第45話 狂子は森に帰る
画面の中では鏡子がぼんやりと突っ立っていた。
こめかみに刺さった剣からもうもうと治療の煙が巻き上がっている。
目が赤く光る。
「不死身なのか、こいつ」
「【不死身】とか【不死】スキルは確認されてませんね」
そんなレア中のレアが存在するのか?
ぐらぐらと変な動きで鏡子は頭に刺さった剣の柄を掴んだ。
「あ、やめっ!」
「うわっ」
バキリと剣を折った。
抜けば良いのに折ってしまった。
鏡子はうつろな赤い目で笑う、笑う、笑う。
ぐらぐらと揺れながら歩き始めた。
『右谷さんの
生き残りの冒険配信者が三人、鏡子に斬りかかった。
獣のような動きで一瞬で三人の命が刈り取られた。
「すごい強い状態のまま動いているな」
「
「あ、やっぱり
「
「なんだ?」
鏡子さんまで聞くなよ。
「ゲームとかWEB小説とかでたまに出てくる能力で、正気を失うかわりに爆発的な身体能力を得て戦える力だね」
「すごい、便利ね」
「いや」
「いや」
俺と泥舟がハモった。
「凄い力なんだけど、その現場にいるものが動かなくなるまで止まらない、敵でも味方でも関係なく攻撃するんだ」
「えええええ」
「そういうスキルだったのか」
いや、持ってる本人が言うなよ、鏡子さん。
動画の中では赤い目をした鏡子がふらふらと右谷の拠点を出る所だった。
どこに行くのだろうか。
彼女は出会う魔物を瞬殺しながらゆっくりと歩く。
階層を越えて、五階まで上がってきた。
結局、彼女は森の奥で倒れ込んだ。
傷口から煙が上がっているから生きてはいるようだ。
「ここから最新までずっと繋がってるね」
「どれくらい?」
「二年半……」
泥舟はマウスを操って、動画の先に移動した。
「まだこめかみに傷はあるけど、煙が止まっているね」
「狩猟をして、ねぐらを作っているな」
五階の森の中に狂子の住処が生まれた。
オークを狩り、オークハムを食べ、ゴブリンを狩り、ゴブリンカレーをパンの実にかけて食べる。
服がどんどんボロボロになって脱げていった。
狩りをし、飯を食べ、レイパー冒険配信者がいれば、行って殺した。
そんな毎日が終わる事もなく続く。
助けた女性配信冒険者に感謝されて、お礼に食べ物を貰ったり、お金をもらってりした。
「あーあ、お金投げ捨てた」
「食べれないからな」
「なんだか、平和な生活のような気もするね」
ある意味、それは幸せな生活なんだろう。
考える事も無く、狩りをして、森の住処で寝る。
完全な自由な生活だ。
泥舟が、俺と狂子が初めて会った所を探して出してくれた。
「わっ、タカシくん、幼い、かわいー」
「中学生ぐらいかな」
「五階をうろうろしていた頃だな」
幼い俺は森を警戒しながら歩いていた。
狂子は木の枝の反動を使って近くの木に飛び移った。
『だ、誰?』
『きょ、きょーこ』
『きょーこさん?』
『そうそう』
二人は対面した。
狂子は笑っているような気もする。
『はむ、くえ』
狂子は持っていたオークハムを俺に投げわたした。
『あ、ありがとう』
狂子は黙ってうなずくと木々を伝って森の奥に消えた。
あの時の事ははっきりと覚えている。
半裸の女性が森から現れてハムをくれたんだ。
最初は魔物だと思っていた。
安全地帯で食べたハムが美味かったのを思い出す。
「だいたいこんな所かな」
泥舟の言葉でみな、魅入っていたノートパソコンの画面から顔を上げた。
「なるほど、それで、みのりがこの状態から私を引っ張り出してくれたわけか」
「うん、やって良かった」
「助かったよ」
俺と泥舟の視線が合った。
「鏡子さんの脳にさ」
「ああ、剣の破片がまだ残ってるな」
「どうしよう、病院に行くかな」
「まず専門家に見て貰おう」
俺は玄関に視点を置いた。
「オカン乱入」
狙い違わず、丁度玄関にかーちゃんが現れた。
「お、おおっ、せや、これでええんやタカシ」
かーちゃんは満面の笑みでブーツを脱いで入ってきた。
「かーちゃん」
鏡子さんが満面の笑みでかーちゃんを迎えた。
彼女はかーちゃんが好きみたいだな。
「お、あんたもいるな、ヘビ柄のツナギかっこええなあ」
「いいだろ、みのりに買って貰った」
「まあ、ええセンスやね、みのりちゃん」
「まあいやですわあ、おかあさま」
いかん、ほっとくと女性特有の挨拶で三分消費してしまうぞ。
俺は手短にかーちゃんに鏡子さんの現状を伝えた。
「そうか、頭に剣の破片がはいっとるかもしれへんのか。それは難儀やな。『我が神の恩寵によって、障害の姿をあらわにしたまえ』」
かーちゃんが詠唱すると手に光りが集まり、それを鏡子さんの頭にやさしく当てた。
「あー、あるわ、危ないなあ」
「かーちゃんの魔法で治せない?」
「んー、ちと【ハイヒール】では足らんなあ。エクスクラスの呪文かポーションが必要やで」
そうなのか、脳に剣の破片が入ったままだと危ないし、たぶんそれが記憶障害を起こしている原因だと思うんだけど。
峰屋みのりが鞄の中から
「あ、あの、おかあさま、【威力増幅の歌】を掛けても駄目ですか」
そうか、
冴えてるな、峰屋みのり。
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