第75話 後始末をしてマンションに入る

 権田権八はかーちゃんによって倒されて、逮捕された。


「ご協力ありがとうございます。こいつは前科五犯の殺人鬼で余罪がたっぷりあります。迷宮に潜伏していて手が出せなかったんですよ」

「いえ、こちらも助かりました」


 県警から応援が来たようだ。

 十人ぐらいの警察官が半グレたちを捕まえている。

 警察も、今日はサッチャンが来たり、権田権八が暴れたりで大変な日だったな。


「しっかり持ってるんやで」

「は、はい、タカシのかーちゃん、たのんます」


 かーちゃんは半死半生の半グレに治癒魔法を掛けてまわっている。

 足首を失って死にかけの盗賊を治している所だ。


「『我が女神に願いて、ここに請願せいがんす、わが友の傷を癒やしたまえ』」

「あ、足がっ、くっつきましたっ!! ありがとうタカシのかーちゃん」

「もう、これに懲りて悪い事しなさんな」

「はひ、はいっ!!」


 盗賊は泣きながら更正を誓った。


「なんで、あの鼻血デブは外に出てたんですか? さっき連行していきましたよね」

「はあ、それが、司馬組の構成員が警察に自首してましてね、ええ、死にたく無いから警察に保護して貰おうって魂胆でしたが、断る訳にもいかず、そうしたら、まあ、来たんですよサッチャンが、それで代用監獄の鉄格子をぶっ壊されましてね、あいつらは全員逃亡したってわけです」

「司馬組の構成員は死にましたか」

「はい、サッチャンにはかないませんし」


 やれやれサッチャンのせいだったか。


 あらかた治療を終わったかーちゃんがやってきた。


「おかあさんも、ご協力に感謝です」


 本官さんは敬礼した。


「ええんやで、所でタカシ、そいつの甲冑は戦利品として取らんの?」

「え?」


 いや、凄いレア装備だとは思うけど、峰屋みのりに着せてもいいなあとは思うのだけど、権田権八が着てた物だしなあ。

 なんか嫌だ。


「戦利品の権利は破棄します、警察で使ってください」

「よろしいのですかっ?」


 法律的には、権田権八の物だよな。

 レア装備は押収して没収とかしてないのか?

 というか、物理無効の甲冑は警察が使うと便利だよね。


「そうか、あと、林田さん」

「あ、はい、なぜ本官の名前を」

「あんた、昔、近くの交番勤務やったろ、新人の頃」

「ああっ、そう言えば昔お会いした事がありましたね、格好が違うので解りませんでしたっ」

「それは、いいんやけど、こいつ、【絶対命中】のレアスキルもっとるで、普通にしてたら逃げられるで」

「ど、どうしたら」

「警官さん、手足の装甲を外してや」

「な、なにをしゅるっ!!」

「はっ!!」


 警官さんたちが権田権八のガントレットとグリーブを外した。


「タカシ、片手と片足を切り落とし」

「え?」

「「「「えっ?」」」」

「ええ、しょんな~~!!」

「片手片足が無ければ踏ん張れんからな、レアスキル持って居てもどうもならん。切り取った手足は冷凍しておいて、必要な時にハイポーションでくっつければええで」


 そ、それは乱暴な、だが、確かに【絶対命中】のレアスキルがあるなら、石塊や椅子や机でも十分に武器になる。


「異世界ではそうやって高位の冒険者を拘束するんや」

「やめなしゃいっ、いやでしゅっ!!」


 権田権八は嫌がって暴れるが、上に乗ったかーちゃんを跳ね落とせない。

 俺は『暁』を抜いた。


「良いですか林田さん」

「おかあさんのおっしゃる通りですね。レアスキル持ちなら簡単に脱獄できてしまいます。前例はありませんが、戦闘中の怪我によりと報告いたします、やってください」

「ふざけりゅなーっ!!」

「暴れても無駄や」


 シャクッ、シャクッ。


「ぎゃーっ!!」


 うん、『暁』は良く斬れる。

 片手片足を失った権田権八に向けてかーちゃんは治癒魔法をかける。


「『我が女神に願いて、ここに請願せいがんす、わが友の傷を癒やしたまえ』」

「やみぇてえええっ!! 手足がくっつかなくなるでしゅーっ!!」

「大丈夫や、再度ハイポーションを掛ければくっつくで」


 権田権八は無事に片手片足になった。

 ショックで奴はぼろぼろと泣いていた。


「そいじゃ、そろそろ時間だから、帰るわ、また呼んでえなタカシ」

「かーちゃんありがとう」

「何から何まで、感謝いたします」


 林田さんはかーちゃんに向けて敬礼をした。


 こんなやり方があるのか、とか、確かにレアスキル持ちにはこれしかなかろう、とか警官さんが喋りながら権田権八を担架に乗せて護送車へ運んでいった。


「お廻りさんも大変ですね、不良Dチューバーたちも凶悪化していくし」

「そうなんですよ、もっと警官Dチューバーが増えて欲しいのですが、なかなか古い体質の組織でして。タカシさんもご協力に感謝いたします」

「こちらこそ、ありがとうございました」


 俺は林田さんに一礼した。

 レッカー車が来てくの字になったパトカーを引っ張って行く。


 マンションの入り口に目付きの鋭い男女が数人いた。

 黙礼して中に入る。


「タカシ」

「はい?」


 背の高い男の人が声をかけてきた。


「気にするな、俺たちはDチューバーだ、宝が手に入ればこういう事はままある」

「ふふっ、迷惑かけたとか、思う事は無いよ、タカシっ、て、高橋は言いたいのよ」

「あ、ありがとうございます」


 他のDチューバーさんたちも同じ意見のようで、皆柔らかい表情をしていた。

 俺は深く頭を下げた。

 助かる。


 鏡子ねえさんがここに引っ越して来たら一緒にマンションの全室に挨拶に行こう。

 俺はそう決めた。

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