第91話 お弁当を食べてフロアボスに挑む

「では三十分ぐらい大休止だ」

「ふわー、足がパンパンになっちゃった、歩きっぱなしって辛いねえ」

「戦闘しながらだからね、結構大変だった」

「なんだよ、鍛え方が足りないぞっ」


 鏡子ねえさんはリュックからお弁当を取り出して、俺たちに渡した。

 ありがとう。


 ベンチみたいになっている岩に腰掛けてシウマイ弁当を広げる。

 うん、久々に買ったけど、ずっと変わらなくて良い感じ。

 醬油と辛子を取りだし、シウマイとからあげにかける。


「うまいうまい」


 鏡子ねえさんががつがつ食べている。

 落ち着いて食べなさいよ。


 さて、割り箸を割って、初手はマグロの醬油漬けからかな。

 昔はなんか嫌いだったんだけど、今は美味しく食べられる。


「うーん、美味しいなあ、なんで崎陽軒のチャーハンはパラパラしてるんだろう」


 峰屋みのりが横浜チャーハンをスプーンでちまちま食べながらそう言った。

 たしかに崎陽軒のチャーハンって独特の食感があるよね。


 シウマイを一個食べ、俵型のご飯を一口食べる。

 マジで美味しいなあ。

 タケノコの甘く煮付けた奴とか、紅ショウガ、昆布の佃煮までが美味しい。

 かまぼこもからあげも良いねえ。


「久々に食べると美味しいね」

「このシウマイの味が心にしみるんだよね」

「私も大好きっ」


 お弁当を食べて経木で出来た空箱にヒモを掛けてレジ袋にしまう。

 ゴミは持って帰らないと。


 ちょっと水筒の水を飲みながら食休みだ。


「タカシ、作戦は?」

「初手は峰屋の【スロウバラード】、ワーウルフ一体とフォレストウルフ三体、敵全体を低速化させてくれ」

「ラジャ! あ、でもレジストされたらどうする?」

「オルトロスに掛かったから、たぶん大丈夫、リュートとレアスキルの補正で届くと思う。レジストされるとしたらワーウルフ。その場合は鏡子ねえさんが食い止めてくれ」

「解った、食い止める」


 鏡子ねえさんの手数の多さなら回避タンクとして十分通用するだろう。


「俺と泥舟が先にフォレストウルフ三体を撃破、その後ワーウルフを集中攻撃だ」

「勝てるかな?」

「たぶん、必要戦力はかなり上回っているから簡単に勝てると思う。問題はイレギュラーな事態が起こった時だが、優先的に峰屋を守るように動く」

「あら、あらっ♪」

「峰屋が一番弱くて、もろいからだ。一番ヒットポイントが低い」

「ああ、そういう事ね」

「俺と鏡子ねえさんで、峰屋と泥舟をカバーする、そんな感じだな」

「いひひ、フロアボスを倒すと十一階に行けるな。初めて行く場所だからワクワクするな」

「俺もだよ、ねえさん」


 新しい階、新しい魔物、新しいドロップ品、それらに会えるのが今から楽しみだ。

 それもこれも、フロアボスを抜けてからだな。


「さあ、行こうか」

「おう」

「はいっ」

「いこうっ」


 鏡子ねえさんがブラスナックルをはめて打ち鳴らした。

 峰屋みのりがリュートを前に出した。

 泥舟が陣笠を直す。

 俺は『暁』を抜き、バックラーを左手に持った。


 四人でフロアボスフィールドに足を踏み入れる。


 直径25メートルぐらいの円形のフィールドだ。

 中心に寝て居るワーウルフ、フォレストウルフが三体居る。


 フィールドを囲うように力場が発生し周囲を取り囲んだ。

 この力場は、フロアボスが倒されるか、侵入したパーティが全滅するかしないと開かれない。

 フロアボスフィールドは一度入ると逃亡不能なのだ。


『ついにこの日が来たか、がんばるのじゃタカシ』

「余さん、いつもありがとう」

『うむ、いつも見ておるぞ』


 鏡子ねえさんを先頭にフォーメーションを組む。

 俺と泥舟は支援のかなめの峰屋みのりを守る事。

 三体のフォレストウルフを始末する事だ。


 ワーウルフとフォレストウルフが目を開いた。

 筋肉に力が入り、ワーウルフが立ち上がる。

 狼の頭をした精悍な細マッチョな魔物だ。

 体は銀の体毛に覆われてとても綺麗だ。


 Waooooooon!!


 顔を天に向けてワーウルフは朗々ろうろうと吠え上げる。

 配下のフォレストウルフは体毛を逆立てて唸りを上げる。


 『Dリンクス』と魔物の間に殺気が満ちていく。

 空間が歪むような濃い殺気だ。


『気を付けろ、ワーウルフは【咆吼】あるぞ、兆候が見えたら即座に位置を変えろ』

『森狼はそんなに強く無いが、とにかく素早い、先に森狼を全滅させるんだ』


 攻略コメントは正直助かる。

 【咆吼】対策は峰屋みのりにも伝えてあるが、動転して動けなかった場合は俺が抱きかかえて避けるつもりだ。


 峰屋みのりが目を閉じ、リュートを弾く。

 戦場に似合わない綺麗な音が響き渡る。


「『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪』」


 【スロウバラード】が流れる。

 透明感のある水晶のような歌声だ。

 おもわず引き込まれる。


 フォレストウルフの一体の動きが鈍る。

 二体目、三体目も、踏みだしが鈍った。


 ワーウルフの動きも鈍っ……。


 Waoooooooon!!!


 咆吼と共にワーウルフの筋肉が膨れ上がり、峰屋みのりに向けて駆け出した。

 やばい、抵抗レジストされた!!


「あっはっははっ、私と遊ぼうぜワンちゃんっ」


 進行方向を遮るように鏡子ねえさんが踏み込み見えないパンチを繰り出す。

 ワーウルフは俊敏に横飛びしてそれを避けた。


 フォレストウルフはスローモーな動きでこちらを目指して動いている。


 フロアボス戦が始まった。

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