第58話 サラマンダー家族でご馳走肉を食べる

 サラマンダー家族は国道沿いとかに展開している本格ハンバーグ&ステーキのお店だ。

 複合商業施設に入っていて、窓際の席から夕闇にくれる地獄門が見える。


 今日は『Dリンクス』と『オーバーザレインボー』そして、後醍醐先輩とチヨリ先輩という大人数でテーブルに付いている。


「タカシくん決まった?」

「うーんうーんうーん」


 いや、高いのだ。

 ハンバーグが980円……、それに炊きたてご飯とサラダバーのサラマンダーセットとかを頼むとだな、六百円足し、でそれにドリンクバーだと八百円足し。

 ……。

 俺には頼む勇気が出ないっ。


「俺のおごりだ気にすんな、こいつは炭焼きサラマンダー俵ハンバーグと厚切りサーロインセットで、サラマンダーフルセット付きで」

「わたしもそれでハンバーグを五百グラムにしてくれ」

「お、姐さん、行きますねっ」


 手がぶるぶる震える。

 そ、そんな、食事に二千五百円超えだと。

 万札万札。

 だめだ、万札を四分の一消費してしまうっ!


「お前も稼いでんだから気にすんな、金は使って社会を回さないとな」

「サラダバーへ行く」

「あ、わたしもわたしも、タカシくんも行こっ」

「あ、ああ」

「タカシ、ショックを受けるな。これが現実だ」

「みんな、恐れを知らないのだな」

「タカシさんってタイムスリップしてきた人みたいですね」

「ああ、昭和の戦後混乱期から来た奴なんだろう。物価がちげーのよ」


 うるさい、ほっといてくれ。


 サラダバーとは、サラダを食い放題出来る所らしい。

 なんという剛毅な。

 野菜も新鮮で美味そうだな。


 やっ! カレーもある。


「タカシだめだ、サラダバーのカレーは罠だ!」

「なんだって!! 泥舟!!」

「あまり美味くないのにお腹がいっぱいになるぞ!!」

「そ、そうだったのか!!」


 罠まであるのか。

 サラマンダー家族、あなどりがたし!!


 とりあえず、サラダを普通に取って、スープ飲み放題でコーンスープを取り、ドリンクバーで痩健美茶をグラスに入れた。


 席について俺は太い息を吐いた。

 なんだか、すごい事を成し遂げた気分だ。

 というか、鏡子ねえさん、なんでカレーを山盛りにして持って来ている?

 後醍醐先輩も止めなさいよ。


「うまいうまい」


 メインのお肉が不味くなりますよ、と言おうと思ったが、ねえさんが楽しそうなら良いか。

 鏡子ねえさんだからな【大食い】スキルも生えているのだろう。


「峰屋さんは、サラマンダー家族は初めてなの?」

「初めて~~、楽しいお店ねっ」

「泥舟は?」

「僕はたまに来るよ、お爺ちゃん肉好きだから」


 槍の師範なのに肉が好きなのか。

 なんとなく意外だ。

 和食以外食べないかと思っていた。


 でも、なんだか、みんなでわいわいと食事をするのは楽しいな。

 高田くんもカレーを沢山持って来て、樹里さんに突っ込まれていた。


「そうだそうだ、料理が来る前に相談しちゃうんすよ、タカシさん」

「【気配察知】のスキルの生やし方だっけ?」

「そうなんすよ、あーしはもう涼子が怪我するのが嫌なんす、なんとか敵の接近をしって警報を出したいんすよ」

「樹里、ありがと」


 【気配察知】のスキルは斥候系のスキルだから、盗賊職の彼女だと覚えやすいと思う。

 逆に戦士職だった、俺とか鏡子ねえさんだと生えにくい。

 上位職の剣士とか侍になると生えやすそうだな。


「こう、広範囲に気を配って、がーっとやってるとそのうち生える」

「広範囲っすか?」

「そうだね、とにかく命の危機とか、ひりひりした状況をしのぐとスキルは生えやすいよ」

「おまえ、一人で四階と五階を巡回しろ」

「え、死んじゃいますよ、あーし、【盗賊シーフ】すから」

「ゴブリンを一対一でも倒せないか?」

「一対一、なら、倒せそうっすけど……」


 そうか、鏡子ねえさんの言いたい事が解った。


「一人で誰も頼れない状況で、四階をソロ狩りしてごらん。危険は全部自分の責任で、ゴブリンが二頭いたら逃げる、隠れる、一対一の状況まで慎重に待って、狩る。できれば一撃で」

「こ、怖いっすね、でも、確かに状況判断力は上がりそうっす、効き目ありそうっすね」

「【盗賊シーフ】の仕事は、罠外しとか宝箱開けだけじゃなくて、パーティの目になって、敵とか脅威とかを察知して判断する事だから、ソロ狩りすると勉強になると思うよ」

「そうっすね、あーし、もう二度とバックアタック食らいたくねーんで。東海林リーダー、明日、四階に籠もって良いっすか?」

「そうだね、確かに効果がありそうだ、僕らも五階で数狩りをしようか」

「えー、五階なんかたるいぜ」

「霧積は魔剣が戻るまえに【剣術】スキルを生やさないと、それは真面目に剣をつかわないと生えないぞ」

「わーったよ、しょうがねえなあ」

「タカシさん、鏡子姐さん、ありがとうっす」

「気にすんな、がんばれ」

「がんばってね」

「はいっ」


 ギャルっぽいのに樹里さんは真面目だな。

 僧侶の藍田さんの事を大事に思ってるのが伝わる。


 料理がどかどかと運ばれてきて、鏡子ねえさんがひゃっほうと喜んだ。

 うわ、すごいでかいハンバーグと肉。

 鉄板で焼かれてジュウジュウと音を立てている。


 俵ハンバーグを一口大に切った。

 中が赤いな。


「そこの牛さんの所に押しつけて焼くんすよ、タカシさん」

「ありがとう樹里さん」

「タカシさんはほっとけない感じっすね、みのりんさん」

「そうなのよ、そこがタカシくんの魅力なのよ」


 樹里さんの言うとおりハンバーグを牛の鉄の所に押しつける。

 じゅわあああっと良い音がして煙が上がる。


 ぱくり。


 ん~~~、これは美味しい。

 癖になっちゃうと困るなあ、家計的に。

 だが、止まらない。

 うまいうまい。

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