第56話 デモンズ神殿で鏡子ねえさんが転職をする

 買い取りカウンターのおねえさんが内緒ですよと言ったときから、リボンちゃんは飛び上がり、ロビーの全景を写していたらしい。

 買取額が漏れなくてよかった。

 三億円とか、アウトローが百人組で強奪に来てもおかしく無い。


 カメラピクシーとか、配信者はあえて触れない情報とかが結構有る。

 買取額とか、パラメーターアプリの数値とか、スキルの情報とかだね。

 これは由来があって、ダンジョンが出来てすぐの頃のトップパーティはパラメーターやスキルを全開にして冒険をしていたそうだ、そしたらライバルチームに完璧に対策されて迷宮内で闇討ちに遭い全滅したという。

 闇討ちした側が現在のトップパーティの『ホワッツマイケル』だと言うが、それは定かでは無い。

 それ以来、パラメーターやスキルを公にする配信冒険者はいなくなり、カメラピクシーも撮さないようになったという。

 そりゃそうだよね。

 情報は力なんだから。


「んじゃ神殿に行こう」

「そうだね、鏡子ねえさん」

「今日の悪魔僧侶さんはどんな人かなあ」


 神殿に入ったら、巨大な一つ目が浮いていた。

 触手がうねうねしている。


「このロリコンどもめっ」

「「「「……」」」」


 今日は外れかもしれない。


「あ、帰らないで、日本ではこう言うとドッカンドッカン受けるって聞いたんだっ、ちがうのっ?」

「いろいろ危ないのでやめてください」


『水木御大オリジナルじゃないの、この人……』

『スズキドゲザエモン……』

『あれじゃないぞ、やっぱ米国妖怪大統領の方だ』

『意外に気さく』

『名を呼んではいけない存在として扱おう』

『そうだな……』


「タカシくん、今日はなんのようかねー」

「私の転職確認だ」

「お、狂子さんの方か、任せておきたまえ~~」


 めっちゃ人外な姿なのに気さくな感じだな。


 一つ目さんは触手を伸ばして鏡子ねえさんの体をぺたぺた触った。


「ふむふむ、だいたいこんな感じだね」


 虚空に何枚ものプレートが浮いた。

 現在地点は戦士だ、そこから上に軽戦士、重戦士、横に射手、盗賊、が浮いている。

 さらに、軽戦士の上に拳闘士、重戦士の上に狂戦士が浮かぶ。


『【狂戦士バーサーカー】キターッ!!』

『世界初職業ジョブだああああっ!!』

『おお、【狂戦士バーサーカー】は装備制限無し、甲冑、大剣、大槌、大盾なんでもござれっ、所得コモンスキル【狂化】バーサーク!!』

『すげえ、これ強力やん! めっさタンク』


 ウインドウのフレイバーテキストを読んだリスナーが解説してくれる。

 正直助かる。


 今選ぶとしたら、【拳闘士グラップラー】か【狂戦士バーサーカー】かだなあ。

 射手、盗賊でも良いけど、ちょっともったい無いか。


「ふむ、どうしようタカシ」

「鏡子ねえさんはどういう風に力を伸ばしたいの?」

「なぐりたい」

「【拳闘士グラップラー】で」

「世界初の【狂戦士バーサーカー】も捨てがたいね」

「話題性だとそっちよね、でも難しいわね」

「【拳闘士グラップラー】一択だぜ、【狂戦士バーサーカー】も良いんだが、鏡子さんはもうスキル持ってるしな」


 後醍醐先輩の意見ももっともだな。


 職業ジョブの感じからすると、【拳闘士グラップラー】は敏捷と力が上がりやすく、【狂戦士バーサーカー】は力と耐久力が上がりやすそうだ。


「じゃあ、【拳闘士グラップラー】になる」


 鏡子ねえさんは【拳闘士グラップラー】のウインドウをタッチした。


 ドーンドーンと腹に響く太鼓の音が聞こえてくる。

 いきなり大きな炎が燃え上がり、天を突くような甲冑の巨人が現れた。


『戦の神様キター!!』

『ドグルド閣下~~!!』

『戦士系の神様来た~~!!』


『異世界の闘士よ、よくぞ肉体と技を鍛え上げた! お前は【拳闘士グラップラー】の転職条件を満たした、今ここにお前の新しい職業ジョブを授け、その力をさらに引き上げてやろう、喜べ』


 神様が出てくると、われわれは当然のように恐れ入り、床に膝を付き、土下座をした。

 目玉さんだけが普通に浮いていた。


「知ってるかい、ドグルドさんは結構好き者」

『やかましい、余計な事を言うな、目玉め』


「【拳闘士グラップラー】にしてくれ」

『あいわかった、その拳は雷の速度で放たれ、蹴りは地を打ち砕く、その肉体で敵を蹂躙し命を奪え、お前に永久の闘争があらんことを』

「わかった、がんばる」


 ドグルド閣下は満足そうにうなずくと手を差し出した。

 真っ赤に燃える灼熱の炎が生まれ鏡子ねえさんの体に吸い込まれていく。


『修行を怠るなかれ』

「承知した」


 ドグルド閣下は光輝き爆発して消えた。


「おめでとう、これで君は【拳闘士グラップラー】だ」

「ありがとう、目玉」

「うむ、よきかなよきかな」


 鏡子ねえさんは立ち上がりこちらにふり向いた。

 おお、精悍さが増してますます男前になった気がする。


「ひゃあ、格好いい、舎弟になりてえっ」

「鏡子おねえちゃん格好いいっ!!」

「格好いいねえ、素敵だ」

「ねえさん良かったなあ」

「うむ、嬉しい」


『キターッ!! 史上二番目の【拳闘士グラップラー】!!』

『グラップル鏡子キターッ!!』

『まあ、【狂戦士バーサーカー】はもっとレア装備増えないと美味しく無いしな。今だと【拳闘士グラップラー】一択か』

『なんという豪華なパーティか、『Dリンクス』』


 みんなに祝福されて鏡子ねえさんはネコのような顔で笑った。

 幸せそうだった。

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