第20話 装備を調えて迷宮を下る

 結局、峰屋みのりは女悪魔さんの店員におだてられて全身を良い装備で揃えて百万ぐらい使っていた。


「これで三十階越えるぐらいまで大丈夫ですよ」

「わあ、タカシくんを追っかけてたミノタウロスでも大丈夫?」

「う、うん大丈夫よっ」


 絶対無理だろう。

 しかし、同じシリーズの女性防具をセットで着せているから、ものすごく可愛いな。

 弓も結構良い物を買っていた。

 嫌がっていたが、短剣も買わせてベルトに差した。


「ま、まあ、防御力を上げて損はないでしょう」

「五階までなら無敵だな」

「すっごく可愛いよ峰屋さん」

「ありがとう、泥舟くん、うふふっ」


 峰屋みのりは嬉しそうだな。


 泥舟の装備も予算内で揃えた。

 とりあえず、『参入者』ビギナーの間は槍を中心で戦う感じで、盾は無し、胸当て、手甲、装甲脚絆で固めた。


「わ、意外に軽いね、動き易い」

「お客さん、良い動きね。武道やってますね」

「うん槍術を少しね」

「槍使いは強敵なのよね、凄いわ」

「そうかな、えへへ」


 泥舟が女悪魔さんにおだてられて照れていた。


 俺は盾と胸当てを買い換えた。

 五万円もした。


「新宮、お金もってんだから、もっと良い装備買えよっ」

「いやあ、なんかお金がもったい無くてさ」

「もっと大きい盾を買いなさいよ、それって鍋の蓋みたいよ」


 峰屋みのりが指摘したが、実はこのバックラーは新潟の鍋釜の金物メーカーが作っている三つの矢を握ったマークが目立つ真鍮製だ。


「大きい盾だとコモンスキルが使えなくなるからな」


 大きい盾スキルとバックラースキルは別なんだよな。


「ああ、あと、コメントチェッカーは買っておいた方がいい」

「やっぱ必要か?」

「戦闘中にスマホは見れないし、かといって無反応だとリスナーがつまらない。あと戦闘中に物知りリスナーが攻略アドバイスをくれたりするからな」

「私買おっと」

「一番安いので三千円か、そんなに高く無いね」

「しょうがない、俺も買おう」

「新宮はあれだ、貧乏性だな」

「ほっとけ」


 俺と泥舟、峰屋みのりはコメントチェッカーを買って手首に付けた。

 ボタン一発で空中にコメントを表示できて、時計表示にもなるのか。


「それじゃあ、みんなで、迷宮にレッツゴーよっ!!」


 そう言って峰屋みのりは意気揚々と階段を下りていった。


「……ここ迷宮じゃないわ」

「地下二階はレストラン街だよ」

「な、なによ、なんか騙されたわ」

「峰屋さんはいつも騙されているね」

「酷いわ泥舟くんっ、でも美味しいのかしら、ひゃっ、た、高いっ」

「迷宮の食材を使った高級料理店だよ、美味しいらしい」

「タカシ君は入った事あるの?」

「一回も無いよ」


 俺は、オークハムサンドイッチが主食だからな。


「なかなか良い感じね、今度お父さんとお母さんと来てみようっと」


 レストラン街の真ん中には、下に向かう階段がある。

 ここからが本当の迷宮の始まりだ。


「今度こそ本当の迷宮デビューよーーー、って、ええーっ!」


 階段を下まで下りると、空にはどこまでも青い空が広がり、目の前は地平線までの草原だった。


「えー、えーっ!! 迷宮、迷宮だったのに」

「三階は草原ゾーンだよ、出るのはスライムとか、一角ウサギとか」

「空、空、雲!!」

「外の時間と連動してるんだ。幻影だって言われている」

「これは……、すごいなあ」


 泥舟も目を丸くしていた。


 わりとのんびりした雰囲気で、子供冒険者とか、老人の冒険者とかが遊んだり、寝転んだりしていた。


「休日の公園?」

「最初のフロアだから、結構のんびり冒険したい人達が集まるんだ」


 どこからか、ふよふよとカメラピクシーが現れた。

 リボンちゃんも来たな。


「わ、ピクシー、可愛い、あら、あなたは私の担当?」


 峰屋みのりの問いかけに、おかっぱピクシーが小さくうなずいた。


「わああ、おかっぱちゃんって呼ぶね」


 おかっぱちゃんは喜んでいるみたいだ。


「君が僕のカメラピクシーかな」


 三つ編みのカメラピクシーが泥舟の担当のようだ。


「よろしくね三つ編みちゃん」


 東海林のカメラピクシーは金髪さんだった。


「ああ、マリリン、今日もよろしくね」


 マリリンと呼ばれたカメラピクシーはサムズアップした。

 同じカメラピクシーでも性格は色々だなあ。


 峰屋みのりはおかっぱちゃんの前でポーズを取った。


「みなさんこんにちはっ、私は駆け出しDチューバーの峰屋みのりといいますっ。今日は話題のタカシくんに付き添って貰って初めてのDダンジョンを楽しんでいますっ! よかったらブックマーク、高評価をおねがいねっ♡」


 俺はボタンを押してコメントチェッカーを立ち上げてみた。

 皆もボタンを押した。


「わああっ、同接数が上がってるーっ、みんなありがとーっ!!」

『みのりん可愛いっ、Dアイドル?』

「ちがうよう、でも目指してるんだーっ」

『いいね、タカシの友達ってのもポイント高い』


 峰屋みのりのチェッカーを覗いたら、ガンガン同接数が上がって行く。

 女の子はファンが付きやすいんだよな。


『タカシー、今日は軽装だなあ』

『うう、ぼっちのタカシにもお友達が出来たんだね~』

『メガネ以外は『参入者』ビギナーのようじゃな』

「そうだよ、槍が泥舟、俺の親友。女の子はクラスメートの峰屋みのりだよ」

『そうか、ソロでは確かにキツくなるからのう、良い事じゃ』


 俺の同接数も一気に千人ぐらいに跳ね上がった。

 これは凄いなあ。


 草原をぷよぷよとスライムが跳ねてきた。


「ふえーふえー、みのり、スライム倒しまーすっ」


『がんばれーみのりん』

『良いねえ初々しいね、初狩り中継』


 峰屋みのりは弓に矢をつがえた。


「人が居ない方に撃ちなよ」

「わ、解った」


 意外に良い感じの姿勢で峰屋みのりは弓を引き絞る。


「峰屋さん、弓やってたの」

「アーチェリーを少しね」


 峰屋みのりはふっと息を短く吐いて指を離した。

 矢はまっすぐにスライムに向かって飛び、ど真ん中に突き刺さった。


「命中よ!! やったわっ!!」

『やったか?』

『いや、やってねえ』


 スライムは刺さった矢を意に介さずぷよぷよ動いている。


「あるえ~~?」

「泥舟、スライムの中に動いているちょっと色が違う部分があるだろ」

「そこが弱点?」

コアだ、破壊するとスライムは死ぬ」

「解った、やってみる」


 泥舟は槍を背中から下ろして鞘を取った。

 足を広げ、穂先をスライムに向けてじりじりと間合いを詰めた。


『でいしゅーたん、イケメン』

『お、ちゃんとした槍の構えだ、いいな泥舟(かな?)』


 シッ。

 カッ。


 槍は正確にスライムのコアを貫いた。

 ぼろぼろと粒子になって消えて行く。


「すごいっ、泥舟くん上手いねっ!」

「ありがとう峰屋さん」


『デイシュー、うめえうめえ』

『一撃でコア撃ちは『参入者』ビギナーとは思えない』

『俺なんか最初は三十分ぐらい片手剣で叩いたぞ』


 パチンコ玉ぐらい小さい魔石と薬草が出た。


「アイテムドロップとは運がいいね」

「私、運は良いのよっ」


 なんとなく解る。

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