第43話 辛い動画を見直し始める
『こんにちは、私は服部鏡子、ピチピチの女子大生で~す♡ 今日は彼ぴの雄一君と噂のダンジョンアタックをしちゃうん、だぞ♡』
「こいつは一度締めよう」
「三年前のあんたじゃないですか、鏡子さんっ」
「なんだこいつキャピキャピしやがってっ」
泥舟が鏡子さんのアーカイブを見つけ、最古の動画を再生すると、そこにはピチピチの女子大生さんがいた。
といってもなんか無理して作っている感じで、時々顔が引きつっている。
『鏡子、作りすぎだよ』
『えー、みんな、こういうのが良いんじゃ無いの?』
よかった素に戻った。
「なんか、自分という感じがしない」
「俺も鏡子さんだとは思えないけど、顔は一緒だね。体は華奢な感じ」
「良い大学に行ってるなあ。頭も良さそう」
「馬鹿だこいつは、死ね」
「まあまあ、鏡子さん」
峰屋みのりが鏡子さんをたしなめた。
動画の中では大学生バカップルが狩りをしたりイチャイチャしたりしていた。
「なんだそのへっぴり腰は、剣に振られているぞ雄一。鏡子ももっと狙って弓を放て」
「ま、まあまあ、初心者の狩り動画だから」
鏡子さんは自分に厳しい。
というか、自分とは思えないんだろうなあ。
のどかな三階平原で、カップルが楽しく過ごしている。
なんだか遠い夢のような光景で、この風景に今の鏡子さんが繋がっているようにはとても思えない。
「飛ばす?」
「そうだね、その前に、峰屋、ここからキツイ動画が出てくるかもしれないけど、見ない方が良くないか」
「え、だ、大丈夫、その、昨日みたいな人達が来るんでしょ」
「そうだな、俺が見てやんわりと教えてやるけど、それで良く無いか」
別にちゃんと動画を見なくてもさ。
「鏡子さんに何があったか気になるから見るっ! ちゃんと見ないと、だって、昨日、タカシ君たちが居なかったらそうなってたかもしれない現実なんでしょ」
「そりゃそうだけどさ」
「無理しないでね、峰屋さん。キツくなったら言ってね止めるから」
「うんっ」
「早く続きをみよう」
鏡子さん、あなた、空気を読みなさいですよ。
何本ものどかな狩りの動画が続く。
画面の中の雄一と鏡子もだんだん狩りに慣れて来て上手くなってきた。
そしてそれは五階に彼らが下りた時に起こった。
「後ろにレイパーがいるな」
「ん? あ、本当だ」
鏡子さんの指摘で動画の隅に雄一と鏡子をうかがっているレイパーが見えた。
動画にも【気配察知】が少し乗るな、画面に二人、画面外に二人いるな。
「ええっ、逃げてー、逃げてー」
「この二人の練度では無理だ」
鏡子さんが冷たく言い放った。
『へへ、お二人さん、お熱いねえ』
『あ、どうも』
『……』
「くそっ、先手を打てっ! 殺気がバリバリだぞ、後ろだ」
鏡子さんも【気配察知】持ちなのかな、画面外で後ろから忍び寄る二人のレイパーを感知しているようだ。
『ぎゃあああっ!!』
『きゃああっ!! 雄一!!』
雄一が斬られて倒れ、鏡子が悲鳴を上げた所で画面が暗転した。
『この後の動画にはセンシティブな内容が含まれます。再生したい場合はゴールド会員以上の資格を取得するか、スポット課金をお試しください』
ちなみにセンシティブチェックは三段階に別れ、全てをノーカットで見る事ができるプラチナ会員の月額料金は二万円だ。
「馬鹿が、迷宮で油断する奴があるか」
「「「……」」」
泥舟がシークバーをクリックして暗転部分が終わる場所をクリックした。
下半身が裸になった鏡子が泣いている。
『おねがいです、雄一を神殿まで運んで、いまなら蘇生できます、私たちの家は裕福なんです、おねがいっ!!』
画面外でどかっという音がした。
『あはは、遺体が損壊するとどうなるか知ってるかー、蘇生の可能性が少なくなるんだよー』
『やめてーっ!! やめてーっ!!』
『うちは裕福ってか、ああ、そういう奴はこらしめねえとなあっ!! お前は一生右谷さん所で奴隷にして飼ってやんよ、ぎゃははっ』
画面の中で鏡子は悲鳴を上げ続ける。
峰屋みのりが口を押さえてキッチンに走り込んだ。
嘔吐の音が聞こえる。
「だから言ったのに」
真っ青な顔の峰屋みのりが帰って来た。
「見る」
「やめとけ」
「見るったら見る~~!」
彼女はぼろぼろと大粒の涙を流した。
鏡子さんは近づいて来た彼女を抱きしめた。
「あんなのって、無いよ……」
「大丈夫だから、泣くな、みのりが泣くと私も悲しくなる」
「うん、うんっ」
そう言いつつも峰屋みのりは鏡子さんに抱きついて泣いた。
ズシン。
『な、揺れ?』
『え、ちょっとまてや、なんだ?』
動画の中の時刻は夜になっていた。
真っ黒な森の中、何か巨大な物が動いている。
「うん? 画面外に、何か……?」
「え、でかくね?」
「あっ!! この日は、ゆかにゃん丸焦げ事件のあった日かっ!!」
パタタタタと軽い銃器の音がする。
曳光弾が何発も打ち込まれて、それは巨大な顎を開いた。
「ドラゴン!!」
深い森の闇を切り裂いて深紅のドラゴンが火を放った。
地対地ミサイル弾が何発も着弾するが、竜は意にも介さない。
轟々と竜は偽りの天に向け咆吼を放つ。
鏡子のいるあたりもビリビリと震えた。
『く、くっそ、なんだこれっ』
『ちょ、聞いてねえぞ、こんな魔物!』
画面の中の鏡子は呆然とした表情で竜を見上げていた。
「ああ、竜の姿だけは覚えている、この時なのか」
「すごい……、ドラゴン、綺麗……」
圧倒的な質量だった。
闇に沈む深紅の鱗がギラギラと光った。
人の手では倒す事の出来ない存在がそこにはいた。
何より、禍々しいほど、竜は美しかった。
「あ、自衛隊がっ、逃げろ馬鹿っ!」
鏡子さんが、三年前の画面の鏡子に怒鳴った。
画面の端から火を吹いて接近する地対地ミサイルの弾頭が見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます