第36話 レア酔いという現象

 レア装備、レア呪文(スコア)、レアスキル、これらは全配信冒険者が手に入れたいと心から願う物なんだが、手には入ったら手に入ったで色々な面倒が起こる。


 他の人からの僻み妬みなどもそうなのだが、もっとヤバイのが『レア酔い』だ。


 光輝く黄金色のレア宝箱からレア物を手に入れると、多かれ少なかれ人はレアに酔う、自分が選ばれた存在ではないか、自分が世界を手に入れられるんじゃないかという妙な確信だ。

 俺は【オカン乱入】がネタスキルだと思っていたからそうでもないが、これが【剣聖の才能】(全ての剣型武器の熟練操作)や、【賢者の資格】(全魔法の効果上昇)なんかの特級レアスキルだったら、簡単に舞い上がる自信がある。



 『オーバーザレインボー』の霧積重蔵にも同じ事が起こった。


 特級レア装備【隼丸】ハヤブサマルをレア装備箱から出してしまったからだ。

 この魔剣は一挙動で二回敵に攻撃があたる、しかも斬撃には魔法が付与されていて威力も馬鹿でかい。

 最終局面まで使えるだろうと言われている武器だ。

 高校生が思い上がるな、と言っても無理があるだろう。


「そうなんだ、僕も気を付けないと。レア槍欲しいけどね」

「私、あんまりレア酔い……、してないかな?」

「金で買ったレアはあんまり酔わないと言うね」

「なんで買ったレアスキルだとレア酔いしないの?」

「運で手に入れた物じゃないかららしい」

「ふーん」


 まあ、峰屋みのりは生まれつきレアスキル【豪運】を持ってそうだから余計に酔わないのでは、と、思ったが黙っていた。


 今現在は草原から一階下って四階に来た。

 カピバラを峰屋みのりと泥舟が蹴散らしている所だ。

 素早く動くカビパラを峰屋みのりが【スロウバラード】で足止めして、泥舟が槍で刺すだけの楽な狩りである。


「すっごい楽だよ、峰屋さん」

「安全安心の狩り~~。『きょうはいいてんき~~♪ おひさまわらってぴっかりこ~~♪』」


 時々峰屋みのりは【元気の歌】を挟み込んで活力回復をしてくれる。


『ものすげえ、作業狩りだ』

『【スロウバラード】チート過ぎ。カピバラがスライム以下になってる』

『そして何か出る。みのりん凄すぎ』

『【豪運】あるよなあ』


 カピバラから、ポーションとカピバラチーズが出た。


「食料品も結構でるのね。美味しいのこれ?」

「まあまあ、食えなくは無い」

「そうなんだ」

「迷宮内で自活出来そうだね」

「している奴、いるよ」

「「いるんだっ!!」」


 四階にも何人か居るし、五階にも一人居る。

 人間社会が嫌になって世捨て人になって迷宮に住むと言われている。

 本当かどうかは聞いた事が無いので知らない。


「主食はどうしてるの、お米とか出るの?」

「お米は出ないな、パンはほら、あそこにパンの木がある」

「「パンの木!!」」

「美味しい?」

「生麩をかじっているような味がする、というか味が無い」

「そうなんだ」


 泥舟が一個、パンの実をもぎ取って口に入れた。


「あ、本当だ、虚無の味がする」


 峰屋みのりも一個もぎ取り口に入れた。


「あー、これは、あー、うん、なんか虚無」

「栄養はそれなりにあるらしい」

「主食がこれはイヤだなあ」

「あれ、でもそうすると、食糧持ち込まなくても迷宮に潜れる?」

「パンの実が生えていればな」


 フロアボスの部屋の前には、安全地帯があって、水とパンの実が生えているらしい。

 だから手ぶらでの攻略も可能だろうが、まあ、普通の食糧を担いでくるよな。

 ただ、水場が多いのは助かる。


 迷宮も浅い階は平面的なのだが、深い階になると立体的に何階もの範囲でいったりきたりする。

 一階分の攻略に一週間かかる時だってある。

 そういう時はベースキャンプを作って移動範囲を伸ばしたり、大荷物を背負って野営したりするんだ。

 深くなればなるほど、敵は強くなり、罠は嫌らしく、迷宮は過酷になっていく。


 五年の歳月を掛けて、現在の最深到達階層は七十一階、アメリカの『ホワッツマイケル』チームが記録している。

 まだまだ150階の折り返しまでも人類は到達していない。


 今主流なのは、ベースキャンプによる極地法だけど、最小限の荷物で食糧も水も現地調達して素早く突破するアルパインスタイルも有りかもしれないな。

 ダンジョンアタックは地下に向かって無限に下りていく登山に似ているな。


 ガサガサっと茂みがなって、ゴブリンが二匹顔を出した。

 泥舟と峰屋みのりに緊張が走る。

 峰屋みのりは小声で呪歌を歌い出した。


『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪』


 ゴブリンの動きが目に見えて鈍る。


「ぎ ゃ っ ぎ ゃ っ」


 泥舟が陣笠を傾けて突進し、ゴブリンの喉を一突き、引き抜いて体を開き、もう一匹の心臓を突き刺した。


「ふうっ」


 泥舟が息を吐くと、峰屋みのりの呪歌が止まり、二匹のゴブリンはドサリと倒れた。


「いやったーっ!! 楽勝っ!!」

「【スロウバラード】が便利過ぎだね、腕が鈍っちゃいそうだ」

「そんなそんな、泥舟先生てばっ」

「やめてよ、峰屋さん」


『美味え~~、『吟遊詩人』バード美味え~~』

『【スロウバラード】だけでフロアボス行けるんじゃないか?』

『ワーウルフの兄貴の面倒さはあの速度だからなあ、抵抗とかされないか?』

『どうだろうなあ、ある程度はレベル上げした方が無難』

『あ、ゴブリンカレーでた。よくドロップすんなあ』


 ゴブリンが粒子になって消えて、後には魔石と箱入りのゴブリンカレーが出ていた。


「何これ?」

「レトルトカレー」

「電子レンジで温められる奴だ、最新式」

「ゴブリンのお肉を使ってるの?」

「ええと」


 パッケージの原料名を見て見た。


「オーク肉だそうだ、あとマンドラゴラとジャガイモ」

「オーク肉なら……、いいの? かな?」


 まあ、微妙な感じだが、俺の主食はオークハムだったしな。

 ちなみにマンドラゴラは人参の味がする。


「魔界に工場があって、ゴブリンさんが作っているのかしら」

「製造は三重県の工場らしい」

「日本製なんだ」

「提携工場増えてるしなあ。dホーンとか、dパットとか」


『持って帰ってきなさいよ、今晩食べてみましょうよ』

「ええ、やだようママ」


 峰屋ママまだ見てるのか。

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