第73話 奴が攻めて来た

 家に帰る峰屋みのりと鏡子ねえさんを見送って、三叉路を泥舟と曲がる。


「ああ、なんだか、毎日タカシと一緒で楽しいな、子供の頃みたいだよ」

「俺もそう思う」


 子供の頃、みんなで河原で日が落ちるまで遊んでいた、そんな感じの毎日だな。

 充実していて楽しい。


「それじゃ、また明日ね、タカシ」

「ああ、お休み泥舟」


 泥舟の家の前で別れて一人でマンションを目指す。

 どこかで焼いているのか焼き魚の匂いがする。

 とっぷりと夜は暮れている。


 なんだか、頭の後ろがざわざわする。

 【危険察知】、かな?

 サッチャンと越谷さんの戦いを見て何か得る物があったっぽいな。

 あの凄い戦技スキルを見たら危険も察知できるようになるかもしれない。


 歩く速度を落とし、半眼で先を見る。

 【気配察知】が何人かの反応を捉えた。


 マンションの近くの駐車場で、五人のDチューバーがウンコ座りをしている。

 戦士が三、射手が一、盗賊が一。

 俺を待ち伏せしていたか。


 それはまあ、三億六千万の得物を持っているのだから、半グレもそう簡単に諦めたりしないよな。

 まだこちらに気が付いていないのが救いか。


 俺はブロック塀の上に体を持ち上げた。

 足音を潜めて半グレたちが座っている近くまでゆっくりと移動する。


「タカシはまだこねえのかっ」

「飯屋に入った所までは確認しやしたが、そろそろ来そうな頃なんですけどねえ」

「飯屋で襲ったほうが良かったんじゃね?」

「ばっかおめえ、狂子がいるのにそんな事できっか、タカシだけになった時がチャンスなんだよっ」

「狂子こええですからね、あいつが居なきゃみのりんもさらい放題なんすけど」

「あいつは【半グレ特攻】とかのスキルを持ってるにちがいねえっ」


 いや、おまえらが弱すぎるだけだと思うぞ。


 さて、奇襲を掛けるか。

 一番怖いのは射手、次は盗賊だな。


 俺は『暁』を抜き、バックラーを左手に持った。


 奴らがウンコ座りをしているど真ん中に飛び降りる。


「「「「「は?」」」」」


 射手の膝に目がけて『暁』振り下ろす。


 ザッシュ!!


 うおおおお、切れる。

 射手の太ももが半分切断されたぞっ。

 なんて切れ味だっ。


「ぎゃああああっ!!」

「ばっ、おまっ、タカシっ!!」


 答えない。

 俺はそのまま低い姿勢で立ち上がりかけた盗賊の足首に切りつけた。


 シュパ!


「ぎゃあああああっ!!」


 思いの他軽い音で盗賊の足首が切断され、飛んだ。

 これは、初心者用の片手剣とは大違いだ。

 斬れる!


 戦士が三人、柄物を持って立ち上がったので、後ろに飛び、片手でブロック塀の天辺を持って体を引き上げる。

 身軽な盗賊、飛び道具の射手は両方とも足を押さえてのたうち回っている。

 ブロック塀の上は安全地帯となった。


「ひ、卑怯だぞっ、てめえっ!!」

「鼻血デブじゃないか、何か用か?」

「お? ああ、権八さんがお前を呼んでる、大人しくついてこい、こっちは五人だ……、か、勝ち目があるとでも思うのかっ」

「もう半分勝ってるが」

「う、うるせえ、やるぞ、おまえらっ!」

「え? どうするんすか?」

「塀の上っすよ?」

「ああっ? あー……、矢を射かけ……」

「ポーション、ポーションっ!!」


 射手が泣きながらポーションを求めた。


「あ、足がっ、足がっ、これ、治らねえっ、治らねえっ!!」


 盗賊は泣きながら足首を掴んで出血を止めようと必死だ。


「ポーションなんざ持って来てねえよっ!! ち、畜生っ!! ど、どうしてくれんだ、タカシ!! 盗賊はハイポーションじゃなきゃ治らないぞッ!!」

「帰って、権八に、駄目でしたって言え」

「言えるわけねえだろうっ、権八さんはすぐ怒るんだよ、んで、俺らを殴るんだよ、一日に二回も失敗したとか言ったら殺されるよっ!」

「知らねえよ」


 というか、半グレには僧侶とか居ないんだろうなあ。

 信仰心が低そうだしな。

 本当に馬鹿ばっかだな。


「どうするんだ、もう警察が来るぞ」

「きえええええっ!!」


 鼻血デブが目を血走らせて片手剣を抜き、ジャンプして塀の上の俺に斬りかかってきた。

 すっと横に移動すると、鼻血デブは絶望した目で俺をみて、ブロック塀に片手剣をぶち当て、そのまま体ごと塀に当たり跳ね返って落ちた。


「ぐああぎきやがりぐえらああっ!!」


 顔が真っ赤になり、目を見開き、鼻血をだらだら流しながら、鼻血デブは意味不明の事を怒鳴り両手を使って塀の上に上がってきた。

 軽く肩に蹴りを入れる。


「あ、あうっ?」


 鼻血デブは転げ落ちた。


「ち、畜生っ!!」

「卑怯だぞ、タカシ、正々堂々勝負しろっ!」

「ぐおんだりがらいざああっ!!」


 俺は盗賊の方に顎を振った。


「ほっとくとあいつ死ぬぞ」

「あ、あああっ、救急車呼ぼうよっ!」

「ええと、何番?」

「ごぐりいぞいげっ!!」


 鼻血デブは懐からDスマホを出してプッシュした。


 ドカン!!


 轟音がして、鼻血デブは駐車場の端まで吹き飛んだ。


「役に立たない奴は死ぬのが良いんでしゅよお」


 それは重戦士だった。

 赤ん坊のような無垢な顔をしていた。

 体はヘラクレスのような筋肉の塊だった。

 ピカピカの重甲冑を着ていた。

 とんでもなく大きいスレッジハンマーを持っていた。

 後ろに十人ほどの半グレ配信冒険者がいる。


「はじめまちて、こんばんわ、タカシしゃん、僕が権田権八でしゅ、よろしくおねがいしましゅねっ」


 そう言って怪戦士はカカカと笑った。

 こいつ、レベルが相当に高いっ!

 しかも、甲冑、スレッジハンマー、共にレア装備だ。

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