第17話 四人で学食へ行く

 廊下で泥舟を見つけた。


「タカシ、今日は学食か?」

「ああ、昨日は狩りが出来なかったからな」

「そう思った」


 前は学食なんかお金がもったい無いと思っていたけど、今は財布にお金があるからな。

 ああ、何だか心が豊かになるな。


「こんにちは~~、あなたがタカシくんの親友くん?」

「ん? だれ?」

「ああ、昨日言ったクラスメイト」

「はいっ、峰屋みのりと言います、よろしくねっ」

「山南泥舟です、よろしくね、みのりさん」

Dでぃーシュー?」

「ドロふねと書いて泥舟です」

「珍しい名前ねっ」

「えへんっ、峰屋さん、失礼だよ。僕は東海林三太郎だ。泥舟というのは幕末の三舟の一人、高橋泥舟氏にあやかった名前かな」

「よろしく東海林くん、そうなんだ、お爺ちゃんが槍の道場をやっていて泥舟氏のファンだったから孫にこんな名前を付けたんだよ」

「はわわ~、ごめんなさい」

「いや、いいよ、変な名前だけど、初対面の人に覚えて貰いやすいからね」

「泥舟くん、わたし、おぼえたっ」


 四人で学食へ行く。

 あいにく人が多くて席が空いてないな。


「混んでるわね~」

「おいタカシ、ここ今空くからゆずってやんよっ」

「後醍醐先輩」


 つっぱりの先輩が窓際の席でニッカリ笑っていた。


「ありがとうございます」

「かまわねえよ、気にすんなって」


 つっぱりの先輩たちは食器を片付けてテーブルを開けてくれた。

 五人いるけど、迷宮ぶっ潰し隊の人達かな。


「じゃあ、僕が席を取ってるから、みんなは買ってきなよ。タカシ僕には天ぷらうどんを買ってきて」

「わかった、たのむ」


 三人で券売機に並ぶ。


「泥舟くん、感じ良いわね」

「彼は成績良いだろう、テストの順位張り出しで見た事ある」

「学年のトップテンに居るよ」

「頭良いのねえっ、私は順位の書き出しに入った事ないようっ」


 俺は券売機で、カレーの食券と天ぷらうどんの食券を買っておばちゃんに渡した。


「あいようっ! あらやだ、タカシちゃんじゃないのっ、テレビでみたわよ、すごわねえっ」

「あ、ありがとうございます」

「うんもう、カレーのお肉サービスしちゃうわねっ」


 元気なおばちゃんはなんか、かーちゃんを思いだしてほっとするな。

 トレイに、天ぷらうどんとカレーを乗せて泥舟の待つテーブルに運んだ。


「ありがとう、わ、カレーに肉がいっぱいだ」

「タカシちゃんにサービスだそうだ」

「ああ、ニュースを見たのか、よかったなあ」


 東海林がカツ丼を持って、峰屋みのりがホワイトシチューランチを持ってテーブルにやってきた。


「学食のシチューランチ好きなのよぅ」

「何のシチューなんだ?」

「鶏のホワイトシチューよ、美味しいの」


 ふーん、今度頼んでみるかな。

 俺は学食のカレーも初めてだ。


「タカシパーティの結成を祝って、いただきます」

「僕は別パーティだよ、いただきます」

「パーティはまだ決めて無い、いただきます」

「あはは、峰屋さんは楽しいなあ、いただきます」


 ぱくり。

 うむ、カレーだ。

 駅中のスタンドとかで売ってるようなカレーの味。

 深みは無いけど、カレーだからなんだか食えてしまう系。

 そこにひれひれの豚肉が沢山入っていて、なんだか嬉しい。


「えー、パーティ組みましょうよう、タカシくーん」

「あくまで泥舟の装備を見に行くのと、迷宮を覗いて見るだけだよ」

「当然五階までだよな」

「ああ、さすがに五階から十階は初心者を連れていって守れる自信がない。東海林はあの区間、どうしたんだ」

「早足でフロアボスに行ったよ、五階から十階は魔物より人の方がヤバイからな」

「正解だ、十階を越すとアウトローはぐっと減るから」

「そんなに危ないの?」

「五階までがキーパーくんとか、正義厨に守られているから、ヤバイ奴が吹き溜まっているんだよ。マジで関わらない方がいい」

「新宮はそこを三年間、毎日か」

「まあ、俺は必要があったから」

「やだタカシくん、格好いい」


 峰屋みのりはサッチャンみたいなポーズを取った。

 あざといなあ。


「泥舟くんは将来何のジョブに就きたいんだい?」

「そうだなあ、やっぱり魔法系かな、リアルで槍も使えるんだけどね」

「それは凄いっ、であれば、『戦士』を経て、『軽戦士』から『魔槍使い』かな」

「そっちのジョブツリーは伸びているの? 東海林君」

「イギリスのトップチームの一人が『魔槍使い』のクラスチェンジ条件を見つけたという事だよ」

「いいね、調べてみるよ」

「迷宮研究サイトに論文が載ってたよ」


 迷宮のジョブシステムはまだ全て解明されてはいない。

 ステータス条件が複雑だったりするんだよな。

 まあ、まだ五年だから、上位職はほとんど開いていないと言っていいだろう。


「峰屋さんは何になりたいの? 魔法使い?」

「峰屋さんは『僧侶』から初めて『聖女』を目指すべきだと僕は思うね」

「ぶっぶー、『吟遊詩人』バードになりたいですっ」

『吟遊詩人』バード

『吟遊詩人』バード

「Dアイドルになりたいのか」

「そーよーっ、『吟遊詩人』バード一択! 歌って踊って戦える、スーパーDアイドルをめざすわっ!」


 峰屋みのりらしいと言えばらしいな。


 『吟遊詩人』バードはDアイドルの憧れの職業だ。

 与えられるコモンスキルに【心にしみいる歌声】【呪歌】【魅惑】等があり、配信動画になった際に恐ろしいまでの威力を発揮する。

 だが、歴史上、『吟遊詩人』バードになれたのは木の下ゆかり嬢只一人だった。

 所得ステータスの条件は解っているのだが、なにか特別なイベントかアイテムが無いとクラスチェンジ出来ないタイプのジョブだったらしい。

 世界唯一の『吟遊詩人』バード、木の下ゆかりはその歌声と美しさ、かわいらしさでDアイドルの頂点に君臨し、今日のDアイドルの隆興を築いたと言われている。


 その彼女は、人気絶頂期に軍隊殺しのドラゴンに焼かれて死んだ。

 最後の言葉は、『ドラゴンドラゴン、すごく綺麗』だったそうだ。


 今でも彼女の歌声動画は全世界で信じられないほどの再生数を稼ぎ、ディスプレイの中で歌い、踊って視聴者を楽しませている。

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