第21話 パーティ登録を試してみる

 ほどけて消滅したスライムから紫色の魔力がただよってきた。

 東海林と目配せをして、ちょっと離れる。


「え、え、どこいくの」

「あ、これ、魔力?」


 経験値である魔力の霧は近くに居る存在の中に入るので、上手に位置取りをすると初心者なんかに多めに経験値を分ける事ができるんだ。


「おおお、吸い込まれる」

「これが魔力かあ」


 紫色の薄い霧は峰屋みのりと泥舟の胸の中に吸い込まれていった。

 どうも、心臓に吸収されるらしい。

 どういう仕組みかは知らない。


「これでレベルアップ?」

「なんか変わった感じがしないよ」

「スライム一匹ではね」

「だいたい、三匹倒すと零から一レベルらしいから、あと五匹だね」

「あ、二人だから。タカシくんと東海林君はいいの?」

「俺たちはスライムの魔力だとレベルアップはしない」

「まあ厳密に言うとするけど、天文学的な数を倒さないといけないからね」

「ありがと、やさしいね二人とも」

「うん、やさしい」


 よせやい、照れくさい。

 東海林も照れてそっぽを向いた。


『タカシー、四画面をいちいち切り替えるのめんどい、パーティ登録してくれー』

「お、おう……」

「やった事が無いのか新宮」

「ずっとソロだったからな、前に何回かやったんだが」

「他人のカメラピクシーに触って『一時パーティ申請』とやる」


 東海林がリボンちゃんに触って、そう言った。


「で、お前がマリリンに触れて『一時パーティ許可』だ」


 俺はマリリンに触れた。

 なでなで、金髪がさらさらしているな。


『一時パーティ許可』

「あ、タカシくんの画面が二画面になったよ」

「カメラピクシー単位なのか」

「あくまで配信の利便性の機能だからな」

「一時パーティって事は?」

「迷宮から出たら解除される、ずっとパーティを組んでいたいときは『恒常パーティ申請』だ、これだったら迷宮に一緒に入った時は自動的にパーティとして扱われる」

「僕はタカシとずっと一緒だから、『恒常パーティ申請』だな」


 泥舟がリボンちゃんの頭を撫でながらそう言った。


『恒常パーティ許可』


 俺は三つ編みちゃんの頭を撫でながらそう言った。


「おお、今度は三分割! 私も私もやるっ」


 峰屋みのりはリボンちゃんの頭を触った。


『恒常パーティ申請』

「え、一時じゃないの」

『恒常パーティ申請』


 峰屋みのりは一歩も引かぬという表情で繰り返した。


『恒常パーティ許可』


 スマホの動画画面がめでたく四分割された。

 同接数はあまり膨らまないな。

 そうか、俺の実況を開きながら、他の実況を開いていたリスナーが多いからか。


『あんがと見やすくなったー、スワイプ出来るのはなにげにでかいのよ』

「いえいえ、楽しんでくれたら何よりですよ」


「同接数はパーティ全体で計測されて、報酬は頭割りだ。タカシ、ごっちゃんだ」

「ああ、良いよ、東海林がいて助かってるしさ」

「ああ、タカシのお客さんからのスパチャも頭割り?」

『スパチャは個別集計、デイシュー、受け取れ-』


 ビロリンとデイシューにスパチャが二百円飛んだ。


「うわっ、リンゴさん、スパチャありがとう、初スパチャだよ」

『みのりんとショージにも投げるー、受け取れ-』


 ビロリン、ビロリン。


「ぎゃー、ありがとうリンゴさん、大好きっ!」

「あ、ありがとうございます、はは、人生初スパチャだったりしますよ」

「え、東海林君一年ぐらいDチューバーやってるのに」

「高校生の狩り中継とか、あんま見てくれないんだよ」

「そっかー、こんなに見てくれるのはタカシ君のパーティだからだねえ」


 ああ、なんか、なんかな。

 子供の頃に集まって河原で遊んでいる感じだな。

 楽しい。


「あ、一角ウサギ! 倒そう倒そうっ!」

「角で突いてくるからな、気をつけろ。泥舟の後ろに付いて射かけろ」

「泥舟くん撃っちゃいそうで怖い」

「誤射しないでよ」

「が、がんばるよー」


 一角ウサギは気性は荒いけど、まあ兎だ。

 角と兎キックに気を付ければ大した相手では無い。


 峰屋みのりが放った矢で一匹。

 近づいてきた所を泥舟が槍で一撃して倒した。


「やったー、意外に当たる~」

「峰屋さん、弓矢上手いね」

「でしょでしょ」


『あーなんかほっこり動画だ』

『みのりんなにげにステータス高そうな動きをしている』

『デイシューも良い感じに動けてるな、顕在してないけど【槍術】スキルあるな』


 一角ウサギの魔石と、角が一本ドロップした。

 峰屋みのりって幸運値高いか?


「あれ、あれ、体がふくらみそう、何これ何これ」

「うん、へんな感じ」

『レベルアップきたーっ!!』

『迷宮デビューおめでとう、これで君たち二人もDチューバーの仲間入りだ』


 二人はレベルアップを果たしたようだ。

 峰屋みのりはDスマホでステータスアプリを立ち上げた。


「ぎゃー、本当に1レベルだーっ!! なんかスキル付いてるー、【魅惑】ってなーに?」

「峰屋、あまり人前でスキルの事言ったらいけない」

「まあ、初期スキルぐらいは大丈夫じゃないか。峰屋さん、レベル1に上がると、これまでの人生で積んで来た経験がスキルになって現れるんだよ」

「わ、私は【魅惑】、あざとい?」

「そうだろうな」

「僕は【槍術Lv3】って付いた」


『おおー、デイシューたん、有段者レベルのスキル~~』

『ああ、動き見てそれくらいはとれそうと思った』

『みのりん【魅惑】かあ、魅力値高いんだろうな」


 レベルが上がって、峰屋みのりが格段に可愛く見えて来た。

 スキル【魅惑】が働き始めたのと、ステータス上昇のせいだろうな。


 泥舟が槍を持ってくるりと回って突きを打った。


「なんだか、さっきより格段に良い感じに動けるんだけど」

「スキルがあると元の動きに加算されるからな」

「それは凄いな」


 レベル零の一般人から、レベル1のDチューバーとの差はもの凄く大きい。

 これから二人は10レベルを超えるまで、自分の身体能力が上がっていき、世界が広がるのを感じるだろう。


「タカシくんは、最初にどんなコモンスキルを貰ったの?」

「【我慢】」

「「「……」」」

「あ、あと【孤独耐性】だ」


『『『『『タカシ~~!!!』』』』』


 泥舟が優しい目をして俺の肩を抱いた。

 峰屋みのりが俺をハグした。

 東海林が涙を浮かべてうんうんとうなずいていた。


 うるさいっ、なんだおまえらっ!!

 お、俺は可哀想じゃないぞっ!!

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