第40話 霧積はまたやらかす

 ポータル広場の方が騒がしくなった。

 振り返って見ると東海林が僧侶の子を背負ってポータルから出て来てがっくりと膝をついた。


「売店でポーションを買ってくる」

「だめだ、こんなクズ僧侶にもったいねえっ」

「何言ってるのっ、涼子死んじゃうわよっ!!」

「うるせえっ! パーティを癒やす奴が真っ先にやられてどうすんだっ!!」


 霧積パーティが下でやられたらしい、東海林や他のメンバーもあちこち傷がある。

 僧侶の子はぐったりして動かない。

 血がボタボタ床にこぼれ落ちていた。


『なにがあった? 虹超えオーバーザレインボー

『十二階進行中、オーク五体に遭遇、キスミーが無双していたら、オーガー一体がバックアタック、僧侶の子が吹っ飛ばされた』

『良く生きていたなあ』

『東海林の判断が良かった。やっぱ東海林良いわ』


 俺はかーちゃんを呼ぶ事にした。

 スキルを宣言しようとする瞬間、峰屋みのりが駆けだしていた。


「『さあ目を開けて傷を癒やそうよ~~♪ 頑張った君の勇気を力に変える~~♪ 治れ治れ治るんだ~~♪』」


 駆けながら峰屋みのりは【回復の歌】を歌う。

 

「オカン乱入」


 かーちゃんも呼んでおこう。


 光の柱からかーちゃんが出て来た。


「なになに、どうしたのタカシ」

「東海林のパーティが遭難したんだ、怪我人が出てる」

「そりゃあかんっ、行くでタカシっ!」


 俺はかーちゃんと一緒に峰屋みのりを追う。

 後ろから泥舟と鏡子さんも付いて来た。


「峰屋さんっ、助かるっ!」


 東海林の感謝に峰屋みのりはうなずいて【回復の歌】を歌い続ける。


『ぎゃー、【回復の歌】範囲広いなあ』

『オカンも来た! これで勝つる!!』

『タカシパーティなにげに回復が手厚いな』


「うちに見せてんかっ、うん『我が女神に願いて、ここに請願せいがんす、わが友の傷を癒やしたまえ』」


 傷口に当てた、かーちゃんの手が光り出し、僧侶の子の顔色が目に見えて良くなった。


「タカシのおかあさん、ありがとうっ」

「なんや、あんたタカシの友達か、賢そうなメガネ君やな」

「わあ、やっぱりおかあさまの回復魔法すごいですう」

「なんや、みのりちゃん、ちゃんと『吟遊詩人』バードさんになれたんやなあ、かわいいで」

「ありがとうございますう」


『どうでもいいが、みのりんの背中のリュートが寂しそう』

『レア装備なのになあ』

『な、なったばっかりだから、これからだから、みのりんのリュート人生は』


 峰屋みのりの【回復の歌】とかーちゃんの回復魔法で『オーバーザレインボー』のメンバーの傷は癒えたようだ。


「東海林、大丈夫か?」

「僕は大丈夫だ、藍田さんも大丈夫そう」

「よかった~、涼子、涼子~~」


 女シーフさんが抱きついて泣くと、僧侶さんは目をぱっちりと開けた。


「わたし……」

「もう大丈夫よ、タカシ君のオカンさんと峰屋さんが歌で治してくれたの」

「わたし、わたしが治療しないといけないのに……」


 僧侶さんは大粒の涙を浮かべて泣き始めた。

 かーちゃんは僧侶さんの頭をやさしく撫でた。


「しょうが無い時もあるで、魔物もよう考えるでな、回復役を先に狙うんはやつらの中でも定石やで」

「オカンさん……、ありがとう、私、あなたみたいな『僧侶』になりたい……」

「うちは『僧兵』なんやけどな……』


 かーちゃん、それは言いっこなしだ。


「おい藍田! お前のせいで狩りが台無しだ、どうしてくれんだよっ!! 足ひっぱりやがってっ!!」

「霧積、やめろっ、オーガーがバックアタックかけてきたのは藍田さんのせいじゃないぞ」

「うるせえ、だまってろ東海林!! お前も真っ先に臆病風に吹かれて撤退の指示しやがってよっ!! あれぐらいの雑魚、俺だったらなんとかなったんだっ!!」


 かーちゃんがしかめっ面を霧積に向けた。


「なんやねん、あの子」


 霧積は峰屋みのりの方を見てニヤッと笑った。


「お前、結構使えるな、よし、決めた、藍田を首にしてお前を入れてやる、光栄に思えっ」

「え、普通に嫌ですけど」

「何逆らってんだっ!! 俺はレア装備持ちだぞっ!!」


『キスミー、お前が『隼丸』でレア度1ならば、みのりんは、レアスキル、レア楽譜スコア、使って無いがレア装備で、レア度3だ、お前が格下だ』

『そうだそうだ、レア装備は使って無いが、みのりんの方が上だ』


「うるせえっ!! 俺のは剣のレア装備だっ!! 俺がこの迷宮を攻略する選ばれた存在なんだっ!! 逆らうんじゃねえよっ!!」

「きゃっ」


 霧積の剣幕に峰屋みのりが悲鳴を上げた。

 かーちゃんの背中が丸くなった。

 あ、やばい、これは手が出る前兆だ。

 いや、ここは俺が先に……。


「いいかげんにせ……」


 タンタンタンと気負いのない歩き方で鏡子さんが近づき、霧積の顔面をぶん殴った。


 ドガッ!!


「ぎゃふっ!!」


 霧積は空中を一回転してポータルの石碑に激突した。

 鏡子さんは振り返って俺を見た。


「こいつ、殺していい?」

「いや、殺すのはちょっと」

「せや、懲らしめるだけにしとき、せやけど、あんた、良いパンチしとるねえ」

「ありがとう、かーちゃん」


 かーちゃんに褒められて、鏡子さんは花のように笑った。




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