第87話 六階を駆け抜ける

「ここから先は、モンスターも強くなるけど、アウトローも敵になる」

「殺していいか、タカシ」

「攻撃してくるようなら、俺と鏡子ねえさんで即死させよう」

「そうでなくっちゃ」

「泥舟と峰屋は手を出すな、思い切りが無いと逆に危ない」

「わ、わかった」

「【スロウバラード】を掛けたら駄目?」

「マジックポイントがもったい無い」

「私に任せておけー」

「権田権八が居ないからそれほど強いアウトローはいないだろう、まだ朝だしな」


 アウトローが元気なのは午後から夜にかけてだろう。

 ダメ元で掛かってくる奴らもいるだろうが、その場合は返り討ちだ。


「あと、十階のフロアボス手前の安全地帯まで休憩は無しだ」

「それはキツイね」

「お水飲んでおかないと」

「階段の安全地帯で休憩していると、たぶん襲われる、動いていた方が安全だ」

「ラ、ラジャー」


 峰屋みのりが敬礼をした。

 鏡子ねえさんは対人戦が超強いから十人のアウトローが掛かってきても平気だろうが、峰屋みのりが襲われて人質に取られるとやばい。

 とりあえず、俺がしんがりでフォローする感じだな。


『おお、六階突入~~、アウトローはどれくらい居るかな』

『朝だしなあ、でもタカシの装備を狙うなら今日が最後のチャンスだし、難しいな』

『権田権八を倒しておいて良かったな、組織的な動きが出来るアウトローはあと二人ぐらいだろう』

『ここからはノンストップで十階まで移動だ、がんばれ『Dリンクス』』


「さあ、行くぞ」

「おうっ」

「うんっ」

「はいっ」


 で、勢いこんで六階へ階段を下りて行くと誰も居ない。

 待ち伏せは無しらしい。


 そのまま移動して七階への階段を最短距離で目指す。

 【気配察知】を意識しながら、ゴブリン五匹を倒す。

 鏡子ねえさんをフロントにして、泥舟、峰屋、俺がしんがり。

 峰屋が【罵声】を浴びせて動きを止め、そこへ泥舟が心臓を一突き。

 他の四匹は流れるように鏡子ねえさんが殴り倒す。


 やっぱり鏡子ねえさんはべらぼうに強いな。

 峰屋みのりと泥舟が経験値を多く取れるように位置を調整し、ドロップが確定するまで待つ。

 常時、あたりの警戒は忘れない。


「アウトローが居ない」

「居ないね、鏡子ねえさん、朝だからかな」

「そうかもな」


 アウトローがこちらの情報を掴んでいないという事は無い。

 なぜなら、配信してるからね。

 ターゲットの動画は情報の宝庫だ。

 見てはいるはずだ。

 あとはどこのタイミングで仕掛けてくるかだ。


 ドロップ品は魔石、楽譜スコア【おやすみの歌】、ゴブリンカレー、杖、であった。

 杖は魔法使い用の発動具だが、初心者用なので置いて行くことにした。

 長いからね。


 そして移動、ヒュージスパイダーが五匹。


「くも~~!!『クモはわしゃわしゃで気持ち悪い』」


 峰屋みのりの【罵声】で一匹の動きが止まる。

 天井を伝って一匹が峰屋みのりの方へ動くが彼女は気が付いていない。

 『暁』を抜いて一閃、胴体を切り裂いたが、頭の方が峰屋みのりに襲いかかった。


「ぎゃー、噛まれた死ぬー」


 峰屋みのりはヒュージスパイダーに手を噛まれた。

 みるみるうちに紫色の部分が広がる。

 俺はリュックを下ろして『ムカデ飴』を出して峰屋みのりの口に放り込んだ。


「甘、辛っ、ぎゃー、これってセンチネル飴っ」

「吐き出すな、舐めろ」

「うえーんうえーん」


 峰屋みのりは涙目になって飴をなめていた。

 手の紫色の部分が減っていく。

 毒消し効果が働き出したな。


 そうこうしているうちに、鏡子ねえさんと泥舟がヒュージスパイダーを全滅させた。


「タカシ、私にも飴」

「噛まれたか?」

「いや、舐めたい」


 俺は鏡子ねえさんに飴の袋を投げわたした。


 峰屋みのりを押して経験値の霧を吸い込ませる。


「落ち着け」

「うん、びっくりしただけ、あと、飴、美味しいけど辛い」


 ヒュージスパイダーからは、魔石、聖典【解毒アンチポイズン】、蜘蛛綿菓子が出た。


「なんで綿菓子?」

「しらん」


 別に特殊効果はない、ただの綿菓子だ。

 蜘蛛の絵が付いたビニールに入っている。


「まったく、良くドロップするなあ」


 鏡子ねえさんはそう言いながらドロップ品をリュックに入れる。


 峰屋みのりは立ち上がった。


「もう大丈夫! ありがとうタカシくんっ」

「ああ、上にも気をつけてくれ」

「わかった、蜘蛛は怖いねっ」


 蜘蛛は立体的に動くからな。

 あと、『暁』は切れ味が良いから前の剣みたいに払い落としが出来ないとわかった。

 バックラーで殴るべきだったな。


『どんまいどんまい』

『ムカデ飴を涙目でなめるみのりん萌え』

『虫系は半分になっても噛んでくるからなあ、気をつけないと』


「さあ、行こうっ」


 鏡子ねえさんがムカデ飴をばりばりとかみ砕いて歩き始めた。


 しかし、アウトローが居ない。

 どこかで待ち伏せしているのか?

 最短距離を行っているから、もうすぐ七階への下り階段に着いてしまうな。


 オークが二匹でた。


「ええと『デーブデーブッ』」

「ごわ?」


 オークの一人が悲しそうな顔をした。


『みのりんの【罵声】は可愛いなあ』

『俺もののしられたい』


 動きが鈍ったオークを泥舟が刺して、もう一匹は鏡子ねえさんがボコボコに殴り殺した。

 鏡子ねえさんの動きも洗練されてきたな。


 魔石と、オークハム、あと両刃の斧が出た。

 斧は重いので置いて行く。

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