第74話 権田権八という生き物
「退魔刀を返ちてくだしゃいっ! それは僕が僕の愛を受け入れなかった竜一きゅんから奪った思い出の品物なんでしゅよっ!」
「ホモ?」
「ボーイズラブと言いなしゃいっ!!」
一瞬で激高して権田権八はスレッジハンマーを俺に向かって振り抜いた。
ドカーン!!
跳びのいて避けたがブロック塀が粉々になった。
もうもうと埃が舞い踊る。
こいつ、相当レベルが高い。
途轍もない圧の重戦士だ。
女の取り合いと聞いたが、違うようだ、女の子に目を移した司馬竜一を嫉妬にかられた権田権八がたたき殺したのだろう。
なんという濃い奴だ。
こいつが連れて来た十人の半グレも、鼻血デブとは比べものにならないぐらい強い。
権田権八の近衛兵といった所か。
みんな、キラキラしたイケメンぞろいだ。
「退魔刀を返したらどうするんだ? 重戦士ではクラスが合わないぞ」
「迷宮の交換所で三億六千万円で売れる品物でしゅっ、外で競売にすれば十億は堅いでしゅっ!! 売り払って僕は僕の為のおちんちんランドを建設しますのでしゅっ!!」
だめだ、こいつ、いかれてやがる。
まずいな。
鏡子ねえさんがいて、俺と連携を取れば倒せなくもなさそうだが、今は俺一人だ。
やばいな、逃げるか。
サイレンを鳴らしてパトカーがやってきた。
『そこのDチューバー、破壊行為を直ちにやめなさい。警告に従わない場合、発砲……』
「うるしゃいのでしゅっ!!」
権田権八が一歩踏み出し、パトカーの前面を横殴りにした。
ドガーーン!
パトカーは電柱にぶつかりくの字に曲がって止まった。
ドアを開けて、本官さんが飛び出してきた。
「抵抗はやめなさいっ、さもないと……」
「うるしゃいうるしゃいっ!! 僕の邪魔をちないでよおおおっ!!」
権田権八が本官さんに向けてスレッジハンマーを振り上げた。
ダキューン!
本官さんが拳銃を撃った。
だが、その弾は一瞬光った甲冑に弾き飛ばされた。
「ぐふふ、鉄砲なんか効かないでしゅよっ、ぐふぐふっ、この甲冑はレア装備『
くそっ、物理無効の鎧か?
やっかいな。
「おまわりしゃんなんか嫌いでしゅっ、いつもいつも僕のちたい事をじゃまをしてっ、おまわりさんなんか、みんな死んじゃえでしゅー!!」
本官さんは三段警棒を腰から取り出して伸ばした。
【剣術】スキル持ちなのだろうが、権田権八とは圧の量が違う。
俺は塀から飛び降りて本官さんの前に飛びこんだ。
バックラーで【パリィ】!
ガッキーン!!
なんとか間に合って権田権八のハンマーの一撃をいなした。
【パリィ】はスキル【盾術】から派生する四つの技スキルの一つだ。
かなり重い攻撃もいなす事が出来る。
「あ、ありがとうタカシくん」
「大丈夫ですか」
俺は本官さんと並んで権田権八と対峙する。
「ふひゅ、ふひゅっ、なかなかやりまちゅねえ、タカシくんっ、良く見ればなかなかのナイスボーイ、どうでしゅ、僕の愛を受け入れてくれまちぇんか」
「絶対に嫌だ、ふざけんなっ」
なんだか超絶的にショックを受けた顔をした権田権八は顔をゆがめ、涙を流し始めた。
「いけない、それはいけないのでしゅ、僕の愛は世界の真実なのでしゅ、それを-!! それを~~!! 受け入れないタカシくんはちんじゃいなさいいいいっ!!」
「脳みそ腐ってやがるのかホモ野郎、お前のおもちゃになるだなんて、前世でどんな悪行を重ねたらそんな罰が当たるんだよっ!!」
「もうゆるちましぇ~~んっ!!」
権田権八は頭の上でスレッジハンマーをブンブンと廻した。
なんて力だ。
権八の親衛隊の十人が、俺と本官さんを逃がさないとばかりに包囲する。
「【オカン乱入】」
おれは権田権八の背後にかーちゃんを召喚した。
光の柱から出て来たかーちゃんは一瞬で状況を飲み込んだのか、メイスを振り上げた。
「タカシ! こいつをボコればええんやなっ!」
ドガシ!!
「ぎゃんっ!!」
権田権八の甲冑が光り、一瞬跳ね返されるかと思ったが、かーちゃんのメイスもまた光り、激突して甲冑を凹ませ権田の巨体をごろごろと転がした。
「ナイス、かーちゃん!」
「たかしくんのおかあさんっ」
権田権八は首を振りながら立ち上がった。
「みんな、みんなちてどうちて僕の純愛をじゃまするのでしゅかっ!! 殺して殺して殺して殺しましゅ!!」
「なにいうてんの、こいつ?」
ガキンガキンガキン!!
もの凄い速度で権田権八はスレッジハンマーを振り回し、攻撃するが、ことごとくかーちゃんの丸盾がそれを防ぐ。
「ちねい、おばちゃんっ!! 【
「生意気に戦技かいなっ! 【
権田権八のスレッジハンマーが光り、同じく輝くかーちゃんのメイスと激突した。
ぐぐぐと権田権八の筋肉が膨らんだ。
かーちゃんは冷たい目でそれを見る。
ドカーーン!!
権田権八のスレッジハンマーが粉々に砕け、散弾銃のように辺りに飛び散った。
かーちゃんはメイスを切り返して権田権八の脇腹を打つ。
「絶対命中スキルと威力倍増スキルが激突したら、勝つのは威力倍増スキルに決まっておるやんかっ!」
「ぎゃひっ!!」
権田権八はゴロゴロと駐車場を転がり金網を凹ませて止まった。
「かはっ、かはっ、あ、あんたたち、このおばちゃんをやっつけなしゃいっ!! 十人がかりなら行けりゅっ、僕を愛ちているならやりなしゃいっ!!」
権田権八親衛隊のイケメン達は顔を見あわせた。
そして、一斉に武器を投げ捨てた。
「もう、俺たちはあんたのわがままに付き合うのはまっぴらだ」
「怖くねえ権田なんて、くさったホモだ、死ね」
「なんで、どうちてなんでしゅかあ? あんなに僕を愛ちてるってえっ!!」
「「「「「「「「「「全部嘘だ」」」」」」」」」」
「しょ、しょんなああああっ」
権田権八は崩れ落ち、号泣した。
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