバーはかさばるが、冬に着るのにいいな。

 持って行くか。


 さて、フロアボスフィールド前の安全地帯に着いたぞ。

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