第86話 一階から五階まで走破する

 地獄門をくぐると、いつものように少しヒンヤリして微かに硫黄の匂いがする。

 早朝の一階ロビーはポータル石碑で狩り場に行くパーティで混み合っていた。


「新宮、これからか?」


 ポータル待ちの列に『オーバーザレインボー』の奴らがいた。


「東海林も早いな」

「霧積がやっと【剣術】を覚えたからな、新生『オーバーザレインボー』の試運転だよ」

「おお、それは霧積おめでとう」

「よせやい。あー、あんがとな、タカシ。師匠に会わせてくれて、師匠がいなかったらこんなに早く【剣術】覚えられなかった」

「霧積が頑張ったからだよ」

「今日の狩りがたのしみだよう」

「ほんとっすねー高田~」

「新宮はもしかしてフロアボスか?」

「そうだよ、六階から駆け抜ける予定だ」

「そうか、戦力的には問題無いだろう、がんばれよ」

「ああ、ありがとう、おまえらもガンバレ」

「おう」

「ああ」

「はい、行ってきます」

「フロアボス抜かれたら追いつかれるっすねえ」

「『Dリンクス』は今注目のパーティだからな」


 ポータルの列が動いて東海林たちは十階に転移していった。

 下り階段のある安全地帯に出るらしい。


「さて、行こうか」

「追いつくぜ~~」

「そうだね、鏡子さん」

「がんばろ~『おはようおはよう~~、あかるい笑顔にさんさん太陽さんが~~♪ にっこり顔出しおはようさん~~♪』」


 峰屋みのりが【おはようの歌】の歌をうたう。

 カフェインを入れた感じに目が覚めるな。

 チヨリ先輩の【おはようの歌】の歌とは歌詞がちがう。


 元気を貰って地下二階への階段を降りて行く。

 早朝のレストラン街はひっそりして人気が無い。

 そのまま下り階段を使って地下三階へ。


 やっぱり早朝なので人があまりいない。

 厳岩師匠も来るのはもう少し後だろう。


 ふよふよとどこからかカメラピクシーがやってくる。


「おはようリボンちゃん、今日も頼むよ」


 リボンちゃんは笑ってうなずいた。


 手首のコメントチェッカーのスイッチを入れる。


『おおっ、『Dリンクス』はええなあ』

『馬鹿、今日はフロアボスチャレンジだ』

『おお、ついに十階超えか、おじさんは嬉しいよ』

『戦力は申し分無いな、正直、タカシと鏡子だけでも突破出来そうだ』

『みのりんが居れば超楽勝っしょ、ワーウルフ兄貴の武器は速度だからなあ』


 峰屋みのりはおかっぱちゃんの前でサッチャンみたいなポーズを決めた。


「おはようございます、『Dリンクス』ですっ、今日は私たち、十階まで下りてフロアボス突破を狙っちゃいます。熱い戦いをご期待下さいねっ! 是非、チャンネル登録、お気に入りにチェックもよろしくおねがいしますっ」


『みのりーん、今日も可愛いねえ~~』

『なにか歌って歌って』

「それでは、『きょうはいいてんき~~♪ おひさまわらってぴっかりこ~~♪ さあげんきをだしておかのむこうまであるこうよ~~♪』」


 リュートをつま弾きながら、峰屋みのりは軽い足取りで歩きながら歌う。

 元気がどんどん湧いてくる感じがする。


『十八番!』

『リュートも上手くなってる』

『スパチャをあげよう』


 ビロリンビロリンと峰屋みのりにスパチャが投げられる。


「わあっ、リンゴさん、パンダさん、ミカリさん、スパチャありがとう、うれしーっ」


 こういうリスナーとの交流も楽しいものだな。


 さて、スライム、角兎などの三階の敵を撃破しながら最短距離を歩いて四階への階段を下る。

 ちなみに、銅のナイフ、角兎の角が出た。


 四階も同じように最短距離を歩いて下り階段を目指す。

 ゴブリンとかアタックドックが出たが、泥舟と峰屋みのりが片付けた。


「正直お弁当はいらなかったかもしれん」


 鏡子ねえさんはアタックドックホットドックを拾って囓りながらそう言った。


「結構食料品でるからね」

「一昨日、家でゴブリンカレーパーティをしたの、パパもママも美味しい美味しいって食べていたわよ」


 ゴブリンカレーのパックはもう売るほど部屋にある。

 しばらくレトルトカレーを買う必要は無いな。


 四階まではほとんど緊張感なぞ要らない道中になっているな。

 峰屋みのりもレベルが上がって、【罵声】で大体の魔物を止められるようになっている。


 五階に下りる。


「ぎゃー、またセンチネル~~!!」


 なんで五階に下りると初手センチネルなのだろうか。

 解せん。

 とりあえず峰屋みのりが【罵声】で動きを止めて、泥舟が頭を槍で潰した。

 峰屋みのりも毎度の事なのだから騒がなくても良いと思うのだが。


「もう、今日でセンチネルとはおさらばなのね、長い戦いだったわ」

「また十六階で再会するけどな」

「わ、私は十六階には行きません」


 そうはいかないだろう。


 ぶらぶらと狩りをしながら移動する。

 ゴブリンが三体になると、俺か鏡子ねえさんがカバーに入り瞬殺する。


 『暁』は退魔刀だけあって、魔物相手だと、ほぼ抵抗がないぐらいに斬れる。

 バターを熱したナイフで切るぐらいの感じで魔物の肉体を切断できる。

 実際恐ろしいまでの切れ味だ。


 ゴブリンカレーを拾ったり、呪文巻物を出したりして歩みを進める。

 呪文巻物は【火球ファイヤーボール】だった。

 これと【氷弾アイスバレット】と【風鎌ウインドカッター】、【石弾ストーンバレット】は基本技なのか良くドロップする。


 そして六階に続く階段のある洞窟に着いた。

 ちょっと一休みして、行動食を食べ、水筒の水を替える。


 さて、ここからが勝負だぞ。

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