第78話 雲舟師匠を厳岩師匠の元にとどける

 そんなわけで、俺たち『Dリンクス』電車に乗って川崎駅前の地獄門の前まできた。


「雲舟先生は迷宮に来た事はあるんですか?」

「ないなあ、面白いとは思ったがな、老人は新しい事を始めるのがおっくうでな」


 俺たちは地獄門をくぐった。

 平日の三時頃なので、人は少ないな。


 まっすぐ階段を進んで、二階、三階と下りていく。


「うおっ、ここが地下なのか」

「実際に目で見ると違和感すごいでしょ、お爺ちゃん」

「ほんとうだなあ、魔法とは凄い物だ」


 三階の無限に続くような草原、青空は衝撃的だよな。

 まあ、実は有限で二キロほどの円形の草原で、端まで行くと反対側の端から出てくるのだ。


 どこからから、リボンちゃん、おかっぱちゃん、三つ編みちゃん、おだんごちゃんのカメラピクシーがふよふよと現れた。

 今日はあと一体、クラッシーなドレスのカメラピクシーが現れた。

 雲舟師匠のカメラピクシーらしい。


「おお、あんたがワシのカメラピクシーか、よろしくのう」


 ドレスちゃんは優雅に空中でカーテシーをしてカメラを構えた。


 師匠は今日は居るかな?

 と目で探したら、居た、霧積に稽古を付けているらしい。

 俺たちはそっちに移動する。


「やややや、雲舟!!」

「久しいな厳岩!!」


 爺さん二人は抱き合って再会を喜んだ。


 霧積はしゃがみ込んで肩で息をしている。


「やってるな、どうだい?」

「おめえ、クソ爺が強くて強くて、無茶ばっか言って死ぬ」

「ばかもん、無茶だから強くなれるんじゃ、ほれ、素振りを休むな」

「ひでえ」


 ぶつぶつ言いながらも霧積は素振りを始めた。

 お、なかなか良い感じになってきたじゃないか。


「けっこういけてるな」

「そうか、だがまだスキルは生えねえんだ」

「まあ、地道にやれよ、スキルが生えると世界が変わるぞ」

「そんなもんか」

「そんなもんだ」


 二人の武道爺さんたちはレジャーシートに座って話が弾んでいるようだ。


「雲舟師匠、俺たちは五階に行きます」

「ああ、ありがとうタカシくん」

「行ってこい、タカシ」


 俺たちは師匠たちに手を振って階段に向かった。

 霧積は必死に素振りを続けていた。


 四階に下りる。

 泥舟と峰屋みのりを前に出して、後ろから鏡子ねえさんと歩くだけの楽な狩りだね。


「昨日はなんの楽譜スコアを覚えたんだ?」

「歌じゃなくて【罵声】と【冷静の歌】だよ」

「罵声?」

「あ、カビパラ! 『なんであんた毛皮ゴワゴワなのよっ!』」


 罵声を浴びせかけられた三匹のカビパラは身をぶるぶる震わせながら涙を流して苦しんでいる。

 そこを泥舟が槍でさっくりと倒した。


「こう、悪口を浴びせかけて精神攻撃を与える言葉技だって、選択式で使いやすいってネットに書いてあったの」

「これは、便利だねえ」

「でしょでしょ、これからは【罵声】のみのりんって呼んでねっ」


 なんだか、峰屋みのりのイメージに合わない呪歌だなあ。

 でも便利は便利か。


『【罵声】かあ、渋い所を』

『俺もみのりんにののしって欲しい』

『( °∇^)]もしもしポリスメン?』

『通報はやめてーっ』


「冷静の歌は?」

「『ああ~~あ~~、あたまをすっきりおんどをさげろ~~♪ れいせいにれいせいになれ~~♪ クールになれ~~♪』」


 おお、頭がすっきりして気持ちが落ち着くな。


「これって、私用?」

「そうそう、鏡子おねえちゃんが【狂化】バーサークしたときの沈静に使えないかなっておぼえたのよ」

「おー、実験してみるか」

「そうだな、鏡子ねえさん、次に何か出たら【狂化】バーサークで倒してみてくれ、その後峰屋が【冷静の歌】だ」


『おお、上手く行けばいいな』

『そうだな、毎回キュアポーションを飲ませるわけにはいかないしな』

『あと沈静の可能性があるのは僧侶の奇跡【解呪ディスペル】かな』


「やってみよう」


 鏡子ねえさんが森の道を歩いて行くとゴブリンが二匹現れた。


「ギャギャッ」

「ぐ、ぐああああっ」


 鏡子ねえさんの目が赤く光り、ぼこりと体が膨らんだ。

 

「ぎゃっぎゃっ!!」

「ぎゃりりりあああああうっ!!」


 ガシュッ、バガン!!


 意味不明の叫び声を上げて狂子となったねえさんは二匹のゴブリンを一瞬で殴り殺した。


「ああああああああっ!!」


 こちらを向いてゆっくりと歩いてくる。

 というか、目が赤い所以外はあの頃の狂子だな。


「あー、うー、も、もどす?」


 一応意思の疎通も出来るようだ。

 大分知能が下がっているようだが。


「『ああ~~あ~~、あたまをすっきりとおんどをさげろ~~♪ れいせいれいせいになれ~~♪ クールになれ~~♪』」


 峰屋みのりがリュートを鳴らしながら【冷静の歌】を歌う。

 ああ、綺麗な声で、心がすっと落ち着くな。


 狂子の目もだんだんと赤みが消えて、体もしぼんでいった。

 おお、沈静化したぞ。


「お、治った、凄い」

「やったーっ!!」


 魔力の霧を泥舟と峰屋みのりに吸わせる為に鏡子ねえさんはこちらへ移動してきた。

 しきりに肩とか腿を揉んでいる。


「どうしたの?」

【狂化】バーサークで筋肉が膨らんだけど、この服、迷宮産じゃないから膨らまないで締め付けたんで痛い」

「ああ、そうか、普通の服で【狂化】バーサークするとそういう弊害があるんだね」

「帰りに売店で別の服を買おう、迷宮産はサイズ合わさなくて良いから楽だ」


 迷宮産の一般服は着ると自動的に伸び縮みしてくれる魔法が掛かっているんだ。

 そうじゃないとレア甲冑とか着られる人が少なくなるからだ。


 今の鏡子ねえさんの服はバイク用のボディスーツだからなあ。


「『さあ目を開けて傷を癒やそうよ~~♪ 頑張った君の勇気を力に変える~~♪ 治れ治れ治るんだ~~♪』」


 話が聞こえたか、峰屋みのりが【回復の歌】を歌った。


「ありがとう、みのり、楽になったよ」

「いいのいいの、お礼なんて水くさい」


 二体のゴブリンからは魔石とゴブリンカレーが出た。

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