第3章 豪運少女(ラッキーガール)

第18話 叔父の家に迷宮道具を取りに行く

 放課後だ、泥舟たちとは地獄門の前で待ち合わせをする事にして、おじさんの家へ迷宮道具を取りに来た。

 俺のリュックがテーブルやベットと一緒に家の前に置いてあった。

 おお、これは助かる。

 ベットとテーブルはどうしようかな。

 ゴミ捨て場で拾って来た物だから捨てて行こうか。


 リュックを背負うと、門の所にいたおばさんと目があった。


「荷物を出しておいてくれてありがとう、助かったよ」

「捨てようと思ったのよっ」

「そうか」


 まあ、結果的に中に入らなくてすんだし、いいか。


「あんたは昔から無愛想な子で大嫌いだったわ、出て行ってせいせいするっ」

「そうか、おばさんも元気でな」


 俺の返事を聞いて、おばさんは崩れ落ち、門に体を預けて泣き始めた。


「お金をちょうだいよっ、お金が無いのよ、なによ、自分だけ成功してお金を独り占めして、酷いじゃ無いの」

「俺はもう行くよ、じゃあね」


 おばさんの繰り言に付き合ういわれは無い。

 二階の窓からみどりがこちらを見ていて目が合うとぴしゃりとカーテンを閉めた。


 おじさんの家には、五年間お世話になったけど、親切にはしてくれて無かったからなあ。

 もっと、あたたかい対応をしてくれていれば、迷宮で稼いだお金なんか全部やってもいいのだけれど、良い思い出は無いので、あの家には一銭も渡したくない。


 とりあえず新居に迷宮用品を運ぶことにした。

 今日は潜っても地下五階だから、そんなに本格的な準備はいらない。


 新居の前に着いたら、玄関で峰屋みのりと東海林三太郎が待ち伏せをしていた。


「あ、来た来た」

「あれ、地獄門前で待ち合わせだろ」

「うん、だけど泥舟君にタカシくんが一人暮らし始めたって聞いて見に来たの、あげてよあげてよ」

「峰屋さん、男子の部屋にあげてくれというのは、ちょっと危険だと思うよ」


 まったく、泥舟も口が軽いな。


「まあ、あがれよ」

「わーいわーい」

「しかし、一人暮らしか、良いな」

「東海林も稼いでいるだろ?」

「いやあ、狩りの上がりだけで、配信料は微々たる物だから、お小遣い程度だぞ」

「え、そんなに儲からないの?」

「峰屋さんなら配信料も入るし、結構行けると思うよ。女子配信はPV伸びるし」

「そうかなっ!」


 峰屋みのりと東海林を連れて、エレベーターで三階に上がった。

 お、ドアノブにガスと水道の開通通知が掛かっていた。

 素早いな。


「おーー、凄い、新築ねっ」

「結構良い部屋だな、ちょと狭いけどな」

「ガスも来てるんだ、今度なにか作りに来てあげようか」

「峰屋は料理できるのか?」

「ま、まあまあ」


 出来ない感じだな。


「部屋とキッチンと、トイレにシャワーか、最低限だな」

「いいなあいいなあ、一人暮らし、こんど仲間を呼んでパーティしていい?」

「やめろ」

「んもー、タカシくんのけちーっ」


 さすがに薄い関係の友達のたまり場になるのは避けたい所だ。

 俺はリュックを置いて、片手剣とバックラーを出し、ウエストポーチを腰に巻いた。


「すごい、プロっぽい装備」

「初心者セットだな、あまり良い物じゃないようだが」

「まあ、迷宮で拾った物だから」

「宝箱から出たの?」

「いや」

「ああ、死体からか」

「え?」


 初心者装備は質を問わなければ結構あちこちに落ちている。

 死体も落ちているが、そういうのは一晩するとスライムが溶かしてしまうか、迷宮に飲まれる。

 装備だけがぽつんと落ちている事が多いな。


「こ、こわいっ!」

「気にすんな、初心者装備なんか使えれば一緒だよ」


 バックラーはリボンちゃんの突撃で真ん中がべこりと凹んでいた。

 これは買い換えた方が良いかなあ。

 胸当てはお釈迦になっているが、浅い階では必要無いだろう。


「おーい、タカシー、帰って来たね、そろそろ行こうよ、ってあれあれ?」


 泥舟もやってきた。

 結局、俺の部屋での待ち合わせになったな。


 四人で連れ立って大師線に乗る。

 友達と迷宮に行くなんて初めてだな。

 なんとなく嬉しい感じだ。


 駅に着いた。


「最初は装備よね、どこに行くの?」

「峰屋の予算はどれくらい?」


 峰屋みのりは財布からブラックのクレジットカードを出してきた。


「好きに使いなさいって、お母さんが言ってた」

「金持ちだなあ」


 子供にブラックカード持たせるなよ。


「泥舟はどれくらいだ?」

「十五万持って来たけど、足りるかな?」

「まあまあの装備が買えるな。メインの槍は?」

「それは家から持ってきたよ。手槍ぐらいだけど大丈夫かな」


 泥舟は背中に背負った包みを開いた。

 中には1m20cmぐらいの手槍が入っていた。

 良い物らしくて柄の塗りが綺麗だな。


「泥舟くんの家は武器があっていいなあ」


 旧家のぼんぼんなんかは日本刀とか槍とかが伝わっているから、良い武器を最初から持てる事が多い。

 まあ、死亡して誰かがその名剣をパクっていく事も多いんだけどな。

 泥舟がそうならないように、しっかり教えないと。


「東海林は?」

「俺は『魔術師』ウイザードだからなあ、ローブしか着れないが他の装備は発動体の杖ぐらいで今は買う物はないな」

「えー、『魔術師』ウイザードはお得だなあ、将来の『吟遊詩人』バード用にリュートとか買った方がいいかな」

「「「なってから買え」」」

「えーっ」


 峰屋みのりは口を尖らせた。


「それよりも、峰屋は初期武器を何にするんだ」

「うーん、弓矢かなっ」

「ああ、初心者には良いかもな、遠距離だし、あとは短剣だな」

「え、接近戦は、やだけど、こわいし」

「弓を外したら、そのまま乱戦だぞ、短剣が無ければ殺されるだけだ」

「こ、殺されるのもいやなんですけど」

「迷宮では、自分の命は自分で守る、が基本だ」

「わ、解りました、教官」


 誰が教官かっ!



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