第84話 サンドイッチパーティで盛りあがる

 峰屋みのりと鏡子ねえさんの阿呆さかげんを見くびっていた。

 もう、途轍もない量のパンやらソーセージやらチーズやら、お惣菜のからあげやハンバーグ、バター、マヨネーズ、レタス、トマト、キュウリなどを持ってスーパーから俺の部屋に持って来た。

 どんだけ買うんだ。

 しかも高いパンだ。

 山崎のフランスパンで良いだろうに、焼きたてのパン屋さんのバターバケットを四本も買っていた。


 今は峰屋みのりが野菜を洗って切ってお皿に盛り付けていた。

 彼女の短剣は食材を切る以外の用途に使ってないよな。


 鏡子ねえさんはローソファーでネコのようにくつろいでいる。

 テーブルの上には、山崎のフランスパンと高級バターバケットが四本並んでいる。


「沢山あるねえ、一人一本か」

「まあ、残ったら朝ご飯に食べるから良いけどな」

「早く冷蔵庫を買わないといけないね、タカシ」

「明日は狩りが休みだから、冷蔵庫と洗濯機を買いにいこうか」

「そうだね、付き合うよ」

「私もいくー」

「私も私も」


 『Dリンクス』のみんなで量販店に行くのか。


「私は車の免許あるのかな?」

「どうだろう、無いんじゃ無いかな」

「よし、私は教習所に行って車を買おう」

「「……」」

「なんだよう」


 鏡子ねえさんの運転の車は怖いなあ。

 だけど、車があると色々遊びに行けるな。


「はい、お待たせー」


 峰屋みのりがお皿にハムとか野菜とかお惣菜とかを綺麗に並べた物を何枚も持って来た。

 テーブルが狭いな。

 お茶とかコーラのペットボトルは下ろそう。


 パンを切るのに包丁が無い。

 ……。


「タカシ『暁』でパンを切るのはやめてくれ」

「しかし」

「切るから切るから」


 峰屋みのりの短刀が大活躍である。

 俺も、雑用ナイフを荷物から出した。


 俺がヤマザキのフランスパンを取ると鏡子ねえさんがひったくってバターバケットを押しつけた。


「こいつは最後だ」

「し、しかし」


 このパン、四百五十円もするんだぞ。

 しかたがない、これを食べるか。


 長いバケットを半分に切って、横に切れ込みを入れる。

 開いて、そこにレタスを……。


「バターを塗ろうよ」

「え、バター?」

「いつもは塗ってなかったのか」

「う、うん」


 バターは室温で保存出来ないからな。

 しょうが無い、言われたとおり、バターを塗った。

 堅くて塗りにくいなあ。

 薄く切って置く感じにするか。

 片側にレタスとトマトを置く、んで、片側にオークハムとチーズを置く。

 峰屋みのりがマヨネーズをうにょうにょと掛けてくれた。

 これも初めてだな。

 挟んでできあがりである。


「お、美味そう、私も作ろうっと」

「私はからあげを挟む~~」

「僕はタカシと同じ編成にするかな」


 みんな思い思いのサンドを作った。


「「「「いただきます」」」」


 がぶりと噛みつく。

 あ。

 あー、美味いな。

 マヨネーズとバターがが良い味わいを出している。

 そして、バケットの味わい深い事。

 さすが高いだけはあるなあ。

 美味い美味い。


「わ、美味しいねっ、手巻き寿司パーティみたいで楽しいし」

「うまいうまい」

「そうだ、ゴブリンカレーをちょっと掛けてみよう」

「それは良いアイデアだ」


 ワイワイとみんなで食卓を囲む。

 ああ、なんだか楽しいな。


 狩りの話、『オーバーザレインボー』の話、スキルや編成の話。

 いろんな話題が出て尽きないな。


 峰屋みのりがお湯を沸かしてマグカップに即席コーンスープを作ってくれる。

 ああ、サンドイッチに良く合うな。


「ここは冬はこたつだな、で、鍋だ」

「まだ早いよ、鏡子ねえさん」

「まあ、そうだが、あと、ホットプレートで焼肉しようぜっ」

「楽しそうっ! やろうやろうっ」

「良いねえ」


 案の定、ここは『Dリンクス』のたまり場になってしまいそうだが、なんだか、そんなに嫌ではないな。

 そうか、何年ぶりかに出来た仲間だからなんだな。

 しみじみとした幸福感が広がる。


「必要なのは、電子レンジと、冷蔵庫と、洗濯機と、テレビと、掃除機かな」

「ルンバ買おう、ルンバ」

「テレビは、こう、ドーンと大きい奴を買おうぜ、それで映画を見よう」

「部屋が狭いから、小さいので良いよ」

「もー、タカシは欲が無いなあ」


 もう、テーブルの上の食材はだいたい食い尽くされて、バケットが半分と、ヤマザキのフランスパンが残っているぐらいだった。

 峰屋みのりがお皿を片付けて、流しで洗ってくれているようだ。

 泥舟がパソコンを出して来てテーブルの上に乗せた。


 Dチューブのニュース動画を開く。


『午後五時、ウイングチートプロダクション本社にサッチャンが現れ、社長以下十五人を殺害し、姿を消しました』

「ウイングチートがやられたか」

『ウイングチートプロダクション所属のタレントのほとんどは他社に移籍し、幸いな事にそちらにはサッチャンは現れていないようです』

『こちら中継です、リーディングプロモーションの五反田本社では、元ウイングチートプロダクションのタレント二十名が避難していましたが、今の所無事のようです』


「よかった~~、チヨリ先輩も無事かな」

「移籍したタレントは追っては行かないようだね」


『こちらは成田空港です、ウイングチートプロダクションの重役亀田良樹専務がグアムに逃亡したとの情報がでています。グアムには地獄門が無いためサッチャンの追跡を振り切れると判断した模様です』

「そう、上手く行くかな?」

「読まれてると思うけどなあ」


 とりあえず、逃亡の成功を祈ろう。


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