第77話 放課後は迷宮に行く

 今日の授業が終わった。


「タカシくんタカシくん、一緒に帰ろうよ」


 峰屋みのりがデデデと寄ってきた。


「ああ、そうだな」

「ご一緒しましょう」


 東海林も鞄を持って立ち上がる。


 廊下を行くと泥舟がやってきた。


「あ、タカシ、峰屋さん、東海林君、こんにちは」

「泥舟くんっ、今日も楽しみだねっ」

「そうだね、今日はジョブチェンジしたいよ」

「大丈夫だよ、泥舟君なら、ねっ」

「そろそろ大丈夫じゃないか、5レベルあれば行けると思うよ」


 俺もそう思う、泥舟がジョブチェンジをして、峰屋みのりも5レベルに上がったら、十階フロアボス突破を考えても良いだろう。

 正直、鏡子ねえさんと俺で十階は軽々突破できるだろうが、『Dリンクス』全体の事を考えるとそれは不味い。

 ある程度はレベルを合わせないとな。


 昇降口で靴に履き替えて校舎の外に出た。

 校門に鏡子ねえさんが待っているのが見えた。

 今日はヘビ柄じゃなくて黒いボディスーツだな、買ったのかな。


「おお、きたな」

「こんにちは、鏡子ねえさん、格好いいね」

「へへー、良いだろう、みのりのママが買ってくれた」

「良く似合っているよ」


 綺麗な革製の黒いボディスーツだ。

 あちこちにクッションが入っているからバイク用かな。


「ママはもう、鏡子おねえちゃんに服を買ってあげたくてしょうがないんだよ。昨日もデパートで色々買ってた」

「ありがたいんだが、ちょっと申し訳無くて困るな」

「いいんだよー、ママも楽しいんだから」

「そうか?」


 鏡子ねえさんは恥ずかしそうにして頬を指で搔いた。

 うん、峰屋家で大事にして貰っているみたいだね。

 なによりだ。


 皆で歩いて家路をいく。

 まだ梅雨前の空はにじんだような感じで良い気候だな。


「それじゃ、あとでタカシくんちに行くねっ」

「DIMAZONのマグカップ受け取っておいてくれー」

「解ったよ」


 峰屋みのりと鏡子ねえさんはお屋敷街へ折れていった。


「それじゃ、後で迷宮で」

「わかった、またなー」

「またね、東海林君」


 東海林が一軒家に入っていく。


 泥舟の家まで行くと、誰かが立っていた。


「あれ、お爺ちゃん」

「こんにちは」


 泥舟のお爺さんの雲舟さんだった。

 和服がビシッと決まった姿勢の良いお爺さんだ。


「おお、タカシ君、お久しぶり」

「どうしたの、お爺ちゃん」

「ちょっと、タカシ君にお願いがあってな」

「なんでしょう」

「久しぶりに厳岩の顔を配信で見て懐かしくなってな、会いたくなったんじゃ。今日迷宮に行くのだろ、連れて行ってくれんか」

「わあ、師匠も喜びますよ。是非一緒に来て下さい」

「そうか、防具は当世具足で良いかの」


 いや、合戦でもしにいくつもりか、雲舟爺さん。


「厳岩さんに会いに行くだけなんでしょ?」

「まあそうだが、迷宮は魔界じゃからな、出来るだけの装備をしたほうが良いかと思ってのう」

「浅い階なら、胴丸と槍ぐらいで良いと思いますよ。泥舟も陣笠だし」

「そうか。そういえば、泥舟、あの陣笠いいな、どこで売っておった?」

「ゴブリンからドロップしたんだよ」

「そうか、次回出たらワシにくれ」

「いいよ」

「そういえば今日は月曜日で師匠はいないかもしれませんよ。土日なら確実なんですが」

「まあ、居なかったら居ない時じゃわい。一狩りして帰ればよい」


 なんか、狩りする気まんまんだな。

 厳岩師匠の養老パーティに参加しそうだ。

 雲舟さんも一緒にマンションに来て貰うことにして、泥舟と別れた。


 マンションに近づく。

 歩調を緩めるが、昨日のような後ろ頭にピリピリくる感じはないな。

 【気配察知】の方にも違和感がある存在はいない。


 マンションの玄関を入り、エレベーターに乗る。

 高橋さんは何階の人なのかな。

 早めに挨拶をしたくなってきたな。


 部屋の前に置配された沢山のDIMAZONの段ボールがあった。

 どんだけ買ったんだ鏡子ねえさんは。

 あきれつつ、ドアを開けて運び込む。


 大きい奴はローソファーっぽいな。

 とりあえずいつもの戦闘ジャージに着替えてローソファーから段ボールを開封していく。


 お、これはなかなか。

 そんなに高級そうではないけど、良い感じの座り心地になるね。

 いつも鏡子ねえさんが座る位置に大きい方を置いて、俺と泥舟の方に二つの小さなローソファを置いた。

 わあ、なんだか部屋っぽさが上がったな。


 あとの段ボールは全部鏡子ねえさんの買ったやつだから開けないでおいた。

 ローソファーに座ってくつろぐ。

 いいねえ。


 そんな事をしていたら、ドアホンが鳴った。

 出て見ると、峰屋みのりと鏡子ねえさんだった。


「きたよー、タカシくん」

「きたぞー、ぎゃあ、もう届いているのかーっ!」


 鏡子ねえさんが俺の肩越しにローソファを見つけて声を上げた。


「鏡子ねえさん、どんだけ色々買ったんだ、沢山段ボールがきたよ」

「本当か、わあああ、嬉しいなこれ」


 なんとなく解る。

 通販が届くと妙に嬉しいもんな。


 鏡子ねえさんはうしゃうしゃ笑いながら段ボールをばりばり開けた。

 マグカップとか、スニーカーとか、鍋とか、色々な物が出て来た。

 峰屋みのりはキッチンで食器類を受け取り洗っている。

 なんでラーメン鉢まで買うのかな。

 しかもネコが付いてる奴が六個。


 ピンポーン。


 今度は泥舟と雲舟師匠だった。


「こんにちは、あ、ソファー来たんだ」

「こんにちは」


 雲舟師匠は赤い胴丸をして、籠手を付け、頭に鉢金を巻いて凄い気合いだな。


「お、じじい、誰? 強そう」

「やあ、君が鏡子ちゃんじゃな、配信で見たよ、わしは雲舟、泥舟の祖父じゃわい」

「わあ、お噂はかねがね、峰屋みのりです」

「私は鏡子だ、よろしくなっ」

「おお、生みのりんちゃんじゃな、さすがのかわいさだ」

「もう、やめてよ爺ちゃん」

「はっはっは、すまんすまん」


 雲舟師匠は快活に笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る