第76話 今日の学校はあまり騒がれなかった
「タカシくん、おはようおはよう、あのあと権田って人が攻めて来たんでしょ、朝のニュースでやってた」
クラスに入ると、今日も峰屋みのりがデデデと走り寄ってきた。
「なんとかかーちゃんに倒してもらって逮捕してもらったよ」
今日はあまり生徒が寄ってこないな。
「うわ、ウイングチートのキョンくん大丈夫かしらっ」
「リーディングに移るのかなあ、死なないで欲しいなあ」
「サッチャンがコワイよう私」
昨日のサッチャン大暴れ中継がクラスの話題のようだ。
俺は自分の席に付いた。
峰屋みのりは俺の前の席にちょこんと座る。
東海林が椅子を持って来て、俺の席の横に付いた。
「おはよう東海林、樹里さんはどうだった、スキル生えた?」
「新宮、峰屋さんおはよう、まだだけど、そろそろ生えそうって言ってたな。今日も四階でソロ狩りをするって言ってた。すごく勉強になるらしいな」
「そうなのか、おまえらは?」
「僕らは五階だな。『Dリンクス』は?」
「私たちも五階だよ、一緒に狩りする?」
「そうだねえ。鏡子さんが居るのは心強いが、効率はあまり良く無いね」
「えーっ」
「まあ、同じ階で狩りをしているから、半グレが来たら呼んでくれ、急行する」
「ありがとう、助かるよ」
クラスのガラの悪い不良女子が二人やってきた。
「おい、タカシ、おまえすんげえ剣持ってるんだって」
「見せろや、三億六千万」
後ろから手が伸びて不良女子ズの頭を掴み、ゴチーンと音がするほどにお互いの額をぶつけさせた。
「なにしやがっ……、ご、後醍醐先輩」
「い、いや、別にあたしらはタカシさんに絡んでたわけじゃあ無くってですね……」
「おう、今朝に学校中の番格連中には通達済だ、タカシに剣を見せて貰おうとかすんなってなっ、ありゃあ、プロの武器だ、パクって売ろうとか考えんな、追い込むぞ」
「は、はいっ」
「すいませんでしたっ」
この学校、番長制度があるのか、さすが川崎だ、不良の伝統が深い。
「後醍醐先輩、おっはよー」
「おう、みのりん、タカシ、東海林、おはようだぜっ、学校内での不良は押さえたからよ、それほど無茶な事はしてこねえだろうよ」
「後醍醐先輩、助かります」
「良いってことよ、俺とお前の仲じゃあねえかっ」
そう言って後醍醐先輩は快活に笑い、後ろを見た。
「……」
「……」
「……」
「……」
なんだろうこの間は。
「ゴダ先輩、チヨリ先輩は?」
「ああ、あいつは今日は休みだ、ウイングチートのアイドルを匿ってる所で避難しているアイドルたちを元気づけているぜ」
「あ、なるほど」
「あの人は破天荒に見えますが、根は世話好きな感じですね」
「まあなあ、あいつとも長いが、わりと良い奴だぜ」
後醍醐先輩とチヨリ先輩は幼なじみなのかな。
俺と泥舟みたいな感じだろうか。
「放課後は俺も行ってやるつもりだ、サッチャン来てもかなわねえけどよ」
「どれくらいの範囲をサッチャンが敵と見なすかわかりませんからね」
「俺も行こうか?」
「タカシは狩りをしてろ、『Dリンクス』の一番大事な時期だしよ。サッチャンきたらかーちゃん呼んでもやばそうだし」
それもそうか。
「ゴダ先輩、チヨリ先輩を『迷宮ぶっつぶし隊』に入れてあげれば?」
「あー、それも考えたんだけどなあ、バード居ると確かに楽だし、あいつコモン
「なかなかバランスが良いじゃないんですか?」
「おうよ、東海林、だけどまあ、アレは頑固でなあ、たぶんこねえだろうよ、出来た時から誘ってはいるんだけどよ」
「チヨリ先輩もリーダータイプですからね」
「そういうこと、あいつは昔から生意気なんだよっ、まったくよう」
そう言って後醍醐先輩は大事な物を見るような優しい目で笑った。
そうかそうか、後醍醐先輩にとってチヨリ先輩は大事な人なんだろうな。
先生がやってきた。
「おう、みんな席につけー、後醍醐は帰れ~」
「おう、またなタカシ」
気の良い先輩は教室を出て行った。
先生は教壇に立ってこちらを向いた。
「あー、サッチャンが大暴れで世間は騒がしいが、まあしかたがないだろう。迷宮は人類に恵みもくれるが、だからと言って味方でもないし神でもない。悪魔は我々とは違う思想、違う感覚で生きている生物な事を忘れてはいけないと思う」
先生は解っているな。
「世界に地獄門が出来て五年、世界は急速に変わりつつある、これからもどんどん変わるだろう。だが、我々は人としての誇りを忘れてはいけないと思う。人と動物を分ける一番の特徴は【学習】と【思考】だ、この人類が元々もっているスキルで、人は世界に適応してきた、そしてこれからも適応していくだろう。それを忘れずに勉学に励め、学校で学んだ事は必ず迷宮でも社会でも役に立つ。これだけは先生が保証しよう」
やっぱり先生の考え方は好きだな。
地に足が付いている感じがする。
悪魔はあくまで悪魔だ。
だが、絶対にわかり合えないほど異質な存在では無いと思う。
向こうがこちらを滅ぼす気が無いのであれば、共存の道を探すしか無いだろう。
百年、二百年後の地球がどうなっているか考えると、なんだかすごくワクワクするな。
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