第五章 十階フロアボス突破

第85話 十階突破へ出発する

 五日がたった。


 泥舟がレベル5になってすぐに十階のフロアボスに挑戦しても良かったのだが、六階から十階まで駆け下りてからのボスアタックとなるので、できれば一日使える土日にやりたかったのと、クラスチェンジしてからの習熟期間が欲しかったからだ。


 そのお陰で泥舟はレベル8、峰屋みのりはレベル7まで上がった。

 これ以上は五階ではレベルアップ速度が遅くなる。


 間に二日の休日を挟んだので、なんだか俺の部屋の家電が充実したのであった。

 冷蔵庫、テレビ、炊飯器、電子レンジ、洗濯機、ホットプレート、電気ポットなんかが部屋に入り快適さが上がった。

 Dチューバーとは便利な物で力が常人の三倍ぐらいあるので、重い物の設置も気にならなかった。


 洗濯は昔からコインランドリーを使っていたので、慣れた物だ。

 全自動洗濯機を選んだので、汚れ物を放り込んで学校に行き、帰ってきたら干す流れが出来た。


 狩りの日の晩ご飯は外食、狩りの休日の晩ご飯は自炊になったが、休日でもみんなが集まって豪勢な焼肉とかするので掛かるお金はあまり変わらないな。


 調理器具も揃ったので、かーちゃんを呼び出して、峰屋みのりと一緒に料理を教えてもらったりした。

 肉じゃがとか、みそ汁とか、あの頃の味が再現できて嬉しい。



 という訳で、朝六時、俺の部屋に『Dリンクス』は集合である。


「帰って来たら、十階フロアボス突破記念パーティをやりましょう」

「いいな、ご馳走を食べよう」


 鏡子ねえさんと峰屋みのりが荷物チェックをしながらそんな事を喋っていた。


 今回は初の六階から十階だ。

 洞窟階なので薄暗いのでライトは必須である。

 一応前衛は頭に付けるヘッドライト、後衛は腰に付けるライトと分けてあるが、敵によって点けたり消したりが必要だ。

 暗いと言っても配信の関係上真っ暗な訳ではなくて、ライト無しでも動けるのだが、照明が有った方が楽なんだな。


 泥舟はいつもながらの足軽スタイルだ。

 結構風格のような物が出て来た。


 峰屋みのりは『吟遊詩人』バードスタイル。

 百万円の防具にレア装備のリュートを背中に担いでいる。


 鏡子ねえさんはお気に入りのヘビ柄ボディスーツだ。

 ベルトにブラスナックルを二つ引っかけている。

 背中には大型リュック。


 俺は戦闘用ジャージに胸当て、バックラー、マタギナガサのいつものスタイル。

 背中には大型リュック。

 『Dリンクス』は、なんだか異様にドロップ品が多いので、俺と鏡子ねえさんはリュックをしょって動いている。


「さて、行こうか」

「よし、一回でクリアして、明後日からは十一階に行こう」

「そうだね」


 戦力的には不安は無い。

 十階フロアボスのワーウルフはしもべの狼が三頭いるためにソロで抜けるとなると40ぐらい必要なだけで、六人で連携がとれれば、全員10レベル平均でも抜けられる。

 『ソロを食い止める』がテーマのボスだと言われている。


 十一階からはアウトローもぐっと減るし、宝箱占有勢も少なくなる。

 十階の突破はDチューバーとして本気の資格とも言われているな。

 まあ、ソロだと突破出来ないのだが。


 全員でハイタッチして、部屋を出る。

 なるべくかーちゃんは温存で行こう。

 

 マンションから出ると、早朝なので少し肌寒い。

 駅まで歩いて電車にのる。

 早朝から狩りに行くDチューバーも結構乗っているな。


「お『Dリンクス』だ、みのりん可愛いなあ」

「泥舟はやっぱり足軽だなあ」

「タカシはマザコンって顔だよなあ」


 車内で噂話が聞こえてくるが、最近は結構慣れたな。

 有名税という物だろう。

 というか、マザコンな顔ってどんな顔だ。


 川崎駅に着き、キオスクで携帯食を買う。

 最近は泥舟もナッツバーなどのカロリーの有る物を買うようになった。


「ワクワクするね、タカシくんっ」

「そうだな」


 いつも迷宮に入る前はワクワクする。

 狩りの金を全部取られていたあの頃でもそうだった。

 俺は迷宮探検が基本的に好きらしい。


「弁当はどうする?」

「そうだね、崎陽軒のスタンドは開いて、うん、開いてる」


 キオスクの向かいに崎陽軒の弁当を売っているスタンドが開いていた。

 シウマイ弁当は横浜のソウルフードなんだが、川崎でも買える。(東京駅でも買えるが)


「わ、わ、何にしよう、お昼はお弁当?」

「計画では、フロアボス前の安全地帯で昼頃だからそこで食べよう」

「なんにしようなんにしよう、シウマイ弁当も好きなんだけど、横浜チャーハンも好きなんだよねえ、ああ中華弁当とか、まよっちゃう~」


「シウマイ弁当一つ」

「あ、僕も」

「よし、シウマイ弁当と中華弁当」


 鏡子ねえさんはよく食べるな。


「よ、横浜チャーハンくださいっ」


 峰屋みのりは横浜チャーハンを頼んだ。

 お弁当をレジ袋一つにして貰って、鏡子ねえさんのリュックの中に入れた。


「全部私のだっ」

「なんて欲張りなんだ」


 鏡子ねえさんはわっはっはと笑った。


 さあ、地獄門をくぐろう。

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