第22話 宝箱をさがしに行こう

 峰屋みのりと泥舟はつるんで草原をうろつきまわってスライムと一角ウサギを狩っていた。

 俺と東海林は保護者スタンスで後を付いていく。

 正直な所、迷宮三階は小学生でも冒険が出来るまったりゾーンだ。

 今も、あちこちで小学生っぽいパーティが狩りをしている。


「平和な狩りだな」

「新宮は十階のフロアボスは倒さないのか?」

「ワーウルフは素早いから、一人だと厳しい、泥舟がある程度育つのを待つ感じだ」

「オカンを呼べば良いじゃ無いか」

「かーちゃんは強いけど、頼ると四十階前で死ぬ。ソロはマジで危ないんだ」

「そうかもしれないな」


 峰屋みのりが矢を撃った。

 一角兎に当たり倒した。


「おお? なんか変なの出た?」

「なんだろうね」


 近づいて見ると、一角兎のコモンドロップの角ではなくて、瓶に入った液体だった。

 ポーションかと思ったが、色が緑色だった。


「うわ、レアドロップだな、キュアポーションだよ。すごく高く売れる」

「幾らぐらい?」

「換金所では一万円だけど、外の店舗だと十万円」

「え、どうしてなの?」

「キュアポーションは、すぐ売り切れるから」

「ほえー」

「峰屋さん、それ家に一本あると病気知らずになれるよ」

「ほんとっ!」


 病気治療系のポーションは迷宮の買い取り所と下界との値段差が激しい。

 なぜなら、現代医療で治らないような病気まで完治させてしまうからだ。

 まず、風邪を完治させる事ができる。

 コロナもだ。

 相当な重病もキュアポーション一発である。

 生活習慣病とか、不治の病とかは、ハイポーションにならないと『完治』しない。

 エリクサーともなれば、死にかけの大統領も健康体を取り戻す。


 このせいで庶民の医療費は節約できるのだが、おじさんが務めている製薬会社や、医者、病院などがバタバタつぶれている。

 なぜなら完治しちゃうからである。


 なので、傷を治すポーション系、病気を治すキュアポーション系は飛ぶように売れている。

 迷宮内の買い取り所にポーション類を売る奴はニワカと呼ばれているな。


「タカシくん、いる?」

「いらない、峰屋の家に持って帰って、両親にでもプレゼントしなよ」

「ほんと、それはうれしいなあ」


 というか、確信した、峰屋みのりは幸運値がすごく高いのだろう。

 ひょっとすると【強運】のコモンスキルを持っているかもしれない。


「宝箱、宝箱、タカシ教官、わたし、宝箱開けたい、三階に宝箱は落ちてないの?」

「落ちてはいるが、開けられないぞ」

「え、なんでよ」

「まあ、行ってみるか、わりと近いし」

「そうだな」

「???」

「ああ、占有屋かな」

「そうだ」


 いぶかしげな峰屋みのりを連れて俺は林の中に分け行った。

 この林の真ん中に円形の空き地があって、そこに宝箱がポップする。

 三階には、こういう場所が五カ所ある。


 円形の空き地では、しょぼくれた感じのオヤジが背中を丸めてスマホをいじっていた。


「なんだあ、おまえらっ、宝箱目当て……、うっ、シンデレラマザコンボーイ、タカシ!! き、きさまあっ、オカンを呼んで宝箱をゲットする気かっ!!」

「そんな事はしないよ、初心者二人つれて来たから社会見学に来ただけだよ」

「なんだ、そうか、やれやれびっくりしたよ」


 オヤジは地面に引いたレジャーシートに腰を下ろした。


「えと、宝箱の出現を待っているんですか?」

「ん、そうだよ、ここの宝箱は一日一回午前零時にポップするからそれを待ってるんだ」

「え、いや、今午後三時頃ですけど」

「峰屋さん、ここは、クランという冒険配信者のグループで交代で占有してる場所なんだよ」

「え、だって東海林くん、最初の階の宝箱だよ、大した物はでないんじゃないの?」

「でねえでねえ、銅のナイフとか、棍棒とか、ポーションとか、そんなのばっかりだぜ」

「時間の無駄……」

「そう言うなって、ごく稀にレア箱でるんだぜ」

「レア箱が出ると良いですねっ」

「この前のレア箱ではエリクサーが出てさ、クランメンバーにボーナスが出たんだよ。まあ、暇だし、つまんねえ仕事だけど、安全に稼げるからな」

「仕事なんだ」

「そういう事、俺は今日は夜まで占有して、交代して家に帰るわけよ」


 いつの間にか峰屋みのりはオヤジのレジャーシートにちんまり座って話を聞いていた。

 峰屋みのりは初対面の人との距離を詰めるのが上手いな。


「他のクランと喧嘩になったりしないんですか?」

「ここは浅い階だからなあ、五階から十階だとよく出入りがあるんだが、ここを分捕っても、そんなにはうま味ねえからさ、そういう意味でも平和なのよ」


 オヤジさんはしみじみと言った。


「それじゃ、じゃましたね」

「ああ、気にすんな、ここは暇だからなあ、他の人と話せて嬉しかったぜ」


 俺たちは林の中を戻った。


「すごい仕事があるのね」

「ああ、大きいクランだとやくざ組織がバックに付いてる事も多いからね」

「迷宮では宝箱はこうやって占有されてるの?」

「中層まではね、深く潜ればライバルパーティも居なくなるので宝箱も手に入りやすくなるよ」

「それまで我慢なのかー」

「十階ごとのフロアボスは良い宝箱をドロップするよ」

「おお、レア箱、レア装備箱、夢がひろがりますなあ」

「僕の時はレア装備箱が出たよ」

「わ、何が出たの何が出たの?」

「魔法の剣が出たよ、うちの前衛が使っているよ」

「わあ、いいなあいいなあ、私も早くフロアボス倒したいなあ。ガチャとか大好きっ」


 まあ、レベルを上げるしか無いな。


 林から出ると怪しい着流しの男がいた。

 む、結構な高レベル冒険配信者だ。

 腰には日本刀を差している。


「お初にお目に掛かる、シンデレラマザコンボーイ、タカシ殿! 拙者の名前は蝉丸! 人斬りちゃんねるの蝉丸でござるっ!!」


『人斬りきたーっ!!』

『蝉丸せんせーっ!!』

『戦闘狂キターーーッ!!』


 げげっ、有名Dチューバーだ。

 蝉丸はすらりと日本刀を抜いた。


「拙者はどうしてもタカシ殿のオカンと戦いたいのでござるっ!! ささ、勝負勝負!!」


 えーーー?

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