第35話 三階草原で『オーバーザレインボー』と会う

 大師線で川崎まで出て、JRの駅まで歩く。

 エスカレーターに乗り、陸橋でJRの線路をまたいで商業施設に入る。


 商業施設の中央広場に地獄門はある。


「きゃー、シンデレラマザコンボーイのタカシよーっ!!」

「生みのりん、ちっちゃ可愛いっ!!」

「デイシュー君、マジ足軽、素敵~~!!」


 俺たちが門に近づくと女子高生らしい配信冒険者がこちらに黄色い声援をなげかけてきた。

 東海林の事も忘れないであげてくれ。


「ぼ、僕は他パーティだから……」

「もう、うちに入っちゃいなさいよっ」

「峰屋無理言うな」


 地獄門をくぐる。

 すこしひやりとする。

 ほんのりとした硫黄臭。


 今日は売店には用が無いので階段で地下二階に下りる。

 レストラン街には人があまり入っていない。

 まあ、時間が外れているけどね。


「ランチとか無いのかしら」

「あんまり昼飯を食いにくる所でも無いからなあ」


 とんとんと階段を下りると三階草原だ。

 迷宮の本当の入り口だな。


 どこからか、ふよふよとカメラピクシーがやってくる。

 今日も頼んだよ、リボンちゃん。


 忘れずに東海林のマリリンに触って一時パーティ登録をすませる。


「うひょー、おかっぱちゃん、お菓子食べるお菓子」


 コメントチェッカーを起動した。


『ああ、みのりん、カメラピクシーは物食わねえから駄目だよ』

『ああ、今日も綺麗だなあみのりん、そしてデイシューは今日も足軽だ』

『足軽な所がいい』


 リスナーさんたちも元気のようだ。

 同接数がぐいぐいと上がって行く。


『リボンちゃん、おかっぱちゃんを撮して、お母さん、みのりのカメラピクシーが見たいわ』


 峰屋のお母さんも居るっぽい。

 リボンちゃんは素直に、おかっぱちゃんと峰屋みのりのツーショットを撮した。


『ありがとう、可愛いわねえ、ええとスパチャはこうするのね』


 ビロリン!


『ぬお、娘に十万スパチャしおった』

『お母さん、マジ、親馬鹿』

『まあ、おほほ、ごめんなさいね』


「もう、お母さんっ、スパチャやめてよう」

『おほほ、ごめんね』

『親も同接、高校生Dチューバーな味わい』

『タカシも無理ができんなあ』


 しねえし。


 しかし、今日は草原に人が多いな。

 あちこちでスライムと戦ったり、ねころんで休んでいたりする。


「タカシと峰屋さんの配信のせいかな」

「そうかもしれないな」


 若くて結構装備が整っていないやつらが多い。

 防具は着ろよ。


 お、ちゃんとした冒険配信者パーティも居るな、と思ってたらそいつらが寄ってきた。


「霧積……、今日は土曜日じゃないだろ」

「うちのパーティメンバーが勝手してたらよお、注意しにくるよな東海林」


 若くてきかん気そうな『戦士』ウォーリアだった。

 背に大剣を背負っている。


「……。新宮、うちのパーティ『オーバーザレインボー』のリーダーの霧積だ」

「霧積重蔵だ、よろしくな、マザコン野郎」


 なんだかけんか腰な奴だな。


「なにうちのメンバーを勝手に連れて狩りしてんだ? ちょっと同接数が多いからって舐めてんじゃねえぞ、こらっ!」


『ぐわー、キリズミキター』

『キスミーハレルヤー』

『誰こいつ』

『高校生パーティ『オーバーザレインボー』のリーダー、霧積重蔵くん。Dちゃんの問題Dチューバーさらしスレの常連』


「うるっせえよ、てめえらっ!!」


 霧積は手首のコメントチェッカーに怒鳴った。

 リスナーと喧嘩するのかよ。


『このようにリスナーと喧嘩するし、メンバーへの扱いが酷いので、せっかくのレア魔剣持ちなのに、同接数がどんどん減っている哀れなDチューバーなんだ』

『まあ、いけませんわねえ』


 峰屋ママ、黙ってて。

 まあ、霧積側のコメントウインドウには出て無いけどね。


「クソネタスキルと媚び売りバードで愚民どものPVを稼ぎやがって、そんなくだらねえパーティに東海林は貸せねえ、返してもらうぞっ」


 俺は東海林を見た。

 やつは手刀を切って、すまんと頭を下げていた。


「東海林には助けて貰った、ありがとう」

「べっ、くそ底辺配信者がつけあがるなよっ、お前なんかすぐ死んじまうだからなっ、迷宮舐めんじゃねえぞ、クソがっ!」


『あらー、キリズミがタカシに嫉妬したかあ、同接数が何百倍も違うしなあ』

『なんだー、このイキリ虫?』

『あれだよ、十階でレア装備箱出して、魔剣ひろっちまったから自分がいっぱしとか勘違いしてんだよ』

『てめえこそ、タカシ舐めんなっ、悔しかったら毎日ソロで五階から十階マラソンしろよ』


「うるせえっ、黙ってろ、愚民リスナーどもっ!! タカシのリスナーなんてこの程度の奴らだよなっ!」


 キリズミは、俺のコメントチェッカーのコメントを見てののしり始めた。


「おいっ、東海林行くぞ、今日中に十五階抜けるっ」

「今からか、僕は装備もちゃんとしてないんだが」

「ああっ? 使えねえなっ、そのまま付いてこい、どうせお前の魔法なんか刺身のツマだしなっ」

「ちょっと、みっともないんだけど……」


 たまりかねてメンバーの女子が霧積に声を掛けた。


「うるせえっ、ブスシーフっ、口答えすんなっ!!」


 シーフの女の子は口をつぐんだ。


 戦士の霧積、魔術師の東海林、シーフの子、サブ戦士、僧侶女子と、なかなかバランスは良いんだけど、リーダーが問題大ありだな。


「霧積、他のパーティに酷い事を言うのはやめようよ」

「うるせえっ、おまえらは俺の魔剣に寄生してるだけだから意見すんなっ、俺はもっともっと上に行くんだからなっ」


 東海林が俺たちを振り返った。


「悪い新宮、そういう訳だから、今日は抜けるな」

「あ、ああ、がんばれよ」

「本当にごめんな、峰屋さんも、泥舟君も」

「いいよ、大丈夫」

「東海林君、がんばってね」

「行くぞっ!! ぐずぐずすんなっ!!」


 霧積が怒鳴って『オーバーザレインボー』は上り階段をあがっていった。


 微妙な雰囲気が俺たちに漂った。


「東海林君を引き抜きしてあげるべき」

「い、いやそれは……」


 東海林に頼まれた訳ではないからなあ。


『迷宮冒険者パーティも色々なのねえ』


 峰屋ママのとぼけたコメントが流れて消えた。

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