第34話 放課後にうろうろと準備する

 あっというまに放課後である。


「ねえねえ、今日も一狩りいこうよ~」

「峰屋はそれを言いたいだけだろ」

「ばれたか、またタカシくんの部屋の前で待ち合わせでいいかな」

「いくない」

「いくない」


 俺と東海林が唱和した。


「なんでよ」

「また毒Dチューバーが襲って来たらやばい、俺の部屋で泥舟と東海林が合流してから家まで迎えにいく」

「えー、いいのー、ちょっと嬉しいけど」

「登校はどうしてるの? 峰屋さん」

「今日はお父さんが車で送ってくれた~」

「お嬢」

「お嬢がいる」


 だが、その方が安心だな。


『吟遊詩人』バードがもうちょっと世界に増えるまでの辛抱だ、もう大分増えたけどな」

「アラブで『吟遊詩人』バードのレアスキル覚えてる歌手が沢山バードになってくやしいい」

「先に歌手にレアスキルをおぼえさせていたやつか」

「アラブの『吟遊詩人』バードさん色っぽくて勝てる気がしないよ」

「ジャパニーズはアイドルバードばっかりだな」

「一人演歌バード生まれたらしいぞ」

「それは渋い」


 俺たちは教室を出た。


「タカシ~~」


 泥舟がやってきた。


「今日は俺の部屋で合流して、その後峰屋を迎えに行って迷宮に行く」

「あ、なるほど、まだ危ないからね」

「なんだか窮屈でこまっちゃうわ」

「峰屋さんももうちょっと強くならないとね」

「魔法も覚えた方がいいかしら」

「魔法は詠唱時間がねえ」


 とっさに使える物理武器が気楽なのだが、弓を装備して歩くと捕まるしな。


「呪歌を沢山覚えた方が早いと思うよ」

「そっかー、歌はすぐ効果出るもんね」


 【お願いの歌】や【見えない姿の歌】など逃走に使えそうな歌は結構ある。

 精神操作系の歌は結構強力だし、歌っている『吟遊詩人』バードには作用しないからそれも手だな。


「今日は何の曲を覚えていこうかなあ」

「一日二曲縛りは意外にきついな」

「でも、最近『吟遊詩人』バードに転職した子は楽譜スコア無くて困ってるらしいよ、全曲持っている私は幸せ者だよ」


 俺たちはしゃべりながら下駄箱で靴を履き替え昇降口を出た。

 校門の外には白いベンツが待っていて峰屋みのりが近づくとドアが開かれた。


「そいじゃ、また後で~~」

「ああ」

「また」

「また後で」


 俺たち三人はお嬢の乗った白いベンツを見送った。


「うーん、峰屋さんは危うい感じだね」

「悪者が出たら【スロウバラード】で大体逃げられるとは思うけどな」

「心配だ、僕も強くならねば」


 俺たちは通学路を歩き始める。

 こういう感じもしばらくぶりだな。

 友達と喋りながら下校する。

 悪く無い。


 俺のマンションの前で二人と別れた。

 準備が出来たら部屋に来るそうだ。


 マンションの中に入り、三階までエレベーターを使って部屋に入った。


 今日もそれほどの準備は必要が無いな。

 学ランから冒険服に着替えた。

 まあ、頑丈なジャージなんだけどね。

 ウエストポーチに水筒を入れ、バックラーと片手剣を腰に吊した。

 行動食を途中のコンビニで買わないと。


 浅い階に潜るのはわりと気楽だ。

 忘れ物をしても、一度地獄門から出て近くの冒険屋に行けばなんでも買える。

 五階を超えなきゃどうという事は無い。


 しばらくは四階五階で泥舟と峰屋みのりのレベルアップを手伝う感じだな。

 泥舟が『戦士』ウォーリア職業ジョブチェンジしたら10階のフロアボスにチャレンジする。


 『戦士』ウォーリアクラスは物理攻撃で戦う職業の基本だ。

 剣でも槍でも拳でも、最初は『戦士』ウォーリアから始める。

 HPと力と防御力のステータスが上がりやすい。

 パーティの前衛として戦い、時間を稼いで後衛の攻撃チャンスを作る仕事だ。


 そんな事を考えながら窓から外を見ていると、泥舟が歩いてくるのが見えた。

 あれだ、和服を着てるから完全に足軽化してるな。

 すごく目立つなあ。


 ほどなくして泥舟が部屋に上がって来た。


「なんで上で笑ってるんだよ」

「いやごめん、足軽だなあって思って」

「僕は地味だから特徴付けるのに必死なんだよ」


 そんなに地味では無いと思うけどね。

 イケメンだし。


 東海林もやってきた。


「おまたせー」

「ところで東海林はなんで普段着なんだ?」

「ローブとかで電車に乗るのはやだよ」

「杖は?」

「重いし」

「まあ、五階までだからいいか」

「さすがに十階越えたら正装するけどね」

「そうなのか」


 みんなで連れだって峰屋みのりの家まで歩いた。


「おっまたせーっ」


 『吟遊詩人』バード姿の峰屋みのりが出て来た。

 胸には誇らしげに青い羽根が輝いている。


「記念に青い羽根を付ける事にしましたっ」

「良く似合ってますよ、峰屋さん」

「可愛いねえ」

「いいな」


 俺たちの賞賛の言葉に峰屋みのりはにっぱりと笑った。


「みのり、がんばってね、タカシ君、泥舟君、東海林君、みのりをおねがいね」

「はい、任せてください」

「配信みてますからねっ」


 俺たちは峰屋のおばさんに手を振って歩き始めた。


 駅のキオスクで行動食を買った。


「わっ、オヤツ? オヤツ? 五百円まで?」

「遠足じゃない。行動食だよ。シャリバテしないように」

「へー、何を買えばいいの?」

「チョコとか、ナッツバーとか、スニッカーズとかもいいな」

「太りそうなんですけどっ!」

「冒険中は結構動くからカロリー消費するよ、大丈夫」

「ええっ♡」


 峰屋みのりは喜び勇んで色々買っていた。

 あまり買うと荷物になるんだが。

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