第63話 霧積を師匠に引き渡す

 かーちゃんと藍田さんの治療が終わった。


「アウトロー危ないなあ」

「根絶したい」


 鏡子ねえさんがアウトローの死体から装備を剥ぎ取りながら言った。

 お金も分捕っているな。

 うむむ。


「ふう、助かったよ、タカシ、鏡子さん」

「気にするな」

「気にすんな」


 鏡子ねえさんはニッカリ笑った。


「くっそー、魔剣があれば俺だってー」

「今は無いんだから無理は駄目だよう」

「ちえっ」


 霧積が毒づいた。


「霧積、君は三階で厳岩師匠の講習を受けろ。基本が解るとスキルが生えやすくなるよ」

「え、ガキが受ける奴だろあれ」

「ああ、そうだな、霧積は努力をしろよ」

「せっかくのDチューバーだってのによう」


 樹里さんは藍田さんと抱き合っていた。


「大丈夫だった涼子」

「うん、怖かったけど、大丈夫、みんなにも【プロテクト】かけれた」


 防御力を上げる僧侶の奇跡を掛けていたのか、意外に傷が浅かったのはそのお陰だね。


「タカシさん、ありがとうっす、あーしもう怖くって、タカシさんの事しか頭に浮かばなくて」

「良い判断だったと思うよ」


 俺は、バックラーと片手剣を樹里さんに返した。


「樹里もありがとう、命拾いした」


 東海林も樹里さんをねぎらった。


「それじゃ、タカシ、うちはそろそろいくで」

「うん、かーちゃんありがとう」

「ありがとうございました、助かりました」

「みんなもがんばってな」


 かーちゃんは光の粒子になって消えていった。


 高田くんがトマホークを投げてリンゴの枝を落とした。

 上手く帰ってきた斧をキャッチできるようになっているね。


「リンゴ、たべてよう、鏡子さん」

「おう、上手くなったな」

「えへへ、練習したんだけど、人にぶつけるのが怖くて、思い切れなかったですよ」

「足を狙え足、足吹っ飛ばせば人は動けない」

「あっ、今度やってみますよう」


 リンゴをむしゃむしゃ食べながら鏡子ねえさんと高田くんが和んでいる。

 話題は殺伐としているけどね。


「霧積、一緒に来い、厳岩師匠に紹介してやるよ」

「めんどくせえ、が、しょうがねえか」


 霧積は立ち上がった。


「あーしは四階ソロに戻るっす。なんかつかみかけてるっすよ」

「なんか後ろ頭あたりに風みたいな感じがするでしょ」

「するっす、あれ、気配察知っすか?」

「ミノタウロスに追いかけられていたとき、何回か感じたから、そろそろ生えるかもね」

「がんばるっす、タカシ師匠はソロで何年も狩りしてたんすよね、尊敬するっすよ」

「師匠とか、やめてよ」


 俺は照れくさくなった。


「じゃあ、俺は上に行くけど、鏡子ねえさんは」

「狩りするー、東海林たちも一緒に狩りしろー」

「え、良いんですか」

「おまえら甘いから、色々叩き込む、覚悟しろ-」

「はは、お手柔らかに」

「鏡子さんと一緒なら安心だよん」

「よろしくおねがいします、鏡子さん」


 俺は霧積を連れて階段に向かった。


「タカシ、あんたさあ」

「なんだい」

「なんで凄いレアスキル持ってるのに自慢とかしねえの?」

「え、かーちゃん呼ぶのは俺の力じゃないじゃん、それ以外は底辺配信者だよ、俺は」

「なんか時々すごい無茶すんじゃん、カメラピクシーの突撃止めたりよお、あれはかーちゃんを呼べるからじゃねえの?」

「あれは、その」


 勝手に体が動いたんだよ。

 リボンちゃんは大事な仲間だからさ。


「俺はよう、努力とか嫌いだからよう、魔物を狩りしてレベルアップしてレア武器持てばそれで完全勝利とか思ってたんだけどよう、東海林とか見てると違う考え方してるみたいなんだよ」

「やっぱさ、レア武器とかレアスキルとかはボーナスみたいな物だから、地力みたいな物を育てないとこの先やばいなって思ってるんだよ」


 俺たちは階段を上がり、四階に入った。


 途中ゴブリンがやってきたので霧積に倒して貰った。

 剣筋はそんなに悪くは無いな。

 スキルはやっぱり無いようだ。

 良くも悪くも普通の戦士だな。


「ああ、やっぱり迷宮でも努力と根性かよ、まったく嫌になっちまうなあ」

「まあ、レベルアップ出来るだけ外よりましだと思うけどね」

「それはまあ、そうかも」


 三階平原に着いた。

 いつもの所で厳岩師匠は講習会をやっていた。

 ちょうど終わる所だな。


「がきんちょばっかだなあ」

「子供は無茶するからね、防具も武器も無しで四階に行ったり」

「そりゃあぶねえ」


 講習会が終わり、子供達がわあっと階段に向かって駆けていった。

 厳岩師匠が俺に気が付いてこっちにきた。


「おお、タカシ、先ほど血相変えて下に行ったが」

「友達のパーティがアウトローに襲われていたんで」

「まったく物騒だな、今度二人で馬鹿どもを狩りに行くか」


 その時は鏡子ねえさんを入れて三人だな。

 十階のフロアボスアタック前に一回やっておいても良いかもしれないな。


「今日は、こいつに剣を教えて貰いたくて、スキルがなかなか生えなくて」

「そうか」

「霧積だ、よろしくな爺さん」

「うん、馬鹿っぽいな。霧積、ちょっと振ってみろ」

「へい」


 霧積は大剣を抜いて振った。

 うーん軸がぶれていて、剣に振られているなあ。


「うーん、これは、お前、才能が無いな」

「ええっ?」

「まあ、振り方から教えてやろう、見ておれ」


 厳岩師匠は霧積から大剣を受け取り、振った。

 ビュシッっと良い音がする。

 惚れ惚れするね。


「爺さんはレベル幾つなんだよ?」

「10じゃよ」

「10! そんな低レベルで20の俺を指導出来るのかよ?」

「【剣術】レベルが高いでな、ステータスはそんなにはいらん」


 お前、霧積、師匠舐めると俺が斬るぞ。


 師匠が霧積の振りを指導すると、ぐっと良い感じになった。

 音も良くなるね。


「あ、ああっ、こうやって振ると楽だなあ、へええ」

「剣術は理じゃからな、適当に振ってもスキルはなかなか生えてこんよ」

「こいつはおもろいなあ」


 霧積は熱中してびゅんびゅん振っていた。

 まあ、なんとかなりそうかな。

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