第44話 狂子への道筋

 ドカーン!!


 画面が揺れ爆発に鏡子が吹き飛ばされた。


「え? えっえ?」

「大丈夫だ、生きている」


 そりゃあなたがここにいるのだから爆死はしてないでしょう。


 鏡子は頭を振って立ち上がる。

 レイパー達は爆発に巻き込まれて肉塊になっていた。

 竜は吠え声を上げながら画面奥に消えていく。


 鏡子は逃げ出した。

 走って階段を目指す。

 泣きながら一心不乱に草原を駆ける。


 カメラは鏡子の後ろ姿を追って行く。

 彼女は地獄門から外に逃げていった。


 そこで、その日の動画は終わった。


「逃げられたのね」

「そうだな、なんだか、おかしい」

「ドラゴンに恐怖しておかしくなったのかと思ったけど、違うかな」

「でも、良かった、怖いのは終わりね」


 なんだか嫌な予感がする。

 怖いのが終わり?

 鏡子さんと狂子、そして鏡子が繋がらない。


「次の日に短い動画があるね」


 泥舟は動画をクリックした。


 衣服をあらためた鏡子が警察官と一緒に迷宮に入ってきた。

 五階の現場まで鏡子は警察官達を案内していった。


 雄一の死体は無かった。

 レイパーの死体の一部が残っている。

 鏡子は絶望の表情を浮かべて泣いた。


「死体は魔物に食われたかなあ?」

「ドラゴンはここから八階まで自衛隊を追って行ったの?」

「そうみたいね。で、八階でゆかにゃんがプロモーションビデオを撮っていたと」

「何時もの動画で見る角度以外からドラゴンを見れたなあ」

「まとめ動画は大体、自衛隊カメラが多いからね」

「はあ……、鏡子さん、忘れて幸せに生きて……」

「なんで五階に居たのか?」


 泥舟がビデオ動画をスクロールさせた。


「半年後に、また動画が始まっているね」

「再生して」

「わかった」


 冬服になった鏡子は目が据わっていた。

 雰囲気が荒んだ感じになっていた。


「あ、こいつ、空手を習ったな」

「え? 本当?」

「歩き方に癖が出て来ている。そうか、空手だったのか」


 鏡子は五階に下りてレイパーを探し、喧嘩を売って殴り飛ばし。

 首を折って殺した。


「「「……」」」

「おお、まだ荒いけど、いいな、うん、容赦無いのも良い」


『右谷って人はどこにいるの?』

『し、知らねえっ』


 画面の中の鏡子は、また殺した。

 ああ、そうか、復讐者になったんだ。


 殺したレイパーから紫色の魔力の霧が出て、鏡子の胸に吸い込まれた。


「え?」

「え?」


 峰屋みのりと泥舟が同時に驚愕の表情を浮かべた。


「人から、魔力が……」

「経験値が……、出るの?」

「出るよ、レベルにあった魔力」

「でるよな、当然」


 峰屋みのりも泥舟も真っ青になった。


「あの、迷宮のレベルアップって……」

「魔力を吸い込んでなるものだぞ」

「わ、私たち、魔物になってるの?」

「そうだよ」

「「えっ」」


 二人は俺を見た。


「多分迷宮のレベルアップというのは、体の中に魔力を溜めて、それが肉体を改造して現れるから、言ってみれば魔物化だな」

「こここここ、心も魔物になってしまうの? どうしよう、わたし」

「迷宮のレベルアップは最終的に人間を悪魔にする、そういう事なのか」

「いや、異世界はレベルアップあるのに、別に普通の世界みたいだから、人格に魔力での変質の影響は無いんじゃないかな」


 二人は俺の言葉であからさまに、ほっとしていた。


「結局、鏡子さんは復讐者リベンジャーになったんだね」

「大分、今の私に近づいてきたな」


 ディスプレイの中の鏡子はレイパーを次々と血祭りに上げていた。

 どうやら、右谷の情報をどんどん蓄積しているようだ。


「この右谷って、誰だろう、なんか聞いた事があるような」

「ググってみよう」


 Dスマホでググってみたら、ウイッキでダンジョンテロリストと出た。

 三年前ほど前に、ダンジョンに立てこもり、Dチューバーの無法王国を建国しようとしたと、出た。

 二年前に九階に作った根城が何者かに襲撃され、行方不明、となった。


「知らないなあ、誰だ右谷」


 動画の中の鏡子はどんどんと腕を上げ、右谷の根城に近づいて来たようだ。


 そして、彼女は九階の右谷の根城に殴り込んだ。

 両手には今も腰に下げているブラスナックルが光る。

 もの凄い勢いで無双し、死体を積み上げていく。


 凄いな、今の鏡子さんに近づいている。


 ボロボロになりながら、血だるまになりながら、鏡子は右谷の居る玉座の間に入った。


『ああ、すげえ、すげえ女だ、どうだ、俺と王国を作らないか、俺はお前が欲しい』

『だまれ、死ね』


「よし、良いぞ、そうでないと」

「戦闘前に喋るのは嫌いなのね」

「言葉なんか無駄だからな」


 迷宮の無頼者の王である右谷は強かった。

 凄まじいレベル、レア武技スキル、そしてレア武器。

 無頼者に貢がせて、奴は迷宮の王になりつつあったんだ。


 鏡子は苦戦していた。

 もう一撃で死ぬ、という時、鏡子の様子が変わった。


 吠え声を上げた。

 鏡子の目が赤く光り体がぼこりと膨れ上がった。


「ああ、アレはここで生えたか」

「スキル?」

「みたいだ、なんか凄く強くなれる」


 かーちゃんは【狂化】バーサークって言ってたな。


『貴様、貴様、なんだっ、そのスキルはっ!! よこせっ!! それは俺に必要なスキルだ!!』


 鏡子は答えない。

 獣のように吠えながらもの凄い速度で右谷に攻撃を加えていく。

 右谷のレア武器らしい大剣が折れた。

 右谷の腕が折れた。

 右谷は悲鳴を上げていた。


 獣だ、獣だ、真っ赤な目で目にもとまらない速度で、無数の攻撃を右谷に加える。

 右谷は左手で鏡子の頭に剣を突き刺した。


 鏡子の動きが止まった。


『は、はっはっは。ど、どうだっ、どうだーっ!!』


「し、死んじゃうっ!! 鏡子さんが死んじゃうっ!!」

「ええ? 致命傷だぞ、これ? なんで私は生きてる?」


 鏡子さんは自分のこめかみあたりを撫でた。

 今は特に傷は無い。


 吠え声が上がった。

 画面の中の鏡子が天井を向き、凄まじい声量で吠えた。

 こめかみに突き込まれた剣から煙が上がっている。


『や、やめろ、やめろ、なんで生きてる、やめろよ、やめろよ』


 右谷は恐怖の表情を浮かべ後ずさりをする。


 鏡子は両手で右谷の頭を潰し、首を引き抜いた。


「「「……」」」

「なんで生きてるんだろう、こいつ?」

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