第四章 狂子

第33話 学校に行くとさらにさらに騒ぎが大きくなっていた

「タカシくんっ!! 配信見た? もう昨日の事が公式まとめで出てたよっ!!」


 クラスに入るともの凄い綺麗になった峰屋みのりがデデデと走り寄ってきた。


「もうか、すばやいな」

「すげえんだぜ、また「六本腕」師匠でPVがグングン伸びてるぜ」

「新宮、おまえすげえよなあっ」


 また六本腕師匠か。

 スマホを取り出してチェックすると、また登録が早朝四時頃だ。

 うわ、ダンジョンの動画編集室はブラックだな。

 師匠、おせわをかけます。


 今日は峰屋みのりに女子がたかりまくってわっしょいわっしょいされていた。

 まあ超絶綺麗になったし、声も綺麗になったしな。


「おはよう東海林」

「おはよう新宮、かなり配信料が入ったよ、ありがとうな」

「気にするな」


 東海林は律儀だな。


「みのり、何か歌って歌って~」

「じゃあ、【元気の歌】~~『きょうはいいてんき~~♪ おひさまわらってぴっかりこ~~♪』」


 峰屋みのりの綺麗な歌声が響くと、体の奥から活力が湧いてくる感じがした。


「すごーい」

「良い声~~」

『吟遊詩人』バードいいなあ~~」


 クラスカースト【不良・柄悪い】の女が二人、俺の前に立った。


「おい新宮、あたいらも迷宮連れて行ってくれよ」

「峰屋ばっかりずりいぞ」

「めんどくせえから勘弁してくれ、土日に三階で知り合いの爺さんが初心者講座を無料でやってるから受けるんだな」

「なんだとてめーっ、陰キャの分際で逆らうってのか」

「ふざけんじゃねえぞ、ああんっ」


 まったくガラが悪いな。


「タカシ~~!! あとみのりんっ~~!! 俺のパーティに入ってくれやあっ!!」


 後醍醐先輩が不良女ふたりを突き飛ばして俺の席の前に来た。


「てめっ、いてえ……、後醍醐先輩……」

「ち、ちーっす」

「ああ、おまえら俺の舎弟のタカシになに因縁つけてんだっ、こらっ」

「す、すんませんっ」

「せ、先輩の舎弟さんだったんですか、タカシさん」


 舎弟になった覚えは無いが、正直助かった。

 不良は後先考え無いからな。


「みのりんも来いや、こら……、うおっ、すんげえマブくなってね? おまえ」

『吟遊詩人』バードの影響ですよ、後醍醐先輩っ」

「お、おうっ、いま俺の胸がキュンとした、狭心症かもしれねえ」

「違うと思いますよ」


 東海林が冷静に突っ込んだ。


「なあ、頼むよ、助けると思って、タカシとみのりん、俺のパーティに入ってくれよ」

「泥舟くん一人になっちゃうじゃないですか、駄目ですよ」

「あー、槍使いかあ、俺の所、今四人だからなあ、二枚欲しいんだ、前衛と支援役」

「先輩のパーティって戦士ばっかり?」

「ちげえ、戦士が一枚、射手が一枚、盗賊が一枚、僧侶が一枚だ」


 おお、僧侶がいるのか。

 なかなかのバランスだな。

 盗賊がいるのも良い感じだ。

 確かに俺が入って戦士二枚、『吟遊詩人』バード一枚になると安定感があるな。


「後醍醐先輩が戦士なんだ~、重戦士なの?」

「ばっか、俺は僧侶だ、俺は寺生まれだからな」

「「「僧侶?!」」」


 後醍醐先輩は僧侶には見えねえ~~~!

 これは意外だった。

 しかも寺生まれ、寺生まれのGさんで、はあっと叫んで怪光線を出しそうだ。


「おまたせしたわね~~♪」


 後ろの戸が開いて北村チヨリ先輩が踊りながら入って来た。


「世界三十番目の『吟遊詩人』バード、北村チヨリとは、私の事よ~~♪」

「げ、チヨリまでマブくなってやがる、おっ、やべえ俺の心臓がまた狭心症を」

「それは恋なのよ~~♪ このクソ野蛮人~~♪」


 踊りながらチヨリ先輩は入って来て、俺の席の近くまで来て、後醍醐先輩の尻を蹴った。

 ああ、綺麗なんだけど、目の下にクマがあって、目が真っ赤だ。


「いってえな何すんだチヨリっ!!」

「徹夜で四階で鳥撃ちしてたら死にそうなの、『ヒール』かけてよ」

「ったく、しょうがねえなあ『神に乞う、その光で、わが友の傷を癒やしたまえ』」


 後醍醐先輩の手が光ってチヨリ先輩の目の下のクマが一瞬で無くなった。

 かーちゃんと詠唱の言葉が違うな。

 下位の回復魔法なのかな?


「ありがと、後醍醐」

「ったく、体を大事にしやがれっ」


 なにげに後醍醐先輩は良い人だな。


「青い羽根取れました?」

「すんごい時間が掛かって取れたけど、朝のニュースで羽ならなんでも良いって聞いてアイドル仲間と脱力しちゃったわ」

「それはご愁傷さまで」

「でも、早めに動いたお陰でコモン楽譜スコアが大体揃えられたわ」


 チヨリ先輩はこほんと咳払いをした。


「『おねがいおねがい、おねがいよ~~♪ わたしの願いを叶えてよ~~♪』みのりんとタカシくん、うちの事務所に入って」


 あ、そうだな、入って良いかもしれない。

 やっぱりチヨリ先輩のお願いを聞いてあげないとな……。


「『きょうはいいてんき~~♪ おひさまわらってぴっかりこ~~♪』」


 峰屋みのりの【元気の歌】を聴いた瞬間、俺は我に返った。

 俺は何を考えていたんだ。

 呪歌か、チヨリ先輩が呪歌を使って、峰屋みのりが【元気の歌】で上書きしたのかっ!


「【お願いの歌】で強制するのはズルいと思いますっ」

「くっ、呪歌効果は上書きされちゃうのねっ!」

「良いですよ~~、チヨリ先輩~~。史上初の『吟遊詩人』バードによる歌合戦しましょうか~~」

「くっ、【スロウバラード】が強そうだわっ」


 あ、先生が来た。


「おう、おまえら席につけ~、後醍醐に北村、おまえらは自分のクラスにもどれ」

「お、おう」

「はーい」


 よかった、史上初の『吟遊詩人』バード歌合戦は回避された模様だ。




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