第59話 家に帰ってかーちゃんを呼ぶ

 泥舟と別れて一人で夜の街を行く。

 今日も楽しかった。

 仲間の事を思い出すと顔が自然にほころんで行く。


 かーちゃんが来る前はこんな事無かったな。

 楽しい事は滅多に無く、なんだかキツイ事ばかりだった。

 今思い直すと、あの頃の俺の顔はずっと強ばっていたような気がする。


 コンビニに入って、ほうじ茶とキュウリのQちゃんを買った。

 おっと、急須と湯飲みも買っとこう。


 マンションに入る。

 今日も笑い声が聞こえた。

 冒険帰りで宴会をしてるのかな。

 みんなで宴会は楽しいもんな。


 エレベーターに乗り三階まで行って部屋に入る。


「ただいまー」


 電気を付ける。

 誰も居ない部屋だけど、俺だけの城だ。

 明日、鏡子ねえさんの里帰りの後、ホームセンターで家具とか見てみるかな。


 ヤカンに水を入れてガスに掛ける。

 買って来た急須と湯飲みを洗う。

 キュウリのQちゃんの袋を開けてお皿に入れた。

 お湯が沸いたので、二人分のほうじ茶を入れてQちゃんと一緒にテーブルに持っていく。


 玄関の方を向いて、


「【オカン乱入】」


 と、唱えると光の柱からかーちゃんが現れた。


「お、タカシ、どうしたん」

「うん、今日はさ、一度も呼ばなかったから、まとめて三回呼んで、かーちゃんとおしゃべりしようと思ってさ」

「さよか、ええね。あっ、まー、キュウリのQちゃんやないのっ、気が利くねえっ」


 かーちゃんはブーツを脱ぎ部屋に入ってきた。


「あー、懐かしい味やね、嬉しいわ」


 かーちゃんはあの頃のようにキュウリのQちゃんをポリポリ食べながらお茶を飲んだ。


「懐かしくて涙でるわ、ありがとうなあ、タカシ」

「気にすんなよ、なにか食べたい物とかあれば言ってくれれば買っておくよ」

「せやなあ、でも、タカシとおしゃべりできるのが、うちは一番のご馳走やで」

「遠慮すんなよ、かーちゃん」

「してへんしてへん」


 かーちゃんに今日あった事を話した。

 笑いながら、呆れながら、かーちゃんは聞いてくれた。


「そうかあ、鏡子のご両親がなあ、そりゃ切ないなあ、明日、一緒にご実家に行くんか」

「そうだよ、一緒に話を聞いて、鏡子ねえさんをパーティに参加させて下さいって言うつもりなんだ」

「そうやな、きちんと説明するんやで、鏡子はそういうの苦手そうやしな」

「わかってる」

「しかし、【拳闘士グラップラー】かあ、なかなか、ええ選択やね。鏡子の持ち味が上がるさかいな」

「あ、そうだ、かーちゃん、これ何か解らない?」


 俺はマタギナガサをテーブルに置いた。


「なんやごっつい片手剣やね」


 かーちゃんはそういうと鞘からすらりと抜いた。


「魔法は掛かってないなあ、ただ、なんか凄みあるな」

「迷宮の買い取りで三億六千万円の値が付いたんだ」


 かーちゃんは目を丸くした。


「ひゃあ、それはどえらいなあっ。なんでやろうか、異世界の物ではないなあ。日本刀とかの鍛造やろ、しかし、綺麗な山刀やな」

「かーちゃんにも解らないか」

「迷宮の買い取りな、あれ、悪魔にとっての脅威度で値段が付くんやで」

「え、そうなの?」

「【悪魔特攻】でも付いてるんやないかな。今度迷宮で使ってみ」

「そうするよ、ありがとう、かーちゃん」

「しかし、三億六千万……、聖剣とかの値段やろうなあ、【伝説級レジェンド】やで」

「す、すごいね」

「迷宮の悪魔どもは気前ええからな」

「なんであんなにサービス良いの?」

「魔力が欲しいからやろうなあ。なるべく多くの人間に来て貰って死んでもらうために努力を惜しんでおらんのよ、おっと、もう時間や」

「もう一回呼ぶよ」

「そうか、今日はいっぱいしゃべれるな」


 かーちゃんが粒子になって消えたので、玄関に再召還した。


「【オカン乱入】」


 かーちゃんは光の柱からあらわれてブーツを脱ぎ、また入って来た。


「ただいま、なんや三分なんかすぐやね」

「スキルレベルが上がったら召喚時間伸びるのかな?」

「どうやろうなあ、まだレベルはついとらん?」

「まだついてないね」


 スキルは1レベルの時は数字が付かない。

 レベルが2以上になって初めて後ろにLvが付くんだ。

 もともとレベルが無いスキルもあるしね。

 たぶん【豪運】にはレベルが無いはずだ。

 レベルは存在しないで欲しい。

 時と共に【豪運】が成長したら、とんでもなくヤバイ。


「そっちの世界にも迷宮はあるの?」

「沢山あるで、小さいのから大きいのまで、ここに繋がっているのは大迷宮魔王城やな、フロア配置も一緒っぽいわ、配信は無いけどな」

「そうなんだ」

「うちらの聖女パーティも絶賛挑戦中やで、今は八十階や」

「凄いね」

「千年前からあるからな、最深到達階数の記録は130階や。二百年前の勇者パーティが成し遂げたが全滅しおった」

「まだそっちでも最深部に到達してないんだ」

「せやで、だからタカシのパーティとも競争や」

「がんばってね、かーちゃん」

「せやな、世界が繋がったら、うちの聖女さんとか連れてディズニーランドいこうや」

「いいね、行こう行こう」


 聖女さんとか、峰屋みのりと気が合いそうな気がする。

 というか、峰屋みのりは誰とでも仲良くできるけどね。


 結局、かーちゃんを三回呼び出して、色々な事を喋った。

 うん、たまにはこんな夜もいいね。

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